はじめて埼玉スタジアムに見た「赤い悪魔」と15年後に再び現れた「赤い悪魔」
延長戦後半11分。試合終了まで残り4分。
全北現代に失点を許した「絶体絶命の瞬間」、勝負をかける応援歌がスタジアム中に鳴り響いた。
2022年8月25日に行われたAFCチャンピオンズリーグ2022 ノックアウトステージ 準決勝、浦和レッズvs全北現代モータース。
広いアジアを東西で分けて行われた2022年のアジアチャンピオンズリーグ。この試合の勝者が翌年行われる決勝戦へ進むことになる。韓国のKリーグに所属している全北現代は、前年のKリーグチャンピオンであり、アジアチャンピオンにも2度なっているアジアの強豪クラブ。
この試合を勝つことが、浦和レッズにとっても、日本サッカー界にとっても大きな意味を持つ。そんな試合だった。
自分は、Jリーグ開幕の時から浦和レッズを応援していて、シーズンチケット歴も25年以上。
絶対に負けられない試合に向けてこの日は仕事を早退し、意気揚々と埼玉スタジアムへ向かった。
試合は90分を終えて、1-1の同点。
そのまま延長戦へ入る。延長前半は互いに得点はなし。
ヒリヒリするような展開が続いていく。
この延長後半で1点をとったほうが勝利するという試合となった。
サポーターたちの応援も一段と激しさを増していく。
自分も精いっぱい飛び跳ねて、声を出していく。
しかし・・・
延長後半11分。全北現代にゴールを許してしまう。
あまりにも痛い失点だった。
酷暑の中の試合。
120分近くも激しい戦いが続き、疲労がピークとなった時間での失点。
選手もサポーターも気落ちし、集中を切らしてもおかしくない、そんな瞬間だった。
ところが・・・
浦和レッズのサポーターは、まったく諦めていなかった。
失点を許した瞬間、なんとPRIDE OF URAWAを歌い出したのだ。浦和レッズサポーターにとって、この歌は勝負をかける時や勝利を確信した時に歌われる特別な歌。負けている場面では、ほとんど歌われることがない特別な歌がスタジアムに鳴り響いたのだ。
残り時間4分。
この絶対絶命のピンチの中で、スタジアムにいるサポーター全員が勝利を諦めていなかったのだ。
スタジアムを包んだ声と拍手。その轟音は熱気となり、ピッチに立つ選手たちの気持ちを奮い立たせ、最後まで勝負を諦めないという強いチカラとなった。
そして、奇跡が起こる。
試合終了間際の延長後半15分、試合終了ギリギリのところで、FWのユンカーが劇的な同点ゴールを決める!
スタジアム中のサポーターの想いがボールに乗り移ったような、まさに気持ちで押し込んだゴールだった。
地鳴りのような声がスタジアムを包み込む。
スタジアムの熱狂は、最高潮に上がった。
そのまま、延長後半は終了。
試合は120分間の死闘を経て引き分けとなり、勝負を決するPK戦となった。
時間は、すでに22時を回っている。
しかし、誰も帰ろうとしない。
ここでサポーターの中である動きが起こった。
PK戦の突入が決まったと同時に、スタジアム中の大旗や中旗がPK戦を行う北側のゴールポストの裏に集結していったのだ。
この動きは誰かが主導をしているものではなかった。
浦和レッズのサポーターの中に、勝負を決めるPK戦になったらこういう動きをするぞということが共通認識として、根付いていたことから起こったものだった。
瞬間的にスタジアム中のサポーターたちが、意識して行動したものだった。
自分の周りの席でも、大旗を持ったサポーターがゴールの裏側に向かって動いていくと、周りが拍手をし「頼んだぞ」と言って送り出していた。
北側のゴールの後ろに集まった旗の数々。
その旗が一斉に動き出し作り出す波は、意志を持った生き物みたいにゴールを包み込んだ。
この赤い波は、PKを蹴る相手の選手にとっては「赤い悪魔」に見えただろう。さらには、スタンドから湧き起こる大きなブーイング。そしてそれぞれのタオルマフラーまわし。まさにスタジアムにいる全ての浦和レッズサポーターが勝利のために戦っていた瞬間だった。
【2022ACL準決勝 全北現代vs浦和レッズPK戦】
(この時の動画を後半部分だけでもいいから見てほしいです。本当に凄いです)
相手の選手が蹴る時には激しいブーイング。
浦和レッズの選手が蹴る時には、シーンと静まり、集中できる雰囲気にする。
これをスタジアムにいるサポーターたちは、自然と行なっていたのだ。
PK戦でこれだけのプレッシャーを相手に与えられるスタジアムは、他にあるだろうか。世界の中で他にあるだろうか。
実は、浦和レッズのサポーターがこの動きを自然とできたのには、理由がある。それはサポーターたちの記憶の中に残り、そして受け継がれている15年前の成功体験の中にあった。
【2007ACL準決勝 浦和レッズvs城南一和PK戦】
2007年に行われたAFCチャンピオンズリーグ準決勝。
相手は今回と同じく韓国のチャンピオンチームであった城南一和。
その試合も、ホーム&アウェイの試合でも決着がつかず延長戦へ。
そして延長戦でも決着がつかずPK戦に入った。
このPK戦の時もスタジアム中のサポーターが協力して、ゴール裏に大旗が集結させた。そして同じように「赤い悪魔」を生み出し、PK戦を勝ち抜いたのだ。
そして、準決勝を勝ち抜いた浦和レッズは、そのまま勢いのって決勝戦も勝つことができた。初めてアジアチャンピオンとなったのである。
この時の試合は浦和レッズ史に残るものであり、サポーターの中でずっと語り継がれていった。
今回のシチュエーションは、この15年前とまったく同じだった。
15年前に参戦していたサポーターはその時の記憶を呼び戻し、この時を知らないサポーターも周りからの伝承でこの試合のことを知っていたのだ。
だから、それぞれが自然とその動きをしていたのだ。
この状況に持ち込めば、絶対に負けない。
負ける気がしない。
そして・・
この圧倒的なスタジアムの雰囲気によって、浦和レッズはPK戦を制した。
強敵、全北現代を破ることができたのだ。
浦和レッズにとって4回目のアジアチャンピオンズリーグ決勝戦への出場が決まったのだ。
サポーターたちは、泣きながら喜んだ。ぐちゃぐちゃになって喜んだ。
そして、それぞれがタオルマフラーを大きく掲げ、スタジアムを真っ赤に染めあげ、勝利の歌「We are Diamonds」を歌いあげた。
酷暑の中、最後まで走り抜いた選手の頑張りも素晴らしかった。
さらには、スタッフやサポーター、ボールボーイなど全員が心をひとつにして応援し、戦い、掴み取った勝利だった。
この日は、アジアチャンピオンに賭けるクラブの想い、それが15年の歴史を超えてつながった歴史的な夜となった。
そしてそこには、自分がずっと追い求めていた熱狂のスタジアムの姿があったのだ。
はじめてスタジアムで見た「赤い悪魔」と15年後に再び現れた「赤い悪魔」
浦和レッズを愛する人々の中で、記憶に残り、語り継がれていくものになるだろう。
終
(写真は全て2022年8月25日に撮影したものです)
このマガジンでは、ファンやサポーターの熱量を高め熱狂のスタジアムを作っていくことを書いています。
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