絵には不思議な力が秘められている! 特集 田中一村展 奄美の光 魂の絵画 あおひと君の週間アート情報 9/30~10/6

今週の展覧会レビューをお届けします!

今週は、上野公園の東京都美術館で12月1日まで開催されている「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」をご紹介します。

田中一村は、1977年奄美大島で亡くなったのち、1984年NHK日曜美術館で紹介されたことがきっかけに、突然、有名になった日本画家です。生前、個展は一度も開催できず、公募展にも1回入選しただけの無名の画家でした。生涯独身だった一村は、50歳になると奄美大島に移住。69歳で亡くなるまで、奄美大島のエキゾチックな情景を描くことに没頭します。そのためか孤高·異端の画家とも呼ばれています。

田中一村は、1908年栃木県栃木市に生まれ、6歳の時、東京に移ります。父は仏像や調度品の木彫り師でした。6人兄弟の長男だった一村は父に習っていたのか、8歳の頃には大人顔負けの筆捌きを見せ、神童と呼ばれていました。また父の手伝いで木彫りの作品も作っていて当時の作品が残っていますが、めちゃくちゃうまい。

そんな一村は将来を嘱望されながら17歳で現在の藝大にあたる、東京美術学校日本画科に入学します。同期に東山魁夷や橋本明治(めいじ)らがいました。ところが2ヶ月で退学。それからの一村は、画壇のメインストリームから消えてしまいます。しかし独学で、南画や山水画などを熱心に研究しながら、絵を描き続けていました。

30歳で千葉に移住、畑を耕しながら晴耕雨読のような生活をはじめます。戦火も無事、くぐり抜け昭和22年、39歳ではじめて、青龍展という日本画の大御所、川端龍子(かわばた りゅうし)が主宰する公募展に生まれて初めて入選します。このとき柳一村という名前で出品しました。それまでは子供の時、父につけられた米邨という画号でした。

やっと苦労も報われメインストリームに入れたかと思われた一村。その次の公募展も入選しますが、自分の推しの作品が選ばれず、別の出品作の方が選ばれたため辞退してしまいます。かなり頑固、一途な性格だったようです。
ちなみに当時、日展、院展など著名な公募展が仕切る中央画壇という存在は、日本の美術界にとても大きな力をもっていました。画家として生きるためには、中央画壇で入選し、東京都美術館に飾られることは最低条件でした。一村は、その後も日展、院展などに出品し続けますが、入選することは一度もありませんでした。

かくいう一村は、絵描きで食えなかったように思えますが、意外なことに、神童と言われていた当時からファンが多かったようで、注文はかなりあったようです。今回の展覧会には、そういった支援者らが所有していたと思われる、色紙やデザインの仕事から大きな襖絵まで色々と展示されていました。今でも日本中から新たな作品が見つかっていて、800点近い作品が残っています。それらを見るとまったくの無名ではなかったようです。

何を思ったのか50歳になると千葉の家も作品も処分し、奄美大島に移住してしまいます。紬(つむぎ)工場で染色工として働き、蓄えができたら絵を描くという生活を繰り返します。のちに、日本のゴーギャンと例えられるように、田中一村の名を不動のものとする色鮮やかで、とてもユニークな南国の情景の日本画を次々と生み出していくのです。

それら奄美大島で描かれた南洋植物や魚など、独特なイメージの作品には強く魅せられてしまいます。また、一村の描くターコイズブルーや青は、奥深い透明感と輝きを放っていて、とても美しいのです。おそらくスーパーブルーの成分と似たものが入っているのでしょう。

さらに驚いたことは、絵の具が油絵のように分厚く盛り上げられて描かれていたことです。日本画は絹や和紙に描くので、水彩画のようなフラットなマチエール(質感)ばかりと思っていたから、意外な発見でした。
そんな最後まで中央画壇と無縁に、孤独に絵を描き続けていた一村も、69歳の時、心不全で旅立ちます。

1979年の3回忌に、島民有志たちは、「田中一村画伯遺作展」を開催しました。3日間だけの会期にも関わらず3000人もの観客が訪れます。その後もローカル紙や九州NHKで取りあげられますが、1984年、NHK日曜美術館で紹介されると、その人気は、瞬く間に日本中を駆け抜け不動のものとなったのです。

色々な作品を見て思うのは、いつの世も、どんなに不遇な環境や状況でも、いい作品は残るという奇跡です。残った作品は、よく見えるという声も聞こえてきそうですがそれは置いといて、いずれにしてもアートには、人智を超えた不思議な力が秘められているのです。

一村の絵から放たれるパワーが、自分の目指した理想郷を追い求め、描き極めたと如実に語っているように思えた、見応えのあるいい展覧会でした。

展覧会レビュー
9月19日~12月1日 田中一村展 奄美の光 魂の絵画 東京都美術館(台東区上野公園)
https://tokyo-live-exhibits.com/pum_tktt_tokyotobijutsukan/

Tokyo Live&Exhibits
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音楽 Artlistより 01 A Carousing Consort - Bransle de Montirande  02 I Want You Brothers in Groove  03 Ohad Ben Ari - Prelude Dm Bach 04 Adrián Berenguer - Discipline

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