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蟹との戯れ 知恵比べ
バケツの中には
さっき捕まえたばかりの
蟹がかさこそと
動き回っていた
5センチくらいの大きさで
お腹の形は小さな三角形を
しているから
どうやらオスのようだ
甲羅が太陽の様に真っ赤で
かっこいい
ぷっくりと膨らんだ
ハサミを僕に向けて
怒っているのか
自慢してるのか
見せつけてくる仕草が
またかっこいい
波打ち際の岸壁を
かさこそ動いているのを
見つけてすかさず
捕まえたのだ
子どもの好奇心と
それをなす行動力は
恐ろしいものがあるが
小さな頃の僕も
また例に漏れず
ワクワクに突き動かされるままに
生き物を見つけて
捕まえて観察をして
欲求を満たしていた
かわいいものより
かっこいいやつを
小さいものより
なるべくなら大きいやつを
真っ赤な色が大好きだった
ヤドカリも好きだったが
やっぱり蟹が捕まえたかった
魚も捕まえたかったが
波打ち際の濡れた岩場や
溜まりの水辺には
なかなか魚が居なかったから
捕まえたくても捕まえられず
ならばやっぱり蟹が
僕の欲求を満たす対象物に
相応しかった
簡単過ぎず
難し過ぎず
相手も(蟹の事ですな)
捕まりたくはないから
岩場の隙間に入り込んだり
かさかさと海の中に
入っていってしまったりと
厄介な知恵を回すから
蟹との知恵比べが
また僕の好奇心を刺激してきた
上手く捕まえる事が出来た時の
達成感が楽しいものなのだと
僕は波打ち際の生き物たちによって
教えてもらった
生き死に命の在り方
楽しむ事
教えてもらう事
学んで伝えていく事
命に触れて
大切な気持ちを
残してもらえた事に感謝しながら
かつての蟹たちを思う
きっと蟹たちからしたら
怖かったのかもしれない
楽しくて仕方なかった僕は
笑顔でそんな蟹たちを
追いかけまわしていたのだから
蟹たちが僕を育ててくれたのだと
言っても過言じゃない
蟹たちの戯れには
意味があったのだ
命を賭して僕に
生きている事の
素晴らしさを
感じさせてくれた
あの頃の経験が
今も僕の思い出の根底にある
ふとした時に思い出しては
文字にして綴って楽しんでいる