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【H】【翻訳】アーヴィング・フィッシャー 『100%マネーと公的債務』(3)

これは以下の記事の続きである。


古き時代の100%マネー

もっとも初期の預金銀行業は100%原則に基づいていた。17世紀のアムステルダム銀行はそのような銀行業を営んでいた。ハーバード大のダンバー教授は、その著書『銀行業の歴史』で、以下のように述べている。すなわち、「銀行マネー〔[フィッシャーによる補足]私たちが要求払い預金、あるいは小切手帳マネーと呼んでいるもの〕は、いつでも金銀貨幣と交換できることになっており、銀行は未交換の銀行マネーに対応する金銀貨幣の全量を金庫に実際に持っていると理解されていた」。

しかし、銀行は背信をすることによって密かに100%準備の一部を貸し出した。この方針は182年続いたのち、最終的に倒産を引き起こした。ダンバーは言う。「何世代ものあいだ、銀行の独特の規約のおかげで経営陣はこのやましい秘密を隠すことができたのであり、疑惑を押し殺すことができたのである。信頼できる経営のもとでなら倒産などあり得ない、非常に有用な銀行業のシステムは、銀行業の実情についての人々の認識の欠如のために、このように不信と破滅で終わったのである」。

ヴェネチア銀行や中世のゴールドスミスのような他の組織も100%システムを持っていたようである。このシステムが、背信行為によって、近代の商業銀行業に変容したのだ。

ドゥーリー氏は銀行員を「自分の友人に貸し出すことであなたのお金を保管している人」だと書いている。今日では、銀行員はこれはもはや背信行為ではないと主張できる。あなたと現代の法制度が彼に許可を与えているからだ。だが、もはや背信ではないにせよ、これはやはり公序良俗に反している。私たちは大昔にうまく機能していたシステムに戻るべきだと私は信じている。イングランドとカナダはもう部分的に戻り始めている。私の提案は単に完全に戻ろうというものである。

いかに移行を実行するか

しかし、この期に及んで、どうすればデフレなしに、この先祖帰りを達成できるだろうか。様々な方法が提案されている。もっとも単純なものの一つは、エンジェル教授によって提案された方法だ(5)。バンダーリップ氏によって提案されたような「貨幣委員会」や「貨幣局」、あるいは既存の連邦準備制度理事会を通じて、銀行が現に抱えている要求払い預金の準備率を100%にするのに十分な紙幣を、政府が銀行に貸し出すのだ。これは単に預金を現実のお金から成るものにするだけである。それまでと同じ量の預金が存在するのであって、増えも減りもしない。そして銀行はもはや総量を増やすことを許されない。銀行は国内にすでに存在する量の現金で仕事をすることしかできない。現金の量は政府の貨幣局によってのみ増やされうるのであり、したがって、法によって採用されている基準によってのみ増やされうる。準備預金を構成するマネーは、政府によって銀行に対して無利子で貸し出される。だからそれは銀行が続く限りでのマネーの使用権の贈与とでもいうべきものだ。窃盗を防ぐために、新しい紙幣は白紙のままで出して、銀行の連署で有効になるとしてもよい。実際に必要になるまで有効にならないわけだが、この新しい紙幣はごく少量以外は決して有効になることはないだろう。

(5)ジェームズ・エンジェル『100%準備プラン』Quarterly Journal of Economics Vol.1 No.1 1935年11月 1-35ページ


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