【きょうのお茶飲み】元ドライバーが話す業界の闇。2024年問題って?
きょうのお茶菓子
「麻布野菜菓子」野菜のフィナンシェ
しょうが
紫芋
ごぼう
野菜が練り込まれたフィナンシェ。
しょうがは砂糖漬けされていてしっかり甘い。紫芋は芋の甘みは弱いけど、鼻から抜ける風味がほんのり芋。上に細かく刻んだ栗が載せられていて良いアクセント。ごぼうは味の奥のほうにごぼうを感じる程度。上に載ったラムレーズンのふんわり香る酸味と甘みが美味しい。
URL載せておきます(オンラインショップあり)
「麻布野菜菓子」
2024年問題ってなんぞや
2024年問題とは、知らない人のために簡単に説明させていただく。
2024年4月から、お医者さんや建設業者さん、そしてドライバーに対して労働時間の上限が設けられることになった。
それまではどうだったのかというと、事実上、労働時間の上限は無かった。会社が労働組合(労働組合がない会社は労働者の代表者)と就業規則さえ結んでしまえば、無限に働かせることが可能だった。
この法改正によってドライバーは今まで通り働けなくなるので、物流が滞ってしまうのではないか。あら大変だ。というのが2024問題のあらましである。
それから2か月経ったけど、実際のところどうなのか
ここからが本題だ。
実際、業界はどのように変化したのか?。
はっきり言おう。ほとんど変わらない。とんでもない肩透かしである。
なにがどう変わらないのか。なぜ変わらないのか。問題ごとに見ていく。
問題1 改ざんし放題の運行記録計
他業種の人は耳慣れないかもしれないが、トラックには運行記録計という装置を付けなければならない。
この装置で分かるのは、走行速度、走行距離、そして走行時間である。つまり、ドライバーの勤務時間をこの装置で確認するのである。いわばタイムカードのような役割だ。
この装置には2つの種類がある。1つは電磁記録によるデジタルタコグラフ(通称デジタコ)装置。もう1つは円盤状の紙を装置にセットし、印刷するアナログ式のタコグラフである。問題は後者のアナログ式の記録計だ。
これが改ざんの温床となっている。
アナログ式は印刷用紙を装置にセットしなければならないと説明したが、これをセットするのは他ならぬドライバー自身である。そして、印刷用紙の挿入・取り出しは任意のタイミングでできる。
つまりどういうことか。ドライバー自身が自分の勤務時間を好き勝手に操作出来るということである。
もちろん運行記録計を正しく作動せずに運転をすることは違法である。もし記録が行われないまま重大事故が起きれば、ドライバーも、運行を指示した管理者も社長も重い刑事罰を受ける。
だが驚くべきことに、全国の中小、零細企業の大半が会社ぐるみで運行記録計を改ざんしている。
一方のデジタル式は時間などの情報がメモリーカード等に電磁的に記録されるので、アナログ型よりはずっと改ざんしずらい。ならさっさとアナログ型なんて危険な装置は廃止して、全国一斉にデジタコを導入すればいいじゃないかと思うだろう。私もまったく同感である。なぜそうならないのか。理由は3つある。
デジタコ普及が進まない理由1 導入コスト
1つは購入価格の差である。
目安だが、アナログ型の導入には5万円前後、対してデジタル型は10万円以上と、少なくとも倍の値段がかかる。
デジタル型の導入には国交省から補助金が出る場合があるものの、上限額はたった2万円。補助金が全額出たとしても、アナログ型を買った方が安い。
このへんの感覚は役人らしいと言わざるを得ない。全国の運送会社がどれだけ経営がひっ迫しているのか、数字上では分かっていても、実感という意味ではたぶん分かっていない。
事業主は目先の金の動きに厳しいので、もちろん1円でも安い方を買う。
デジタコ普及が進まない理由2 電子機器に極端に疎い
古くからいる事務員であればあるほど、電子機器に対する苦手意識を持っている。「俺はパソコンのことはよく分からない」とはなから理解する気がない人が無い場合が多い。そもそも電子情報を管理できないのだ。
いや、まさか。それは言い過ぎだろうと反論を受けるかもしれない。だが長くこの業界に身を置いてきた限りでは、運送会社の多くが絶望的なほどにITに疎い。
私の会社でも「~さんへメールを送りたいんだけど」「この写真を印刷するにはどうしたらいいの」なんて会話が飛び交う始末であった。そのような人々が運行記録計等の情報をデジタル管理するのは、はっきり言って不可能である。
デジタコ普及が進まない理由3 改ざんの為にあえて導入しない
これが最も多い意見で、本音だろう。
どの会社も改ざんの為にあえて導入しないのだ。
2024年問題は、問題として業界に浸透していない。事業主が本当に問題視しているのは会社の存続だけだ。
現状、労働時間を守った会社から損をする。モノが普段通りに運べなくなる。荷主から契約を切られる。会社が倒産する。だから守らない。それだけのことだ。
問題2 そもそも思ったように休めない
トラックドライバーというのは職業の特性上、好きな時、好きな時間に休むことが出来ない。
