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悲しき熱帯魚(小説)

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人魚姫をベースにしたせつない話です。
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#花魁

悲しき熱帯魚 6章

 二人が溶け合った後、甘い眠りを貪り、数時間後に吉野が先に目を覚ました。

 吉野は、龍太郎の寝顔を愛おし気な表情で眺めた。懐かしい気持ちがついつい浮かんでくる。そっとその額に触れようとしたときに、男の目はゆっくりと花が咲くように開いた。吉野は、やんわりと微笑み、龍太郎の唇を優しく撫でた。龍太郎はゆっくりと起き上がると、吉野と唇を合わせた。

「あなたと一緒にいたい、ずっと」

 唇が自由になると

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悲しき熱帯魚 5章

 部屋全体は薄暗く、行灯の炎がゆらりゆらりと蠢いていた。熱帯魚の影も障子に大きくゆらめいている。遠くからは、三味線や男と女の笑い声が薄っすらと聞こえてくる。緩やかであるが音と鮮やかな色彩の洪水のなかで、龍太郎は、なぜか心が休まった。吉野になら隠し事をせず、何でも話し尽くしてしまいそうだった。

 龍太郎は、夜の帳が下りたもとでその空気を呑み込むように一呼吸し、先を続けた。

「親父は、その時、なぜ

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悲しき熱帯魚 4章

 暫く杯を重ね、雑談をした後、龍太郎は「人生には色々な時期というものがあるものだ」とふと呟いた。吉野は何も言わず、相手の眼を見つめて頷いた。そして、「そろそろ二人でお話でもしましょうか」と誘いを掛けた。今度は、龍太郎が静かに頷いた。

 二人は吉野の部屋に場を移した。

 部屋に一歩入ると、挑発的な色をした寝床がまるで次を促すようにそこにあった。部屋の中は、白檀の甘い匂いが漂っている。寝床の横には

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悲しき熱帯魚 3章

 その夜、自分が一番お気に入りの橙色に艶やかな空色の襟回りの着物を着流して、吉野は龍太郎の座敷に少し遅れて入っていった。既にちょびちょびと他の女たちに酌をしてもらい、龍太郎は杯を進めていた。

「遅くなってしまって、すみません」

 座敷の入り口で三つ指を付き、吉野は優雅に挨拶をした。

「そんなことはどうでもいい、早うこっちへ来い」

 冷静な態度で、龍太郎は自分の隣の席に座るように促した。今ま

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悲しき熱帯魚 2章

 男の名は、井沢龍太郎といった。家が裕福な商いを行っていたので、金には幼いころから不自由したことがなかった。仲間に連れられて、早い時期から遊郭通いをするようになった。

 財力があるだけでなく龍太郎は、いつも流行の柄をぞろりと着流しており、歌舞伎役者なら必ず看板役者になれるぐらいの人の目を引くような男前だった。すっきりとした鼻筋に切れ長の目。龍太郎が通ると、振り返る女たちは多かった。

 龍太郎は

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