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雑感記録(293)

【ふと思い出す横顔】


今日も今日とて、昼休みに神保町で古本を漁って来た。

会社に戻る度に先輩方や上司の方々から「そんなに毎日行ってて飽きないの?」と聞かれる。だが、不思議なことに飽きたことは1度もない。勿論、本を購入しない日だってあるけれども、それでも僕は毎日同じ古本屋を巡ることに飽きたりしたことは1度もない。僕は1回でもハマれば、そこにドップリ浸かりたくなる性分である。

例えば、毎回毎回同じメニューしか頼まない人っているでしょう。それが僕。マックだったら僕はてりやきマックかエグチしかバーガーでは頼まない。日清のカップラーメンに限って言えば、僕は「塩」か「カレー」だ。例え新しい種類が出たとしても、あまりそちらに靡くということは滅多にない。そう考えると、ある種僕は変化をただ恐れているに過ぎないのかもしれないと思ってみたりする。

そんな話はさておいて。

僕は毎回古本屋の2階にある喫煙所に直行する。そこでタバコを数本蒸かして「さあ、行くぞ!」というのがお決まりである。それで今日もそこへ向かったのだが、階段を上がる時に店員さんの横顔がチラッと見えた。その瞬間に「あれ?」と思った。パッと見ただけなのだけれども「あの人は…間違いない…」と思ってしまったのである。だが、僕はそのまま階段を上がり喫煙スペースへと向かった。


タバコを蒸かしながら考える。

いや、あの人かもしれない。横顔の感じ。口の出っ張りとか、頬のふっくらした感じが似ている。と直感的に感じた訳だ。だが…僕が思い出した人とはもう何年も会っていない。大学を卒業して…社会人になりたての頃にお邪魔したぐらいだから、もう6年会っていないことになる。何だか懐かしさが込みあがってくる。

一応、Instagramは繋がっているのだけれども(これを果たして「繋がっている」と表現して良いのかどうかはまた別の問題でもある訳だが)、別に個別で何かメッセージのやり取りがある訳でもない。それに僕の知らないことだけれども、あまりSNSが動いているようには思えない。人のことだから、僕がこうして書くことが烏滸がましく、余計なお世話だ。まあ、そんな訳でもうほぼ接点を持たなくなってしまった。

それに、多分だけれども僕が転職して東京にいることを知らない。

それはそうだ。先にも書いたが、社会人1年目に会ったのが最後で、それっきり連絡を取っていないのだから。僕のことを知りようもない。それでいて「知っていて欲しい」みたいな書き方をしている僕は何と女々しい人間なのだろうかと落胆する。こうして今まで沢山の文章を自分で書いている訳だが、やはり僕はメンヘラなのかもしれない。だが、こういう自分も嫌いじゃない。僕という人間は面倒くさい。

これを機に少し連絡を取ってみようかとも思った。


そういえば、これを書いていて思い出したが、大学の卒業式の時もお世話になったんだよな…。というか、僕の大学生活に於けるバイトを支えてくれてた大恩人なんだよなと。随分と僕は薄情な人間だ。そんな大恩人のことを忘れているだなんて。最低である。

何階だったかついぞ忘れてしまったが、倉庫で商品の整理などを一緒に行っていた時間は愉しかった。僕も最初はレジ打ちとか、品出しとか、そういったものだったけれども、段々と出来るようになってレジ締めとか、それこそ倉庫での作業を任されるようになった。この倉庫の時間が僕はたまらなく好きだった。

勿論、仕事をしている訳だが、お客さんの前に立つ訳ではないから話をしながら作業が出来る。僕は過去の記録でも書いているが、元々は話すことが好きな人間だから盛り上がる。何の話をしたかを忘れてしまっているが、あの場というか、空間は未だに鮮明に記憶に残っている。

段ボールの匂い。カビの匂い。先輩の柔軟剤の匂い。カッターの音。袋を破る音。パタパタと靴を鳴らしながら歩く廊下。タブレットを手に持ち、スキャンする光景。でも、何を話したかその殆どが忘れてしまっている。一体何の話で盛り上がったのだったか…。今、思い返してみるが…一向に出てこない。何だか哀しいなと思う。だが、確実に言えることは同じ場を共有していたということだ。

場を語るか、言葉を語るか。

そういえば、CDにサインを貰った。あれは嬉しかった。生憎、実家に置いてきてしまって手元にないのが悔やまれる。それにCDプレイヤーが今の家にはない。たまに欲しいなと思うのだけれども、中々手が出ないのである。あ、これでまた思い出したのだけれども、志人を教えてくれた先輩だった。『Heaven's恋文』を貸してくれた。あ、思い出した。ご自宅に僕が半ば強引にお邪魔した時にそんな話になったんだった。

この時は、そうだ!MOROHAのライブに行った後だったから…多分、大学3年生の1月頃だったはずだ。…多分。時期は確かではないが、そんな話をしたことを覚えている。奥さんと色々と話したし、先輩とも色々と話したし…。その殆どが何だったか実はあまり覚えてないのだけれども、でもやはりその場はしっかり覚えている。

それでまた思い出したが、泊りに行った際に夜、皆で川の字で寝た。その時に先輩がいきなりテレビでホラー映像を見始めた。ニヤニヤしながらこちらを眺めていた光景をよく覚えている。僕は元々ホラーが嫌いだと伝えていたので、僕をおちょくりたかったのだろう。川の字で寝て、確か皆でしばらく話していた。でも、一向に何を話したか思い出せない…。


大学卒業式の前日、僕は先輩の家に泊めさせてもらった。

今思い返せば、本当に図々しい話である。自分の借りていた部屋を退去して泊まる場所が無いとはいえ…。若気の至りとはこれ程までに恐ろしいのか…。だが、一応手土産は買って行った。地元の美味しいプリンを沢山勝っていった。飯田橋駅で確か待ち合わせをして、そこから行った気がしなくもない…。

奥さんの美味しい料理を食べながら、これまた何の話をしていたか思い出せない。だけれども、皆で僕の手土産を食べた場面は鮮明に覚えている。美味しかったな…。やっぱり、気心知れた人たちと食べるものは何でもうまい。とは些か言い過ぎかもしれないが、全てが想い出と成り得る可能性を孕んでいる。そう考えれば儲けものだ。

翌日、朝。僕はスーツに着替えた。先輩と2ショットを撮った。

あの時、そのセリフだけは鮮明に覚えている。「俺にも子供が出来たらこんな感じになるのかな」という言葉だけ覚えている。ある意味で紋切型な表現であったからこそ覚えているのかもしれないけれども、僕にとっては表情もセットで含みがあったような気がする。というのも、僕はその時にどことなく寂しさを覚えたのだから。

まだ寒さが若干残る中、先輩は奥さんのサンダルで歩きづらそうにして僕の隣を歩いた。そして駅まで着き別れを告げた。どういう別れ方をしたか、これも鮮明に思い出せないけれども、確かシンプルだった気がする。そして電車に乗り込み大学へ向かう。

西武線から見える桜が綺麗だったことを今でも覚えている。


タバコを吸い終え、そろそろお店を出るかと思い、店内に戻る。

僕はどうも気になって仕方が無かった。だから、本棚には殆ど一瞥もくれずに階下へと向かう。向かうのは良いのだが、しかし階段を下りればすぐ真横にレジがある。降りた瞬間に遭遇する。心の準備が…とそうこう考えているうちに着いてしまった。そしてパッと見る。

「おお、そうか」

僕はお店を後にした。

よしなに。



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