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【H】【翻訳】アーヴィング・フィッシャー 『100%マネーと公的債務』(8=完)

本記事は以下の記事の続きです。

初回はこちらです。



いま存在している特別な理由

私たちを100%プランに招き寄せるいくつかの特別な理由がいま存在している。

一つは巨大な超過準備である。預金準備率を引き上げることでこれを吸収しない限り、この超過準備はこれまでの10倍ほどのインフレの可能性でもって私たちを脅かすことになるだろう。これらの準備は、事業貸出を増やそうとした連邦準備制度の無駄な試みによって作り出された。この試みが失敗した主要な理由は、商業銀行に貸出をすることを怖がらせてしまう部分準備システムである。

もう一つの重要な事実は、いまや法のなかに預金準備率を引き上げる条項があることである。なぜこの条項を活用して、100%準備にまで進まないのか?

も一つの事実は、これまで銀行家が不安定な要求払い預金を裏打ちするものとして頼ってきた旧式の短期商業ローンが、今後も十分な量で存在する見込みがいまや存在しないことである。連邦準備制度は、そのようなローンの利用が永遠にアメリカのビジネスの一般的な特徴であり続けるという想定を置いているように見える。しかし、短期商業ローンの重要性はますます下がっており、他方で資本性ローンがますます重要になっている。このことの部分的な理由は、チェーン店その他によって商業や工業が全国的に統合することによって、かつて季節性ローンをとても一般的なものとした、地域ごとの変動が均されたことである。

もう一つの理由は、企業が長期債その他の方法で資金調達できるのに十分大きくなったことである。

アメリカのビジネスにこれらの革命的な変化が生じていたにもかかわらず、銀行の顧客は、同じ銀行あるいは他行での借り換えができるものと信頼しながら、三年間の事業に対して3ヶ月の借用証書にずっとサインし続けている!このような非弾力的なローン構造が十分に大きくなったとき、それは破裂せざるを得ず、大量の焦げついたローンを残すことになったのである。それは、商業銀行業の慣例に合わせるために短期ローンであることを装ってはいるものの、実は長期ローンであり、そういうものだと銀行家自身も分かっているようなローンだった。

一人の銀行家を含む、これらの主題の二人の専門家に別々に相談したところ、彼らはともにアメリカで短期ローンシステムが栄えることは二度とないと確言している。真の意味での短期ローンが現在の預金の量に追いつき、いま銀行のポートフォリオにある国債の代わりとなるのに十分になることは決してないだろう。これが正しいとすれば、現代には要求払い預金への3.5%システムの居場所はない。要求払い預金が短期ローンに裏打ちされていて、その短期ローンが一般的だったときでも、要求払い預金は十分に不安定だった。だから、短期ローンが例外となったら、3.5%システムはもはや存続不可能だ。この運命的な事実が認識されるのが早ければ早いほど、そうしてアムステルダム銀行のもともとの100%システムに回帰するのが早ければ早いほど、銀行家も含むすべての関係者にとって事態はよりよいものとなるだろう。

南北戦争後の数十年間、国立銀行券が紐づけられていた政府債務が減少するとともに、国立銀行券も減少していったのと全く同様に、預金通貨が減少していく商業短期ローンという形での民間債務に紐づけられ続けるとすれば、預金通貨も減少していくに違いない。だから、それに対して何かがなされなければならないのだが、100%システムの採用こそがそのベストな方策であるように思われるのだ。

100%プランは今こそまさに採用しやすいだろう。というのも、預金口座に手数料を取ることが流行りつつあるからだ。実際、ニューヨーク・ナショナル・セーフティ・バンク・アンド・トラスト社のエフロム氏はあらゆる預金・引き出し・小切手に5セントの手数料を課すことによって、預金システムをとても小口の預金者にまで拡大した。手数料があっても大きな需要があったという。他の銀行も同じことを始めている。エンパイア・バンク・アンド・トラスト社もそれをして、5セントではなく10セントを課している。

いまが100%プランを採用する良い機会であるもう一つの理由は、すでにビジネス界の大半が管理不可能な金本位制を離れ、管理通貨制に向かいつつあるという事実である。スウェーデンはその好例である。中国でさえ管理通貨制を採用することを決めた。しかし、重要な例はイングランドとスターリング圏である。現在の彼らのゴールドの活用法は、事実上、私が1920年に『ドルを安定させる』で提案し、またウォーレン教授が1933年に提案したものとなっている。すなわち、ゴールドの価格は変化し、ゴールドは国際決済のためだけに使われるのである。ナポレオン戦争ののち、イングランドが世界を金本位制に導いたのと同様に、いまやイングランドは世界を管理通貨制に導こうとしている。そして明らかに100%マネーが管理のしやすさでは圧倒的に一番なのだ。

心理的には、100%プランは銀行業を初心者にとって大いに理解しやすいものに単純化するだろう。現在は考えの衝突がある。預金者は銀行にある「自分の」現金について語るが、法的には銀行にあるすべての現金は銀行のものなのだ。

100%プランのもとでは、預金されたすべてのお金は実際に預金者にものとなるだろう。銀行は単なる管財人ないし後見人となる。しかるに、準備が100%に1ドルでもたりなければ、こうはならない。

私たちは100%プランのいくつかの利点について書いてきた。すなわち、恐慌の最小化、政府債務の償還、超過準備によるインフレ懸念の除去、平均的な人間がマネーシステムを理解できるように預金マネーを金庫の中にある本物のマネーに変えること、銀行がいま必要としているが、しばしば手に入らない短期ローンを不要とすること。

利点のうちでもっとも重要なのは、政府が失われた特権を取り戻し、憲法によって政府に与えられたマネーに対する主権的な権力を再び獲得することである。

上で挙げていない利点もたくさんある。そのうちの一つは、より普通の金利の復活である。もう一つは、恐慌時のローンの焦げつきの一般的な帰結である、銀行による産業の管理と支配の除去である。三つ目は自信の回復であり、これは経済の完全な回復、長期ローンの利用、資本財産業の復活、失業のより素早い除去に不可欠なことである。

本稿を終えるにあたって、100%プランは重要であるが万能薬として推奨されているわけではないという事実を強調したい。それは景気循環を均すだろうが、完璧に取り除くわけではない。過剰債務などのさまざまな不適応は、引き続き混乱を引き起こしうるだろう。しかし、3.5%システムに内在している巨大な混乱の種、すなわち、流通する媒体[=貨幣]の供給が繰り返し激しく増減すること、それが再び頭をもたげることについては、100%システムは少なくともこれを防ぐことができるだろう。

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