健康で文化的な最低限度の生活
久しぶりに微熱が出た。
おそらく映画を観ていたからだろう。
映画や舞台、ライブを観ると、熱が出てしまうタチなのだ。
体温計を脇から抜き、37.0℃の表示を見たとき、
「ああ、これを機に観たかった映画が観れるな」と思った。
身体が元気なときは、ドラマを観たり本を読んだりすることを優先してしまい、なかなか映画を観ることに時間を割けない。
体調が悪く、ベッドで寝転ぶのなら、映画がベストな気がしたのだ。
それにしても。
精神疾患の悪化により休職せざるを得ない今は、
体調を崩しても、誰かへの迷惑や心配事を考えずにいられる。なんて幸せなことか。
ある意味健康的な思考ではないかと思う。
仕事をしていた頃は、朝起き上がれないほど辛いときが地獄だった。
しんどくて動けないのに、行かなくてはならない。
飲食業従事者で、店長のいない日は自分が店舗責任者であったから、
その日は私が休んでしまうと店が開かない。
店長に代わってもらうこともなんとなく憚られ、自分が行かねば……と這うように向かう。
出勤できたとしても、その後も地獄が続く。
アルバイトが何かミスをしたら、もちろん後処理をするのは自分。それ以前にお客様に迷惑をかけるわけにはいかない。
口は悪いかもしれないが、アルバイトの態度・対応、料理が出るまでの時間、予約、売上の管理をしなくてはならないから、意識朦朧とした中でも目を光らせる。
仕事をしていた四年間、休憩時間に気を休ませることができたことなどあっただろうか。
休憩中だろうが、何か問題が起きていないか、アルバイトは問題なく働いているか、まかないを食べつつ耳をそば立てる。
一時期タバコを吸っていたことがある。
喫煙所での社員同士のコミュニケーションに興味があったことと、
それ以上に、店舗で働いているとき、休憩時間に喫煙所に逃げ込めるからという理由があった。
喫煙所は、ほとんどの場合が店から離れていて、
電話や営業中の店の音から逃れられる、私の胃痛が治る唯一の空間だった。
タバコは身体に悪いだろうが、喫煙所だけが、心の安寧の場になっていたとは、なんという皮肉だろう。
休職をしている今、胃痛は薬の副作用でのみ出てくるし、タバコも吸う必要がなくなった。
そんな経験をしてきた私が、微熱が出ても身体がだるくても、冷静でいられる。その純粋な苦痛やしんどさだけを感じていられる。
なんなら「これを機に映画が観られる♪」などど思っている。
休職にネガティブなイメージをお持ちの方が多いようだが、
権利を行使して、心を健全な状態に戻すことは、重要だと私は思う。