
まっすぐ足を前に出して歩くとは、どこに足を出すの ?
「まっすぐ足を前に出して歩きましょう」といいますが、あなたならどこに足を出すのが正しいと思いますか?
1, 体の中心線上。
2, 左右それぞれの股関節の前。
3, それ以外。
答えは、1 が正解なのですが、近年この質問をすると、2 と答える人がほとんどになっています。
私はこの事態に危険を感じています。長期的に見れば、体形の崩れから膝の障害へ移行していくからです。この変化は、説明を直訳的に理解した弊害です。
律儀な日本人にとって、「まっすぐ」という言葉は注意が必要です。
建物や工業製品には、「まっすぐ(直線)」を基にして直角や平行といった要素が見た目から重要ですが、人間にこうした要素をはめ込みすぎると破綻をきたします。なぜなら、人の骨格には、直角が無いからです。
例えば、下半身は骨盤に大腿骨が付着していますが、付着した大腿骨は、地面からの垂直に対して、約15度、内側に斜めに付着して股関節を形成しています。(図1-ア)その下の膝関節は、大腿骨と脛骨を繋いでいる角度は、正面から見て4度ほどX脚に付着していて、(図1-イ)その下の足首も垂直から3度ほど脛骨が斜めになるように付着しています。(図1-ウ)これが下半身の理想の骨格の状態で、「まっすぐな骨格」と表現します。人間にとっての「まっすぐ」とは、理想の配列であって、直線や直角ではないのです。他にも大腿骨は横や後ろに向かって反っていたり、股関節にはまる部分も骨本体から約120度だったりと、直線でも直角でもありません。(図2)
人間に必要なのは、見た目の直角や垂直ではなく、目には見えない重さや力の加わっている方向と、それを受け止める部分との関係が直角や垂直になるように体を使うことが重要なのです。その時の見た目の状態は斜めが正しいこともあるのです。


ちなみに、O脚・X脚といいますが、正常が4度X脚の176度の膝で、180度からがO脚で、165度からがX脚、です。つまり、実際にモモとスネの骨がまっすぐな膝はO脚の判断になるのです。
では、なぜこのように股関節は15度も内側に入っているのでしょうか。
それは、片足で立ちやすいためです。二本足で立っている場合、骨盤の中にある重心は両足の中心にあります。ところが、片足になったとき、そのままでは倒れるので、地面に付いている足の真上に重心が移動することでバランスを保ち片足でも立てます。つまり、15度内側に斜めになって、大腿骨が体の中心部を指すことで、どちらの脚が片足になっても、いち早く重心の真下に足を移動できるようになっているのです。安定のための工夫です。
ここで、歩きの条件を思い出してください。必ずどちらかの足が地面についていることが求められます。つまり、片足立ちになることが求められていて、歩くとは、片足立ちの繰り返しです。
これを踏まえて、歩くときに「まっすぐ足を前に出しましょう」の質問に対して、足をどこに出すべきでしょうか。
脚が垂直になるまで膝を伸ばしていなければならないので、そこでしっかり片足になれる場所といえば、足が重心の真下に来る体の中心です。つまり、歩くときの足は、体の中心線上に持っていくことが、人間の骨格から見た真直ぐ足を出すということなのです。
昔から、歩くときの足の運びが、二本線になるのはバランス感覚の弱い老人か歩きはじめの幼児。一本線になるのが青年から大人といわれています。一本線上に足を置いて歩くことが効率よく歩くための基本というわけです。
ちなみに、日本には武道のがあり、武道ではすり足が基本です。どの方向にも瞬時に移動できるように、重心を片足だけにかけないようにします。その場合、二本線上に足を運ぶことの方が理にかなっています。また、すり足ならば腕の振りも難波歩きのような、同じ側の手足を前に出す方法が楽でしょう。
しかし、通常の歩きにおいて、片足立ちの繰り返しの場合、逆側の手足を前に出すことで、力を打ち消すことができ、一本線上に足を運ぶことが快適になります。
日本人の歩き方は、外国人からは「おもしろい。カッコ悪い」など、もったいない印象を持たれています。それもこれも、片足立ちで立ちにくい足の運びをしているからです。その結果、ガニ股で、二本線上を足を運び、膝が曲がってしまうのです。
そして、さらに追い打ちをかけるのが、踵から着地して歩くことを重視するがために、体重移動がしにくいことです。
そのあたりは次の機会でお話しします。