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ヒデ(Hide)さんの闘病記です。
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#看護師

闘病記(70) サービス精神

闘病記(70) サービス精神

 今回のテキストは、とにかく短く書き上げようと思う。
 その分と言ってはなんだが、このテキストを読んでくださった(あるいは目にしてくださった)方は、ぜひ前回のテキストを読んでみてください。
日常生活で自分が直面する、乾いた血の色というか、緋色をした悔しさをできるだけ丁寧に書いてみたので。

 さて、今回ですけども。

 「むちゃぶり」。 
 国語辞典に掲載されていてもおかしくはないポピュラーな言葉

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闘病記(59)  出血。

闘病記(59) 出血。

 「赤松さん、昨夜どこかに頭ぶつけた?それとも、痒くて頭を掻き毟ったかな?」
介護福祉士の女性が心配そうに聞いた。ベッドで寝ぼけていた意識が急にしゃんとした。
「どちらも記憶にないなぁ。頭をぶつけてもいないし、特に頭が痒かったと言う記憶もないよ。」
そう言いながら上体を起こそうとすると、
「だめだめ、頭を強く打っている可能性もあるから動かないで。」
と言われ、元の体勢に戻された。「まずいことになっ

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闘病記(46)  くせになりそう。

闘病記(46) くせになりそう。

「しばらくの間、オムツをつけてトイレはベッドの上でしてしまうものと割り切りましょう。」
尿意に集中し、それを感じたらとにかく出してみることを習慣づける、という介護福祉士からの提案を自分は受け入れた。(この辺の経緯を説明していると、今回のテキストが終わってしまうので、興味のある方は45話あたりを読んでみてください。)
 それ以降、自分が身に付けるオムツには、パッドというものが付けられるようになった。

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闘病記(45)ヒーロー

闘病記(45)ヒーロー

 
 起きて活動をしている昼間はともかく、夜眠ってしまっている間、尿意が全くわからず夜毎おねしょを繰り返す日々が続くと、さすがに自身のことを「オネショマン」と自嘲する余裕もなくなっていった。
 バリバリと仕事をして忙しく働いているであろう同じ年頃の人たちを思い浮かべては、オムツをつけて夜毎のおねしょに悩み、怯える自分をどんどん嫌いになっていく。
 夜はほとんど熟睡できず、「これは尿意かな?」と思う

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闘病記(44) 真夜中の記憶

闘病記(44) 真夜中の記憶

 
「何という気持ちの良い朝だろう。ぐっすり眠るとこんなに頭がすっきりとするものなのか。」充実感のような不思議な気持ちと共に目を覚まし天井を見つめていた。横になっている自分の右側から光が差し込んで、「きれいな朝だな。こんな気持ちになれたのは久しぶりだ。」そう思っていた。その時、
「おとーさん、起きた?」
と言う声が聞こえた。天井を見つめていた視線を、反射的に声のするつま先の方へと向けた。両側に2人

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闘病記(43)  オネショマン

闘病記(43) オネショマン

前回投稿したテキスト「採尿パーティー」のnoteに40を超える「スキ」を頂戴し、フォローをしてくれる人も増えた。とってもうれしい。皆さんの応援を無駄にすることなく、これからも丁寧に書いていこうと思う。
 さて、自分はようやくバルーンを取り外せたわけだが、何より驚いたのは病院内の人々が大変に喜んでくれたことだった。あんなに喜ばれるとは思わなかった。バルーンが取れた翌朝、車椅子を押してもらってリハビリ

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闘病記(42)採尿パーティー

闘病記(42)採尿パーティー

 「赤松さんから600mℓいただきました!」
これ、尿の話。これまでの経緯を知らずにタイトルを見た人は、もしかすると眉をしかめるかもしれないけれど、内容はいたって真面目なのです。「トイレトレーニングがうまくいかず、リハビリ病院に入院してからもなかなかバルーンが取れないことに悩む脳幹出血患者の、ジェットコースターのような日々の記録」。少しでも興味のある方は、是非(38)話あたりから読んでみてください

