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OKRの始祖を僕が師匠と呼ぶ理由(後編)~組織開発日記#10

従来の目標管理制度においてありがちなのは、
「部下のモチベーションをあげるため、丁寧なコミュニケーションを心がけたい」
みたいな目標です。


目標設定あるある

しかし上のような目標が設定された場合、いざ評定の際、実は達成できたのかどうかよくわからない、という状態に陥ってしまいます。

他にも、一見もっともらしいが、実は何もコミットしていない使えるフレーズとして、以下のようなものがあります。

「・・機運を醸成します。」

「・・歩みを止めません。」

「・・不断の努力が肝要だと認識しております。」

どうですか?みなさん使ってないですか?

僕は使ってました。(あっさり白状してみる)

また従来のやり方だと、いわゆるウォーターフォール式に、上位からやるべきことや「予算」が落ちてくるので、それをしかたなく定量目標に掲げるのだけども、「そもそも我々はなぜこの仕事をするのか?」という「Why?や志」の共有プロセスはない。

よってやる気も起きず、目標がただのノルマと化している場合が少なくないのではないでしょうか。
そんなこんなで、せめて自分の評価を上げるために、上のようなフレーズを使ってごまかしたり、「そこそこ達成可能な目標」を掲げがちになるのも無理はありません。それだと、とてつもなくスゴイ成果も期待できないでしょう。

これらを打ち破ったのが、アンディ師匠(元インテルのCEO、アンドリュー・グローブ)が編み出した、OKRなのです。
(詳しくは前編をご一読ください)

OKRがもたらしたもの

OKRを導入して3年。TBSグロウディアがどのように変わったのか?
以下、私の実感を言語化してみます。

エンゲージメントの向上

OKRの導入は、社内各チームまたは個人の「目標」を明確化する作業です。また、その目標は「本当に重要なものにフォーカスする」ことが肝要です。
おのずとOKRを設定するプロセスでは、上から目標を与えるのでなく、「ビジョンを実現するために本当に重要なことは何か?」という対話が欠かせません。こういったプロセスを経ることで、それぞれが自分たちの仕事の意味を共有し、それが動機づけにつながっていきます。

当社は2年前より社員エンゲージメントの測定を行っています。
スコアが出るとすぐに、特にエンゲージメントが上がったチームと下がったチームの原因の分析に入ります。
それでわかったことは、エンゲージメントが高いチームの特長のひとつとして、「目標がはっきりと共有されている」というものがあります。

会社のビジョンを明確にし、それを達成するために各チームでOKRを設定し、それを回していくプロセス。こういった取り組みがエンゲージメント向上につながっているのは、間違いないようです。
ただし、OKRを導入したからと言って、すぐにエンゲージメントが上がるのか?といったような単純な話ではありません。

エンゲージメントが高いチームのもう一つの特徴は、「チームのリーダーが1on1に力を入れている」ということです。

そのあたりのことを、「メジャー・ホワット・マターズ」(ジョン・ドーア著、日本経済新聞出版)では、対話(Conversation)、フィードバック(Feedback)、承認(Recognition)の頭文字をとって、CFRと表現しています。

OKRを回していく上で、1on1などを通じたCFRは、絶対に欠かせないものなのです。

業務プロセスの改革

ショッピング部門のあるチームでは、OKR導入をきっかけにそれまでの仕事の進め方をすべて見直し、「週次」のミーティングを始めました。
そこでは、OKRで設定した目標の確認と、KR(Key Result=主要な成果)に対する、メンバーそれぞれの進捗報告が行われます。

さらに、とかく個人戦になりがちだったそれぞれの営業行為に関して、成功事例の共有が行われました。このような取り組みの結果、チーム全体の年間売上前年比150%を達成し、チームで社長賞を受賞したのです。

提案力と説明責任

顧客のニーズにあったソリューションを提供するIT部門は、「決められたことをミスなく正確にやる」ことが求められるあまり、どうしても「指示待ち」になりがちです。

そこで当社のIT事業部門では、複数のチームで「提案の件数」自体をKR(主要な成果)として定めました。例えば、
「新規デジタル企画を1ヶ月で10本提案する」とか、
「業務改善策を1年で15件提案する」といった具合です。

さらにある部署では、提案力向上のために、
「月に1度、担当した案件を部内に紹介する場を設けプレゼン力を上げる」というKRにコミットしたのです。

これらのKRや、進捗確認のチームミーティングなどがさかんに行われた結果、自分たちから「提案することがあたりまえ」の文化に変わっていきました。
それだけでははなく、一連の取り組みにより、全社に「説明責任=アカウンタビリティ」の向上にもつながっているというのが、僕の実感です。