道路を走っていれば渋滞もある、思わぬ通行止めもある。元も子もないかもしれないが、ドライバーからすれば規則だけが独り歩きしている感がある。
実例を挙げよう。
さて、田舎のだだっ広い土地に納品するなら良いが、都心や繁華街なんてまともに停車する場所もない。しかも平日都心の通勤ラッシュの時間帯に決まった場所に来いなんて指示が出ていたりする。もはや至難の業であるが、ドライバーは日々これをこなしているのだ。当然、休む暇なんてない。
また、トラックが大きければ大きいほど停車場所に苦心する。あるいは住宅街を走行する宅配便のトラックなんかも常に頭を悩ませている。ドライバーなら誰しも「近隣の迷惑にならないように」停めなさいと指示を受ける。しかしはっきり言うが、全ての近隣の迷惑に配慮していたらトラックは停められない。
トラックをどこに停めるか、これはドライバー歴が長いほど経験的に多くの選択肢を持っている。しかもベテランの感覚はすごいもので、そのポイントからどのくらいの時間走行したらどこまで行けるという情報がパッと思いつくのだ。だがそうでない、入社してまだ数年のアマチュアドライバーに制度としてそれを要求するのはいかがなものか。事実としてこういったことが長時間労働の要因の一部であることは間違いない。
問題3 輸送コストの上昇と上がらない運賃
新型コロナやロシア・ウクライナ戦争等の影響、歴史的な円安のあおりを受けて輸送コストも上昇している。
軽油、尿素水(トラックが走るためには尿素水が必要)、タイヤ、車両価格など、運送業を営む上で必要不可欠と言えるこれらの価格が、数年前とは比べ物にならないくらい上がっており、業界全体がのっぴきならない状況だ。
本来であればそれに比例するように運賃も上昇しなければならないはず。だが実際、値上げの動きはほとんどない。
なぜ運賃が上がらないのか。理由はいくつか挙げられる。
運賃が上がらない理由
運送会社に営業能力がないから
力関係が「荷主>運送会社」だから
多重下請けの構造が根強いから
これも1つずつ見ていこう。
運送会社に営業能力がないから
運送業界は極めて閉鎖的だ。会社がなにか新しい仕事を引き受ける場合、そのほとんどが”誰かの口利き”であることがほとんどである。
「知り合いの~さんの紹介で頼まれて」「運転手仲間からのつてで」、そんな風にして仕事の契約をする場合がむしろ一般的だ。
逆に言うと、運送会社のほうから「こんな車で、普段こんなものを運んだりしているのですが、契約しませんか?」ともちかけることの方が珍しい。
そもそも一般企業なら当然のようにある「営業」という部署すら、中小の運送会社にはない。
この営業能力の無さが、運賃はもちろんのこと、会社経営、はては業界全体を停滞させている。
じつは国土交通省から荷主にむけて「標準的な運賃」というものが告示されていて、各運送会社はそれを基に「運賃交渉」をしてくださいね、ということになっているのだが、業界自体に交渉力が欠如しているのでほとんど機能していない。
営業能力がないとは言い換えればコミュニケーション能力が不足しているということだ。業界全体のコミュ力の低さが、荷主と運送会社の主従関係の溝を大きくしている。
力関係が「荷主>運送会社」だから
さすがに運送会社も経営が苦しくなれば、運賃交渉の舞台には一応立つ。
だが、荷主から返ってくる返答は決まってこうである。
「今の運賃を上げるというなら契約を切る」。
そう言われてしまえば、運送会社は何も言えない。実際のケースは「高速代を少しだけください」「燃料のサーチャージを」など小手先の交渉でなんとか繋ぎとめることが多く、それに耐えられなくなった会社から交渉決裂となり、潰れていく。
また、なかにはクレイジーな運送会社もいて、圧倒的に低い運賃で契約をもぎ取っていくところもある。そういう会社は薄利多売で、違法な過積載や過重労働で利益を得ている。
悲しいことに特定の荷主は見て見ぬふりをする。要は安けりゃなんでもいい。なんかあったらおたくのせいでしょと高をくくっている。そういう違法なライバル会社に太刀打ちできず、あえなく撤退というケースもしばしばだ。
多重下請けの構造が根強いから
運送会社には営業能力がないと説明したが、例外がある。
それが「水増し屋」(通称:水屋)と呼ばれる存在だ。
水屋とは、トラックを持たない運送会社のことである。
あまりピンとこないかもしれないが、要するに「営業能力に特化」した運送会社である。
彼らの仕事は配送依頼の横流しである。水屋からほかの運送会社に、もしくはほかの水屋に「こんな仕事があるんですがどうですか?」と声をかける。そうやってどんどん下請けに回していくのだ。
このような多重下請けの構造が業界には根深い。営業能力が無い会社ほど、この水屋に依存している。
しかし、水屋からの仕事は基本的に儲からない。当たり前だ。仕事が下に回るほど途中でマージンを抜かれる。たとえ荷主が適正な運賃を支払っていたとしても、実際に仕事をする会社にはほとんど実入りがないケースが多い。これではいくら運賃が上がっても意味がない。
