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『一九九一年未刊詩集 青春』

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人に読ませることのできる詩を書けるようになったのはおそらく、十七歳か十八歳、高校三年生か大学一年生のころのことだと思う。人に読ませることのできる文章を書けるようになった時期とほぼ…
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『一九九一年未完詩集 青春』

『一九九一年未完詩集 青春』

 01 序 詩人論01

この作品を純粋無垢な[詩集]と考えるのには、多少の無理があるかも知れない。まず、書いた本人が純粋の詩集として読者諸氏の鑑賞に耐えるだけの自信がない。最初、詩集のつもりで編集を始めたのだが、長い作業のなかで性格変化していった。よくよく読み込んでいくと、この詩集はじつは著者の個人的なドキュメントというか、ノンフィクションの装いをまとったフィクション小説であるのかも知れないから

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詩集『青春』 第一章 作品01〜03

詩集『青春』 第一章 作品01〜03



【作品01】 八月の風

恋人よ
八月の風はあまいか
八月の光は視界にきらめくのか
教えてくれなくてもいい

いや 教えてくれ
わたしたちがついに訪れなかった
八月の海の光をあなたは知っているか

八月の日の光は熱い
わたしたち自身が太陽でありたいと願い
ついに発光体ですらありえなかった
わたしたちの皮膚に
八月の日の光はみじめに熱い

野望は潰え
情念は虚しく枯れて

人よ
八月の海の伝説に

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詩集『青春』 第二章 旅の場所 作品04〜06

詩集『青春』 第二章 旅の場所 作品04〜06



【作品04】旅の場所(一) 蒲庭岬

海を歩いた

空は灰色に濁って

遠くまで波のうねりが続いていた

〈遠くまで歩いていくがいい〉

砂浜はすぐに切り立った崖になった

崩れかけた砂質の堆積岩からは

時代の知れない

無数の古生物の化石が発見される

石に閉じこめられた

二枚貝、巻き貝、そしてアンモナイトよ

お前たちが生きていた頃と

この世界は変わっているか

まだ この場所が海底

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詩集『青春』 第二章 旅の場所 作品07〜作品10

詩集『青春』 第二章 旅の場所 作品07〜作品10



【作品07】 旅の場所(四)浅間高原

遠く異郷を旅していると

愛する人よ

自然に似て 心理はあなたのいた低みに向けて

流れていく

そんな時 わたしはどうしたらいいのだろう

わたしの旅の生活である

二つのボストンバッグを放り出して

原野の彼方まで走って行こうか

一人旅だからいいのだ

わたしを悩ませるものが訣別の記憶であっても

わたしの旅愁は

好きな煙草に似て甘く苦い

 

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詩集『青春』 第二章  旅の場所 作品11〜作品14

詩集『青春』 第二章 旅の場所 作品11〜作品14



【作品11】 祭の夜

夕暮れ

夏祭りの踊りの輪につながって

わたしは

さめる者であるのか

酔える者であるのか

おんなたち

華やかな帯を結んで

美しく化粧した少女たちよ

身にあふれる熱情を

饒舌に変えて

語れ 宵闇のうち

その時 わたしは

沈黙をまもる者のひとりでありたい

それはわたしが生まれた谷間の

祭りの夜のことだ

彼女らはついにわたしの隣人でありえず

わた

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詩集『青春』 第三章 記憶の光景 作品15〜作品18

詩集『青春』 第三章 記憶の光景 作品15〜作品18

第三章は高校時代から、大学生のころに書いた詩がおさめられている。たぶん、何百という詩を作ったはずだが、選び抜いて、まとめたものである。

【作品15】 標的

愛の本質にふれながら かって わたしが人に

語った言葉は いままで 一度も役に立ったこ

とがなかった たとえば わたしが意を決して

あなたを幸せにしてあげたいのだ と いった

とき あなたはすこし 顔に怒りの表情を浮か

べて それ

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詩集『青春』  第三章  記憶の光景 作品19〜作品23

詩集『青春』 第三章 記憶の光景 作品19〜作品23



【作品19】 六月の少女

生まれ落ちてから

幾つの哀しみを知ったのか

膚の透き通った

身体から甘い匂いを漂わせる

長い髪の少女よ

力なく揺れ動く黒髪に

ふと顔を上げて

おとがいに作られた

青白い陰

だまされて女になった日の鮮烈な記憶

部屋の窓から見えた

雨に濡れた木の葉の

絶えず動くあざやかな緑

●一九七一年 六月 溜井昭子に ◇溜井昭子はのちの女優・水沢アキ。 

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詩集『青春』 第三章 記憶の光景 作品24〜作品27

詩集『青春』 第三章 記憶の光景 作品24〜作品27



【作品24】 街の底

吹きぬける風は路地裏に冷たく
歌舞伎座の鳩は虚しく空を舞う
黄昏
すれ違う人々は言葉も少なく
うつむいたまま会釈を交わし
そこから始まる物語の舗道を
ゆっくり滅びへと歩いていった

そして 夜も更ければ
立ちならんだビル街の
あかりの数は減って
恋人たちの
不吉な予兆に満ち満ちた重苦しい沈黙を
街の底に響き渡る靴音が凛々と奏するのであった

●一九七一年 十一月

【作

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詩集『青春』 第四章 約束の日 作品29〜作品31

詩集『青春』 第四章 約束の日 作品29〜作品31



【作品29】 夜の恨み

にんげんよ 
永劫に不幸であれと
きわめて高い声で
いま わたしは叫ぼう

世界は新鮮でなくなれ
わたしの
夜を迎える深い恨み
閉ざされた物語の扉は
もはや 開かれることはない

わたしのなかの
裏切りへの深い憧れ
倫落の淵に垂らされた
重い錘鉛
人間たちの傷は
だれも同じように
赤い血を流すのだろうか

少年のころ 
わたしはむしろ
なにも尋ねない子供だった
この世

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詩集『青春』 作品32〜作品33

詩集『青春』 作品32〜作品33



【作品32】約束の日

暗く長い日々の果てに
巡りあった異形のもの
柔らかくうごめく闇に
仮面を付けた顔を埋めて
ひとよ
折れた膝のこころが味わう
愛の屈辱をわたしも愛そう

強いられた日々の果てに
ある朝訪れた異形のものよ
あなたもわたしに聞くのか
街に住む全ての人間たちについて
彼らの犯した全ての罪について

そうだ わたしこそ人間の世界の
もっとも醜悪な部分につながるもののひとりだから

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