管理部門でも真価を発揮

 一般的に定量目標が立てにくい総務や経理、業務部門などの一般管理系では、「いつまでに、何をやる」というマイルストーン型のKR(主要な成果)が、測定可能で有効です。

例えば当社は合併当時、「広報PR」機能が脆弱でした。
当社が「選ばれる会社になる」という全社共通のO(Objective=目的)のため、OKR導入時に総務部が設定したKR(Key Result=主要な成果)は、

「2022.3までに広報スキル習得/2022.9までに社内情報収集方法の確立/2023.3までにグロウディアの取り組みや活動を世間に発信できる仕組みを構築」
といったものでした。
 
こういったことを着実にやり遂げた結果、今は「広報部」として独立し、順調に社内外へ情報発信ができるようになったのです。
このマイルストーン型は「本当にやるべきことを着実にやる」ということに向いています。

これらの取り組みにより、当社の一般管理系の職場での業務のベクトルは「チームの成功→会社のビジョン」の方向に整理され、本当の意味で全社のビジネスに貢献しはじめたのです。

ナレッジ共有の活性化

これは、ラジオ番組の制作を行っているチームのOKRです(実際のものとは少し変えています)。このチームでは3つ目のKRに「年に10回勉強会をやる」ことを掲げ、実際に、いくつものユニークな勉強会が実施されました。

他にも、例えば「知的財産についての勉強会」などの勉強会やワークショップが、社内のあちこちで行われるようになりました。またIT部門では、ノウハウの共有サイトが設けられました。

会社全体の研修の他に、各チームが、必要に応じて、勉強会など独自の取り組みをおこなっている。
当社の行動規範=グロウディズムのひとつ、「情報やナレッジを共有しよう」が、OKR導入により、加速されたわけです。

OKRの副反応?

OKR導入に当たっては、各事業本部から数名、OKR推進委員を任命し、マネージャーやリーダークラスと共に、まずアジャイルHRさんの研修を受けました。
そのうえで各事業本部が、会社のビジョンを実現するためにそれぞれのビジネスの「何にフォーカスし高い目標を達成するか」というOKR案を策定。
その案を上位のマネージャーとOKR推進委員30人くらいで数ヶ月に渡り議論しました。

論点は、「それが重要な目標(O)か?」「主要な成果(KR)は測定可能か?ストレッチした高い水準か?」というもの。

会議は時に終日にわたり、結果最上位レイヤーであるトップ層10セット、ミドル層54セットのOKRを決めるのに、2021年7月~9月まで、足かけ3ヶ月を要したのです。
数社合併した会社としては、全社の事業を棚卸しして、ひとつひとつ吟味するわけで、とても充実したプロセスではありましたが、僕もメンバーも、心身共に消耗する作業でもありました。
 
さらにその時期は、ビジョン浸透のためのグロウディズム研修や、僕が個人的に出席した外部の研修などいろんなことが重なり、OKRのめどがついた9月の終わり、ついに帯状疱疹を発症してしまったのです。
 
読者のみなさん、覚えてらっしゃいますか?当社のパーパスはそう、「人々の免疫力を上げる」というものです。
 
このことは「人々の免疫力を上げようとして、自分の免疫力が下がった事件」という格好のネタとなり、研修の際のアイスブレークとして、当社では語り継がれています。(僕が語ってるだけですが)

志を測定する

OKRは、導入すればただちにパフォーマンスがあがるといったマネジメント手法ではありません。

前述したように、1on1によるCFRや、前提として会社のビジョンの明確化とカルチャーの浸透などの取り組みがあり、それらが相乗的にかみあうことで、次第に結果がついてくるものだと思っています。
その意味において、このコラムでお伝えした取り組みすべてが連動して初めて成果として現れるということなのだと思います。

導入するのは帯状疱疹とか出ちゃうくらいタイヘンですが(笑)、それを上回るくらい優れた手法です。

最も優れているところは、チームの「目的(志)や目標」と、それが実現できたといえる「測定可能な指標」をセットにしたことではないでしょうか。

言い方をかえれば、OKRは「志や情熱を測定可能にした手法」なのです。
 
僕が、アンドリュー・グローブを「アンディ師匠」と呼ぶ所以も、ここにあります。



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