誰もボクを見ていない
2014年3月29日、埼玉県川口市のアパートの一室で背中を刃物で刺された70代の老夫婦の遺体が発見された。1ヶ月後、警察は窃盗容疑で孫の少年(当時17歳)を逮捕(後に強盗殺人容疑などで再逮捕)した。殺害動機については「金目当てだった」との供述が報じられた。 冒頭文より
スクールソーシャルワークの研修をきっかけに、未成年者の犯罪に興味を持って読んだ本です。
これまで、すべての人が自分に合った教育が受けられる社会にしたいという想いを軸に動いてきたけれど、私の中にあった「すべての人」というのは、学校教育が合わなくて不登校になっている人とか、学校に通いながら苦しみを抱えている人のことを意識した言葉でした。
なぜか、「学校に行きたいのに、何らかの外的要因により行くことができない人」のことはあまり考えていませんでした。
学校に行って教育を受ける権利でさえ、この社会ではまだ保障されていないという事実を突きつけられたような感じがします。
この本に出てくる少年は、過去に母親や義理の父親による虐待を受け、学校には通わせてもらえず、一家でホテル暮らしをする期間もあったそうです。転居先で母親は住民登録をせず、少年は『居所不明児童』となり、一家への支援は途絶えてしまったのです。そして、少年は祖父母を殺害しました。
すべての人に保障されているはずの教育を受けられずに17歳で罪を犯した少年は、逮捕されて初めて学ぶ時間を得ることができたと書かれています。
その少年の手記がこの本の後半に乗っていたので、印象に残った部分を載せます。
自分の事件が報道されることで、そういう子供を見かけた時に『もしかしたらあの事件のような背景があるのかもしれない』と想像し、気にかける人が出てきてほしい。それでも実際に助ける人はほとんどいないと思うけど。まずは気にかけてもらうことが第一歩だと思うから。
とりあえず今は、他人を傷つけず裏切らないように自分は生きていこうと思っています。そして、子供達のことを考えていきます。何故なら「世の中捨てたもんじゃないな」と”子供達”に想わせたいからです。
それに”自分自身”に対して、も。
本当は死にたくなんかない。でも、もう楽になりたい。
本当は痕なんか作りたくない。でも、こうしないと生きてる実感がない。
本当は売りたくなんかない。でも、そうしないと生きていけない。
本当は罪なんて犯したくない。でも、もうこれしかなかったんだ。
どうか、本当の思いを大事にしてほしい。
本を読むと、母親への怒りの感情が湧いてきますが、そうではなくて、やっぱりこれは社会問題なのだと思います。
罪を犯すまで、たくさんの人が気にかけ、中には手を差し伸べようとした人がいたにも関わらず、その想いは少年には届かず、この社会は少年自身に『誰もボクを見ていない』と感じさせてしまったのです。
最後に、この本の筆者の言葉を。
どんなに同情したり心を痛めたりしても、行動を伴わない「善意」には現実を変える力はなかったのだ。
この本を読んで、同情しました。心も痛めました。少しでもこの問題に関心を向ける人が増えてほしい、とも思いました。
けれど、「思うだけ」では現実は変わらないのだと、筆者の言葉に気づかされました。
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