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読後寸評

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読んだ本で感じたことを綴っています。 好きな作家はラディゲですが、最近よく読むのはジェンダー論。A4用紙1枚程度で、800〜1000字程の感想文です。
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#芥川賞

2024年下期の芥川賞受賞2作品を読んで

2024年下期の芥川賞受賞2作品を読んで

本(サンショウウオの四十九日)(2作品受賞なので、長文失礼します)

今年下期の芥川賞受賞作品です。受賞作は文藝春秋を買ってきて毎回読んでいますが、今回は読む前から様々なメディアに取り上げられ、特に結合性双生児をテーマにした作品ということで、ひときわ話題になっていたと思います。

結合性双生児といえば、個人的な記憶ではベトナム戦争での枯葉剤の影響で生まれた男性の双子を思い出してしまいましたが、どう

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2024年上期芥川賞を読んで「東京都同情塔」

2024年上期芥川賞を読んで「東京都同情塔」

本(東京都同情塔)(ネタバレあり、長文失礼します)

2024年上期の芥川賞受賞作品です。今回の主人公は女性建築家で、従来の受賞作品の主人公と比較すると異色といっていいかもしれません。ニューヨークでの設計事務所のアシスタントを経て37歳で片仮名の設計事務所を主宰し、メディアの取材も受けながら秘書もいる、さらに国際的なコンペにも参加できる著名な建築家という設定です。

長年建築業界にいる私としては、

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2023年下期芥川賞を読んで「ハンチバック」

2023年下期芥川賞を読んで「ハンチバック」

本(ハンチバック)

2023年下期芥川賞を受賞した話題の作品です。作者の市川沙央さんは身体障害者であり、主人公も同様の障害者として描かれています。
筆者には同様の障害を抱えた姉がおり、当初の作品は姉を当事者として書いていたが、今回の作品は自分自身が当事者として書いたと、受賞インタビュー記事で述べていました。

よってこの作品は作者自身のほぼ実体験を基に描いたものであり、同じ芥川賞受賞作品では「苦

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2023年芥川賞上半期受賞2作品を読んで

2023年芥川賞上半期受賞2作品を読んで

本(この世の喜びよ)(荒地の家族)

2023年上半期の芥川賞受賞作品です。今回は2作品の受賞で、両作品ともに日々の生活での出来事を淡々と描いたものですが、「荒地の家族」は東日本大震災がモチーフになっています。

「この世の喜びよ」は、ショッピングセンターの喪服売場で働くパートの女性が主人公で、読みながら、高瀬隼子さんの受賞作「おいしいごはんが食べられますように」の描写を思い出してしまいました。「

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職場の人気関係を描いた芥川賞受賞作品「おいしいごはんが食べられますように」

職場の人気関係を描いた芥川賞受賞作品「おいしいごはんが食べられますように」

本(おいしいごはんが食べられますように)

今年下半期の芥川賞受賞作品です。毎回受賞作は文藝春秋を買って読んでいますが、今回は職場の人間関係を取り扱ったもので、筆者自身が会社員のためか、実体験を基にしたと思われる描写が数多くあります。

文体は、三人称と主人公の男性と同僚の女性が語る一人称の3つに分けられて、それぞれが職場の人間関係への本音を吐露しながら、物語は進行していきます。

まさに実際の会

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最注目文学賞を分析した本「教養としての芥川賞」

最注目文学賞を分析した本「教養としての芥川賞」

本(教養としての芥川賞)(長文失礼します))(一部敬称略)

文学賞で最も注目される芥川賞について、過去の受賞作品を挙げながらその傾向と意義を述べた本です。文芸評論家の重里徹也さんと日本文学研究者の助川幸逸郎さんが対談形式で、それぞれの作品を批評していきます。

取り上げられた受賞作品は全部で23作、第1回受賞作品の石川達三の「蒼氓」から始まり石原慎太郎の「太陽の季節」と続き、最後2作品は綿矢りさ

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今年上半期の芥川賞受賞を読んで

今年上半期の芥川賞受賞を読んで

本(ブラックボックス)(ネタバレありです)

今年上半期の芥川賞受賞作品です。筆者の砂川文次さんは、1990年生まれの元自衛官で、現在は地方公務員です。

主人公は、配送会社に登録して自転車で書類などを配送する仕事をやっていて、流行のウーバーイーツなどの宅配と同じ個人事業主という設定です。
小説の前半はバイク便の日常を描いており、自衛隊出身の主人公と筆者を重ね合わせながら、これは実体験をベースにし

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今年下半期の芥川賞受賞作品2作を読んで

今年下半期の芥川賞受賞作品2作を読んで

本(貝に続く場所にて・彼岸花が咲く島)

今年下半期の芥川賞受賞作2作品です。共に女性で「貝に続く~」の作者、石沢麻衣さんはドイツ在住のドイツ美術史研究者、一方の「彼岸花が~」の李琴峰さんは台湾出身で母国語でない人物の芥川賞受賞は、確か2作目だと思います。

「貝に続く場所にて」は、ドイツの小都市で美術史を専攻する主人公が東日本大震災で亡くなった友人(幽霊)と再会する物語で、現実と幻想が交錯する展

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