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2019年1月の記事一覧
掌編 「向かい合う・すれ違う」
鏡は異界への扉だと信じられている。そこへ写るのは、まぎれもなく自分自身だというのに、人は懲りずに、こことは違う世界を望む。当然、そこではぼくという非力な存在は、今と同じように路傍の石でしかない。
鏡を見ることに恐怖を覚えたのは、中学生の時だった。朝起きて、寝癖を直すことくらいにしか、鏡を使ってこなかったぼくは、ちょうどその頃、着飾るということを学び始めていた。新しい服を買ってきて、持っている服
掌編 「トリーネ・リィーシャ」
南洋の街に、女性飛空士だけの部隊が存在する。トリーネ・リィーシャはその部隊のエースで、花形であった。撃墜数は二十八、都市は十四の頃から飛び始め、飛行時間は帝国内でも最長、色素の薄い肌にブラウンの瞳と髪。肩まで伸ばした髪は、同室のリコが切り揃える。
元来、飛ぶことにしか興味のない彼女は、休暇を最も嫌うため、持て余した時間は読書か、リコに付き合って、暇を潰した。だからトリーネは、リコに好きに髪を切
掌編 「安楽椅子の午後」
ヨハンの声を聞き、シャーリーは右目をかばうように部屋を見渡した。
「そこだ、その椅子に座ってくれ」
書棚に向かっていたヨハンが彼の方へ振り返り、近くの椅子を指差した。シャーリーはそれをしっかりと目で確かめながら、窓の方へ近付き、冬だというのに、それを開け放った。
外からは乾燥しきった煙っぽい、煤の臭いが冷たい外気と共に入り込む。が、ヨハンはというと文句の一つも言わず、入り口の扉を閉めてから、