問題解決のために身近にいる成功例に着目する~ポジティブデビアンス~
「POSITIVE DEVIANCE(ポジティブデビアンス): 学習する組織に進化する問題解決アプローチ」という本を読み終えました。
ポジティブデビアンスとは、課題解決のために、うまくいっていないことを変えるのではなく、少数の成功例に着目する、というもの。外部からこうするとうまくいくよ、と教えるのではなく、自分たちのコミュニティの中に存在する、同じ資源を使っているのにもかかわらずすでに問題を解決している人を探すのです。
本書では、ベトナムの栄養不良の子どもたち、エジプトの女子割礼という慣習、米国の病院の院内感染、などの事例が詳細に紹介されています。うまくいった例だけではなく、メキシコではうまくいったが他の地域に成功を広げられなかった製薬会社の例についても言及しています。
私が最も心に残ったのは、世界で最も高い乳児死亡率の課題に取り組んだパキスタン山間部のパシュトゥーン人の事例。乳児の命を救う、という目的で始めた活動が、意図していなかった次元まで、人々の気持ちと行動を変えてしまうのです。
「ポジティブデビアンス」という発想は素晴らしいけれど、これを実行しようとすると、かなり困難が予想されます。まず、対象となる地域の人々に「ポジティブデビアンスとは何か」ということを説明することから始めなければならないのですから。人々は、現状を変えることができるなんて想像もしていないし、自分たちが人前で発言するなんてとんでもない、という高いハードルが待ち構えています。
しかし、ひとたび「少数の成功者」が見つかると、彼らは外部からやってきた「偉い人」や「賢い人」ではなく、隣にいる、ちょっとだけ自分たちと違うことをしている人たちなのだから、その真似をすることはそれほど難しくありません。先に「行動」が変わり、それから「結果」が出ると、「考え方」も変わっていくのです。
自分たちで見つけたもの、というのは、教えられたもの、与えられたものよりも、強い力を持っている、ということ。
「教える」のではなく「待つ」こと。アドバイスするのではなく、相手から引き出すこと。これができていない自分に気づいて、何とかしようと思うのだけれど、つい「〇〇したらいいのに」「なんで〇〇しないの?」と言ってしまいます。
本書には、そんな「教えたがり屋」への手厳しい教訓がたくさん書いてありました。
答えが明らかなのにそれを言わないのは、「いまにも出そうなくしゃみを止めるよりも難しい」とある感染管理者は表現していました。かれは続けました。
「質問をするために余分な時間を取ることは、答えを提供する場合よりも、多くのセルフコントロールと訓練が必要でした。スタッフに解決策を考えてもらうために無駄にしていると思っていた余分な時間が、実際に解決策が提案されると、その素早い採用につながることに気づきました。時間を無駄にしていたのではなく、節約していたのです」
PDでは、「ゆっくり行くことによって早く行く」とかれは締めくくっています。 (p211)
こんな表現もあります。
今回、彼女らは「答え」を見つけるために急いで前に進むことは、抑制しなければならない誘惑であることを認識していました。クリスマスでプレゼントを贈る者のように、「プレゼントを開ける」ことを控える必要がありました。コミュニティが自分たちでプレゼントを発見して開けることが決定的に大事なのです。というのも、第1にコミュニティがオーナーシップを持つため、そして第2に、自分たちで「発見」したものは、ファシリテーターがパッケージのなかで考えていたものとはかなり異なるかもしれないからです。 (p295)
外部の専門家の役割は、「オーケストラの指揮者」としてではなく「ジャズコンボのミュージシャンとしてあるべき」なのだそう。
答えは彼らが持っている、それを信じて、質問を投げかけ、答えを彼らが見つけるまで「待つ」、それがファシリテーターの役割なのですね。
今の私にはぐさっと刺さる言葉がたくさんある本でした。読んでよかった!
*この記事の中では、ポジティブデビアンスというアプローチの中のごく一部、私が興味を持ったところについてのみ紹介しています。もっと知りたい方は上記の本をお読みください。
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