コロナ禍という日常を生きた人々へ―カミュ『ペスト』(宮崎嶺雄訳)
コロナ禍のとき、ものすごく売れた本で、その時は反骨心で読まなかったが、正直後悔している。ここに書かれている疫病禍の記述は、もはや何かの象徴や寓意、また虚構といった薄さではなく、実感の厚みをもって感じられるのである。弛緩した、けれども恐怖によって緊密になった時間への感覚、愛への途絶など、ウンウンと頷ける描写が間断なく綴られるのだ。滔滔と、かつ読ませる文章が続いてゆく。箴言も訓戒もさまざま、異なる立場から主張が入り乱れ、疫病下の混沌たる、陰惨たる有様が浮かび上がるさまは見事。そこ