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006 本当に戻りたい夏
本当に戻りたい夏とはどんな夏だろう。
少なくとも、iPhoneはいらない、MacBookもいらない。GoogleマップもLINEもいらなければ、クーラーのきいたオフィスは不要だし、Netflixに甘やかされる必要もない。絶対ない。
本当に戻りたい夏とは、自分の足で道を走り抜けて、自転車があれば何処へでも行ける気がして、畳の上で戯れあって、小学生が将来の夢を話す時のような素直さを取り戻した夏かもしれない。
シャッターを切ろうとして諦めた花火とか、汗ばむ肌とか、飛び込んだ海とか、泣きそうになった縁側とか、太陽に照らされる水の輝きとか、帰り道の暗闇と静けさとか、そういうのをすごく、思い出す。
一回性の夏。どうしてこんなに懐かしいのかわからない。どうしてあんなに愛しかったのかも忘れた。でも忘れたことは全然忘れられない。一生忘れないと思うし、忘れたくないとも思う。
だから、書いておこう。
形ある物はいつかは壊れるし、形のない頭の中の思い出もいつかは薄れていく。写真の中の思い出もいつかは色褪せる。
思い出は、思い出せなくなったら終わりだ。
いつかまた一緒に思い出して語れるように、少しの付箋を貼っていこう。