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ドリーム・チャイルド

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サイバーゴシックファンタジー『仮面師は微笑う』第5話(ウィングス文庫『Tears Roll Down ティアーズ・ロール・ダウン 2』第2話)。 〈白の王〉からの残酷なる贈り物─…
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記事一覧

Ⅰ.禍夢《まがゆめ》

『──その黒衣は喪服なんだね』

 同情を装いながら露骨な嘲笑を含んだその声が、毒の滴りのごとく心を腐食させてゆく。

『可哀相に……』

 ミラーグラスの向こうから注がれる視線。すべてお見通しだよ、と無言のうちに威圧される。

『贈り物を届けてやろう』

 声にならない笑い声が、じわじわと首を絞めつける。

『楽しみに待っておいで、ウィルフォード』

 ──あれは、何だ?

 赤黒い塊。

 ギ

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Ⅱ.からっぽのお墓-1

 鈍色の雲が空を走る。六月の澄んだ光がところどころ遮られ、瑞々しい緑の芝生にこもれびのような濃淡を刻んだ。

 レイヴンは黒衣の胸元に真紅の薔薇を抱えて墓地を歩いていた。きれいに刈り込まれた芝生に立木が静かな緑陰を投げかける様は、よく整備された公園のようだ。実際ここは〈煉獄《シェオル》〉の住民にとっては散策の場にもなっている。

 潮の香りを含んだ風が涼やかに吹きすぎた。墓地は海を見下ろせる断崖の

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Ⅱ.からっぽのお墓-2

「──チェシャ猫さん、ちょっと店をお願いできますか?」

 グリフォンの声に、客席を片づけていたチェシャ猫が振り返る。

「いいけど……、俺、エスプレッソしか出せねぇぞ?」

 困惑顔でチェシャ猫は眉を下げた。彼は先月からウィンターローズでアルバイトを始めていた。自分の都合優先だからたいして当てにならないが、レイヴンは別段彼の働きに期待しているわけではないらしい。

 店のものを壊さなけりゃいいさ

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Ⅲ.虚夢《そらゆめ》-1

 そわそわしながらカフェの入り口を窺っていたチェシャ猫は、戻ってきたグリフォンを見てホッと安堵の表情になった。

「遅かったじゃねーか! どういうわけか、こういうときに限って手作業の注文ばかり入ってよぉ。もうどうしようかと」

「すみません、チェシャ猫さん」

 買ってきたものを片づけるのは後回しにしてグリフォンはオーダーを確かめた。それぞれの注文に応じた豆を用意し、挽いている間にサーバーをセット

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Ⅲ.虚夢《そらゆめ》-2

「しっかしこの顔、どっかで見たことあるような気がするなー。誰だっけ」

 チェシャ猫が首をひねる。幼女はきょとんとグリフォンを見た。夜明けの空に似た色の瞳……、レイヴンよりも少し濃い。

「……そういえば、お名前を聞いていませんでしたね」

 気を取り直して尋ねると、幼女はびっくりしたように目を瞠り、いきなりぽろぽろと落涙し始めた。

「ひどぉい……。エイダのこと忘れちゃったの? パパ……」

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Ⅲ.虚夢《そらゆめ》-3

「ともかくさ。この子、レイヴンとこに連れてけよ。まさか捨ててこいとは言わねーだろ。……いや、どうかな?」

 首をひねるチェシャ猫にグリフォンは苦笑した。

「今いないんですよ。いつ戻ってくるかも、ちょっと……」

 目を向けるとエイダはうとうとと舟を漕いでいた。

「おっと」

 スツールから落ちそうになるのをチェシャ猫が慌てて支える。

「寝かせておきましょう」

 グリフォンは店の奥に椅子を

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Ⅲ.虚夢《そらゆめ》-4

「───エイダ……?」

 薄青い瞳を瞠ったかと思うと、レイヴンは急に青ざめて顔をこわばらせた。

「ちょっ……、あんたねぇ……!?」

 アリスが幼女を睨んで声を荒らげると、彼はいきなり踵を返し、そのまま何も言わずに店を飛び出した。いつも悠然とした態度を崩さないレイヴンには珍しく──というか、ありえないほどの動揺ぶりだ。アリスは呆気にとられてぽかんとした。

「……何あれ」

 チェシャ猫がぼそ

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Ⅳ.HAPPY TOGETHER-1

(──エイダ……だって……?)