余談だが、水屋から回ってきた仕事というのは、いわゆる汚れ仕事であることが多い。搬入経路が狭い、待機場所がない、客先の態度が異常に悪い等、元請けの運送会社が断るような仕事が下に回されるのだ。
しかも、仕事が複数の会社を経由しているので、責任の所在が不透明である。トラブルが起きやすい仕事なのに、いざという時誰に連絡していいかわからない、なんてこともままある。
儲からないのにリスクだけ大きい。
そのことを運転手もよく理解している。「しょせんうちの会社は”水屋仕事”だからよ」と自虐的に嘆くドライバーも少なくない。
問題4 圧倒的な人手不足と”帰りたくない”ドライバー
人手不足については、今さらどうということも無いだろう。運送業界でない人たちにもドライバーの数が不足していることはワイドショーなどを通して伝わっていると思う。
では、帰りたくないドライバーとはどういうことなのか。
私もいまだに信じられないことだが、実際問題として、長時間労働が好きなドライバーが一定数いるのだ。
昭和の感覚なのだろうか、「ドライバーは長い時間運転してナンボ」という価値観がいまだに残っている。さらにそういう人は頑固な傾向が強く「俺はこういう働き方しかできない」と取り付く島がない。
そういう人たちは仕事が終わって会社に帰着してもなお、グダグダ残っていたりする。私はそれが不思議で「帰らないんですか?」とたびたび聞いたことがある。するとどう返ってくるか。
「家にいても暇なんだよ」「女房に煙たがられるから」
やはり、共感できない。
そして、このような長時間労働を生きがいとするドライバーが、働き方の停滞に拍車をかけている。
会社にきちんと帰ってくるドライバーはまだ良い。だが途中で意味もなく寝泊りしたり、高速指示が出ているのに走りなれた下道を走ったり、運行記録計を止めたまま走行したり、とにかく法改正を受け入れる姿勢が無い愚行が目立つ。
残念ながら会社や管理者もまた、そのようなドライバーを野放しにしている。見て見ぬふりをする。運行記録計の改ざんを促したりさえする。なぜか?人手不足だから。辞めてもらっては困るから。下道を走ってくれれば高速代が削れるから。これが2024年の実態である。
じゃあ労働時間を守るにはどうすればいいのか
もはや行政のテコ入れ以外に方法は無いと私は思う。
具体的なポイントは以下3点である。
全国の運送会社でデジタコの一斉導入
運賃の下限制限
多重下請けの制限
同時に懸念点もある。
体力のない会社は潰れる
長時間働くしかできない、能力の無いドライバーは職を失う
物価が上昇し、デフレに拍車がかかる
ほんとうにドライバーの長時間労働を是正したいなら、今挙げたことを同時に進めるべきだ。ともすれば、案外スムーズに解決するのではとすら思う。
もちろん懸念点で挙げたように、資本力の無い小売店や運送会社は潰れるだろうし、多くのドライバーが職を追われるだろう。物の値段が上がって消費者から悲痛な叫び声が上がることは明々白々である。
だが、それでも私は取り組むべきだと思う。
冷たい言い方かもしれないが、正直それで潰れるような会社はそれまでだったということに尽きる。職を追われるドライバーも同様だ。今まで自分の市場価値を高めてこなかったのが悪い。
消費者の感覚もどうかしている。今日頼んだものが明日届くなんて普通おかしい。スーパーの陳列棚を見ていても、こんなに安いなんて……と逆に驚く。
なぜここまで言い切るのかと問われれば、やはり私が元ドライバーであるからかもしれない。
長時間労働はドライバーを蝕む。私も過去「寿命を削って走っているな」と思いながら運転していた。
そのころの睡眠時間は1日3~4時間。あまりの過労と眠気で、過積載の車で赤信号をぶっちぎったり、高速道路の車線をまたぎながら走行したり。
カフェインの塊のようなエナジードリンクをトラックに常備して、心臓をバクバク言わせながら走行していた。
今でもトラック運転手による重大事故のニュースを目にするとぞっとする。私も死んでいたかもしれない、殺してしまっていたかもしれない、と我が身のことのように思う。
そのような痛ましい事故を一件でも減らすこと。
いま問題解決に向けて必要不可欠なのは、強い政治的主導者の存在だろう。だがデフレ脱却を謳う政府から、そのような責任が取れるリーダーが現れるとは到底思えない。
この先の最も現実的な見通しとしては、やはり自動運転化が進むのかなと思う。もはや人間が働くのは限界である。
自動運転なんてまだまだ先の話、そう思っていた時期が私にもあったが、トラックの実走実験はとっくに始まっているし、一部では無人バスがすでに走っていたりする。荷積み荷卸しもフォークリフトみたいなロボットがもう一部で実用されている。
寝不足でクタクタの老人ドライバーとAI、どちらがより安全か。答えは言うまでもない。この先ドライバーという職業は間違いなくAIが取って代わる。そうなれば結局はドライバーは職を失う。
結論
2024年問題はいずれ自動運転が解決する。現役ドライバーはさっさと転職しよう。