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SF小説|Being Covered

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仮想空間にある文学バー《Chatsubo》に集う、カラフルな人物たちの物語。あらゆる出来事が、タロットのカードのように表象的になる一方で、モノの質量は増加を続ける。物質⇆非物質の…
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2023年8月の記事一覧

小説 #5-2 フェイ・フューが記憶をヴィークル社に保管する理由。

・・・フェイ・フュー(FH)がいつものように、ノートにペンを走らせている。時刻は朝の4時半。彼…

chatsubo
1年前
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小説 #5-3 彼女はヴィークル社でトポロジーを解析された。

作家・フェイ・フュー(FH)は、人の抽象世界の情報をストレージしてくれるという、ヴィークル社…

chatsubo
1年前
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小説 #15 フェイ・フューの意識空間を腑分けする。

ゴーストライターのソルは、書けなくなってしまった作家、フェイ・フュー(FH)の創造性を回復す…

chatsubo
1年前

小説 #14 ソルの記憶:分裂分析的地図作成法

・・・あの日、分析の先生と僕は、ライブラリの椅子にそれぞれ深く腰をおろして、くつろいでいた…

chatsubo
1年前
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小説 #16 〈ニードファイア〉という希望を灯す。

壺井の部屋。庭に面した大きな窓。外は夕闇。部屋には明かりが灯っている。壺井は窓のそばに立…

chatsubo
1年前

【小説】 #18 FHを〈unload〉する。

ゴーストライターのソルは、書けなくなった作家フェイ・フュー(FH)の代わりに、彼女が今だ…

chatsubo
1年前
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小説 #13 ソル、FHと対峙する。

僕は再びFHの屋敷を訪れていた。また夕刻。今日も庭師が灌木の剪定をしていた。僕の眼には、庭木はもうきっちり整っているように見えるのだが、庭師からすると、毎日どこかしら直すべきところがあるのだろう。 「あなたは記憶を無くしてなどいないと思います」僕はフェイ・フュー(FH)に言った。 また今日も紅茶が出され、ベルガモットの馥郁たる香りが部屋を満たす。 「どうしてそう思う?」ティーカップをそっと下ろして、FHが僕に聞き返す。 「なぜなら、僕にはあなたの世界を見ることができる

小説 #20 アルジズの業深き計画

アルジズは、自分と同じ〈ベルカナ〉型DNAを持つ壺井をインターネット上で捕捉する。 〈ベル…

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1年前

小説 #22 白Tシャツと仮想空間

アルジズです。 わたしも、ソルたちのようにヴァーチャルな世界へ完全没入せんとす。 仮想空…

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1年前

小説 #23 記憶という秘密の支室。そしてフェイ・フューは再び書けるようになる。

僕はもう何度目かになるフェイ・フュー(FH)とのセッションのために、彼女の屋敷を訪れた。 季…

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1年前
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小説 #24 草間彌生とノワール小説。

文芸エージェントのアルジズは、美術館のミュージアムショップにいる。 草間彌生を取り上げた…

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1年前
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小説 #25 アルジズの深層の欲望。

アルジズは〈ベルカナ〉と呼ばれる特殊なDNAパターンを持つ。同じく〈ベルカナ質〉である壺井…

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1年前

小説 #26 壺井のランチ・セッション。

僕は街中の弁当屋へ向かった。昼飯を調達するためだ。 店へ入ると、ちょうどレジのところにす…

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1年前
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小説 #27 Being resolved/epilogue

雨の夜。 僕は《Chatsubo》を訪れた。 アルジズが先に来て、文庫本を読んでいる。 紀伊国屋書店のカバーがかかっている。 「やあ」 アルジズが本から顔を上げる。 「分厚い本だね。誰の本?」 「『細雪』よ。着物を着たくなるわ、これを読んでると」 僕は僕は飲み物と軽く食べる物を頼んだ。腹がへっていた。 「僕も、あの阪神間の雰囲気はすきだな、のんびりしてて」 ・・・かちん。 飲み物がそろうと、僕らはグラスを合わせた。 「お疲れ様」アルジズがにっこりして言う。 「稀有