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『エッセイのまち』の仲間で作る共同運営マガジン

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2023年7月の記事一覧

「人生会議」に重ねた春空の記憶

この日は赤門のすぐ脇ある記念館で開催される研究会に、スポンサー企業として参加することになっていました。午前9時、蝉たちが盛んに囀っている大学構内に入ると、そこには歴史を感じさせるどっしりとした存在感が静かに横たわっている。僕だけではなく、親父も息子も崩せなかった東京大学の牙城が、今日だけはにっこり招き入れてくれている。 尊敬する本学ご出身の医師に相談され、本日はACP(アドバンス・ケア・ プランニング)について、つまり「人生会議」に関する講演を進めることになっています。「患

【実はチケットの2時間前から事前入場できる!?】としまえん跡地にできた「ハリーポッター スタジオツアー東京」最新情報

としまえんの跡地にこの夏オープンした、 「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 - メイキング・オブ・ハリー・ポッター」 (ハリーポッター スタジオツアー東京) ハリー・ポッターシリーズの映画制作の舞台裏を体感できるとして、予約も数ヶ月待ちという大人気の施設である。 まだオープンしたてということもあり、公式からの情報も少なく、体験記などの情報も多くない。 また、現在、ネット上に上がっている情報も行ってみたら変わっているみたいなところも多かった。 ということで、今回は

車で片道6時間半、子どもの頃の私に逢いにゆく

「今年も絶対ぜーったい、牛深の海に行きたい!!」 誰よりも目を輝かせてそう訴えてくるのは、息子ではなくまさかの夫だった。 「え……こ、今年も行くのかい?」 タジタジな私をよそに、息子たち二人も「行きたい行きたい」の大合唱。 「牛深の海」とは、熊本県天草市牛深町にある「茂串海水浴場」のことだ。ウミガメも現れる美しい白浜。そこのすぐそばには、私の祖父の家があったのだが、老朽化のため数年前に取り壊し、更地になっていた。 思い出深い大好きな場所。ただ問題は距離だった。今住ん

E70: 567円の出会い

「会員番号32番 山本スーザン久美子」 笑ってしまった人、私と同年代である。 (いや、アンタそれ、憶えてどうするん?) ということを、 ずっと記憶してしまっている自分がいる。 それは、どうも数字がらみのことが多く 40年以上会っていない同級生の誕生日を 子どもの頃になんとなく憶えてしまって、 いまだに憶えていたりする。 で、そういう自分にちょっと困っている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30年以上前、バイト先のコンビニに 毎日決まった時間に現れる女性客

はじめて埼玉スタジアムに見た「赤い悪魔」と15年後に再び現れた「赤い悪魔」

延長戦後半11分。試合終了まで残り4分。 全北現代に失点を許した「絶体絶命の瞬間」、勝負をかける応援歌がスタジアム中に鳴り響いた。 2022年8月25日に行われたAFCチャンピオンズリーグ2022 ノックアウトステージ 準決勝、浦和レッズvs全北現代モータース。 広いアジアを東西で分けて行われた2022年のアジアチャンピオンズリーグ。この試合の勝者が翌年行われる決勝戦へ進むことになる。韓国のKリーグに所属している全北現代は、前年のKリーグチャンピオンであり、アジアチャンピ

人生の使い方を考えなおしてみる

先月、担当した脚本の舞台が上演された。 お金をいただいて書くのは初めてなので、プロデビュー作品となる。 ジャンルはコメディで、座長は芸人さん。関西のお笑い好きなら誰もが知っているだろう大物だ。 とても気さくな御方で、偉ぶることなくド新人の僕にもフラットに話してくださった。対面したその日から、大先輩を飛び越えて大ファンになった。 終演後、座長から「ぜひ今後もよろしく!」と仰っていただいた。 引き続き脚本家として活動できることに歓喜した。同時に心底ガッカリする自分がいた

あれから、君のいない余白を生きている。

白いってそれだけで余韻だねってだれかが言って。 聞いた耳が、きままにそうだねって思いながら、余白ってちょっとすきだなって思ったりする。   花火の後のみんなで空をみあげた夜。 花火と花火の間のちょっとした凪だって、 もしかしたら、余韻だし。 絵の中の空間も、ことばとことばのすきまも、ぜんぶそうかもしれない。   白いシャツ、透き通ったガラスの器のなかのバニラ、前のページまでぎっしりと字が埋まっていて、なにか続くんだと思ったら次のページはまっしろで。 それもあるいみ余韻。