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闘病記(41)  チャンス到来

闘病記(41) チャンス到来

 
 「家族に協力してもらいながらバルーンをつけたままの生活を送る。」「自己導尿を行う。」この言葉たちが頭の中をぐるぐると回り、眠っていても悪いイメージが布団の上からおおいかぶさってくるような日々が続いた。
加えて、家族、主治医、担当看護師らと行う面談の時間が、絶望感にとどめを刺した。 
自分は、主治医から、
「検査の結果は厳しいものとなりましたが、退院までにまだ時間があります。バルーンが取れるよ

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闘病記(40) 「いやだよ。」

闘病記(40) 「いやだよ。」

 この「闘病記」が40話目を迎えた。書き始めた当初は、ただただ自分のために書いていたような気がする。
 やがて、「自分と同じ境遇にある誰かの目に触れて、少しでも気持ちが軽くなってくれればいいなぁ。」と思いながら書くようになった。
 それに加えて、今では「自分のために(仕事とは言え)一生懸命リハビリをしてくれたり、ケアをしてくれたりした人々に、スポットライトが当たるような内容になればいいな。」と思っ

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闘病記(38)   イニシャルb

闘病記(38) イニシャルb

 
 入院している患者に、
「病院にあるものや入院生活に関係するもので、bから始まる英単語を1つ言ってみてください。」
と質問したとしよう。(無茶振り以外の何物でもないが)どんな答えが返ってくるだろうか?(この際「うるさい!」「知るかそんなもん!」といった反応をする入院患者は1人もいないと仮定します。)
 自分が考えるに、圧倒的な第1位は「bed(ベッド)」ではないかと思うのだ。そして第2位が、「

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闘病記(36)  回復期病棟のお風呂事情

闘病記(36) 回復期病棟のお風呂事情

 
「お風呂は1日おきで、機械浴になります。」
「はい。」
リハビリ病院に転院したとき、パンフレットかプリントのような物の1行を指差しながら声に出して説明をしてもらった。「はい。」とスムーズに答えはしたものの、
「機械浴って何?」
初めて耳にする言葉だった。
「機械浴ってどんなお風呂なんですか?」
と、質問できるような、親しい知り合いはまだ病室にいなかったし、自分でイメージしてみるしかなかった。「

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闘病記(35)  回復期病棟の トイレ事情

闘病記(35) 回復期病棟の トイレ事情

 回復期病棟の患者のほとんどは、車椅子で移動する。いわゆる大部屋から、食堂、風呂場等は離れた場所にあり、足や腰を痛めたり、脳出血や脳梗塞で歩けないという人たちにとって車椅子での移動は必須だった。そして、トイレもまた離れた場所にあった。(もちろん部屋によっては、近い場所になる人もいたが、それでも1人で移動する事はできず看護師さんや介護士さんとともに車椅子で移動した。)
 自分がトイレを使ったのは、最

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闘病記(34)  じゃんけんおじいちゃん。

闘病記(34) じゃんけんおじいちゃん。

 
 
 ベッド右側の窓から差し込む朝日と、左耳から聞こえる柔らかな笑い声で目が覚めた。他の患者を起こすまいと言う配慮からであろう、笑い声は抑えられてはいたが、そこにいる誰もがお腹を抱えて笑っているのが分かった。起床の時刻を知らせ、着替えの手伝いなどをするためにやってきた看護師や介護師の皆さんだった。
 笑い声の合間に、小さいながらゆっくりはっきりとした声が聞こえてきた。
「〇〇さん、じゃあ行くよ

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闘病記(33)バナナ は どうする ?    ふりかけ は ?

闘病記(33)バナナ は どうする ? ふりかけ は ?

 お年を召した多くの方々が、車椅子に乗り壁際に1列に整列をしている様は壮観だ。キラリと光る車いすの金属部分と、虚空を見つめるかのような(実は眠いだけかもしれないが) 視線が相まって、実に厳しい人生を乗り越えてきた人々の集まりのようなオーラを放っている。
 そんな人たちの中でまだ若造の自分は、聞こえるか聞こえないか位の声で
「おはようございまーす。」と挨拶をしながら、列の末尾に並ぶ。こうして毎日7:

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