 店を飛び出したレイヴンは、青ざめた顔をこわばらせて雑踏を突き進んだ。

『*ママ*!』

 嬉しそうに叫ぶ幼い少女。慌ててそれをいさめるグリフォン。

『違いますよ、エイダさん。この人はママじゃありません』

『だって*ママ*だもん!』

 不平らしく唇を尖らせる幼女。幼いながらも端麗なその容貌は、いやでも*彼女*を思い起こさせた。

 メドラ。

 永遠に失わ

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Ⅳ.HAPPY TOGETHER-2

 ものすごく不本意だったが、レイヴンはやむなくドードーの肩を借りて自宅に戻った。店ではなく反対側の玄関から入り、自室へ直行する。仮眠用の長椅子に身を横たえると、レイヴンはにべもなく吐き捨てた。

「出てけ。おまえに用はない」

「なんつー言いぐさだよ」

 無愛想な応対には慣れっこのドードーも、さすがにムッとして言い返したが、顔を覆ってぐったりと沈み込む様子を見ればたちまち心配そうに眉を下げた。

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Ⅳ.HAPPY TOGETHER-3

 絶句するドードーにレイヴンは冷たく微笑した。

「どうしてこんな簡単なことがわからないのかな。──いいかい、ドードー。メドラは*どこにもいない*んだ。どんなに探し回ろうと、二度と会えはしない。それだけのことだよ」

 言葉に詰まったドードーは何とか反論しようとしたが、遮るようにレイヴンはぞっとするほど妖艶な笑みを浮かべた。

「いい加減にしないと、本当に犯すぞ?」

「……!? で……できもしな

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Ⅴ.夢見てるのはどっち?-1

 客が途切れると、グリフォンはにわかにレイヴンのことが気になりだした。

 識別シグナルの反応からしてすでに帰宅しているのはわかっていた。だが、ドードーがいきなり青い顔で飛び出してきたのには面食らった。彼は大抵まず店のほうに顔を出すが、玄関から入ってくることだって当然ある。にしても、あの様子ではレイヴンと一悶着あったに違いない。

(ちょっと行って見てこよう)

 今日はこの辺で閉めさせてもらうこ

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Ⅴ.夢見てるのはどっち?-2

 奥のドアが開く音にアリスは振り向いた。現れたグリフォンはウェイターのお仕着せを脱いでラフな恰好になっている。彼は静かにドアを閉め、いつもと変わらぬ穏やかな顔で店内を見渡した。

「客ならもう全部引き上げたぜ?」

 毒トカゲを思わせるギラギラした深緑のネイルを塗り付けながら、顔も上げずにチェシャ猫が告げる。彼も既に着替えて私服姿だ。黒いランニングの上に柄もののシャツを引っかけ、ベルトや紐飾りがあ

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Ⅵ.Sweet Trap-1

 店の前でチェシャ猫と別れ、グリフォンは最初にエイダを見つけた場所へ戻った。警察に行く前に、どちらの方向から来たかなど確認しておこうと思ったのだ。

 そこはいくつかの街路が交錯し、カフェやレストラン、ブティック、書店などが集まった広場だった。ウィンターローズがある辺りよりずっと賑やかで、通りをまっすぐ行けば〈人形館《ドールハウス》〉へもそれほど遠くはない。

「どっちから来たか、覚えていますか?

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Ⅵ.Sweet Trap-2

 その頃エイダはすでに広場からずいぶん離れた場所まで来ていた。別にグリフォンから逃げ出そうとしたのではなく、手をつないで歩くうちにたまたまとある人物の姿が目に留まったのだ。

 それは、つい先ほどウィンターローズの店内でちらっと見かけた人物であり、エイダの記憶にある三人の人物のひとりでもあった。あのときは突然ものすごい勢いで飛び出して来たので、びっくりして固まってしまったが……。

 衝動的にエイ

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