私は、村上海賊の末裔かもしれない

5年ほど前になりますが、読書家の弟から「村上海賊の娘」という本を借りました。 知っている地名と頭の片隅の風景が結び付き、夢中になって全四巻を読みました。 掠奪するような悪者のイメージがある海賊ですが、当時は瀬戸内海を守る役割をしていたと知り、まるで海上保安官だなと思ったり。 残虐ではあるものの圧倒的な強さに惹かれて、かっこいいとすら思ったり。 完全に海賊に憧れてしまっている自分に驚きました。 読みながらふと、約30年前に同僚から言われた言葉を思い出していました。 「琲

近況報告 在宅ワーカーになりました

noteの中に、書き上げていない下書きが溜まってきました。 皆さんいつもながらご無沙汰しております。 先日、8年務めた会社を退職しました。 理由は、息子の生きづらさに対する本格的なサポートが始まったから。 医師の診断結果は「ASDとADHDの混合、特にADHDの中でも”注意欠落”が強い」というもの。 注意欠落を改善するべく、お薬を始めることが決まった。 どんなお薬にも副作用はつきもので、息子が飲む薬にも副作用がびっしり書いていある。 その副作用は誰にでも出るってわけでは

梅仕事

2ヶ月もnoteをお休みしていました。 SNSの更新頻度も以前ほど頻繁じゃなく… でも、毎日元気に生きています。 暑さに負けずバイクに乗ったり 月に1冊を目標にしている読書をしたり 自分の時間を大事にしつつ、 コロナ禍で自粛していた飲み会の再開や 友達とのお出かけなど予定のない日がない! 幸せな悩みです。 そうそう。 今年も私の夏のマストアイテム 梅シロップを仕込みました。 青々とした梅の実を1個ずつ洗い、 ヘタを取って乾かしたら、 氷砂糖と一緒に瓶に詰めるだけ。

心の中の言葉をどうして、言いたくなるんだろう。

谷川俊太郎さんの新聞の連載「どこからか言葉が」の 「わざわざ書く」というタイトルの詩だ。 この言葉の並びに心を覗かれたような気持ちがしてずっと気になっていた。 こういうところわたしの中におおいにある。 あまりに優しい人に会うと、どこかでバランスをとって生きて言って欲しいと思う。 優しくない人は嫌いなくせにそう願ってしまう。 営業スマイルだと知って安心することのほうが落ち着きがいい。 犬の気持ちはよくわからないけれど。 犬たちが飼い主の言うことを聞きすぎて 従順に見

ちいさな夏の花火

「さんかく公園で夏祭りがあるから行こうぜ」 マンションの前にある駐車場で、プラスチックバットを振りながら友人の近本が言った。 「え、なにそれ!行きたい!」 真っ先に反応したのは駐車場の後ろの方で守っていた堀田だった。 ピッチャーの僕が放ったゴムボールは、ワンバウンドして近本の足に当たり、ゆっくりと僕の方に戻ってきた。 それは小学6年生の夏休みだった。広いスペースが少ない板橋の住宅街では、狭い道路やマンションのエントランス、そして駐車場までもが遊び場になった。メンバーが2

息子のこと②

次男が入院して6日目 前回の記事では、たくさんの方から優しさに溢れたコメントをいただきました。ありがとうございました。 一昨日からステロイドの投与が始まり、今までが嘘のように元気になりましたので、ここに報告させていただきます! 長く続いた下痢と血便、更に高熱で緊急入院してから、4日間の絶食。 ステロイドのおかげで、今は五分粥を食べられるようになりました。 息子から来たLINE(笑) 初めての食事はそうめんで、夜はお粥でしたが、ご馳走に見えたと言っていました。 次

実はただの影

音楽の対義語は建築だなんて言ったらそこそこウケた。で、建築の対義語を訊かれて答えに詰まって情けなくなった。 詩人だか建築家だかが、たびたび建築を「凍れる音楽」などと形容するが、そんなことが僕の頭の隅っこにあって、ただちょっと独り言を呟いただけだった。 「民主主義は最悪の政治形態といわれてきた。他に試みられたあらゆる形態を除けば」とは、イギリスの元首相チャーチルの名言だが、「政治」が先天的に備えている悲劇性を嘆いているように僕には思えた。「政治」は神の遊戯で、人間は「政治」