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メガバンクでの丸の内勤務を辞めて、経営危機の家業に戻った話
皆さんこんにちは。タイトル通り私はメガバンクを辞めて、現在は家業である湯葉の製造業をやっております。なぜ私がコロナ禍中にメガバンクを止めることになったのか気になる方は下記をご一読ください。
(以下の内容は、2022年秋、コロナ禍で事業の先行きが見通せない中で実施したクラウドファンディングの原稿を再構成しています。)
これまで、京ゆば三田久は京都駅の近くの町工場で長年湯葉の製造と小売を営んできました。しかし、このままでは何百年も続く湯葉という食文化の歴史が衰退していくと考え、新たな湯葉のファンを作り出すために、創業以来初の飲食・テイクアウト店(京ゆば三田久清水店)に2023年1月から挑戦します。
清水坂は、その名の通り観光名所として知られる清水寺へ続く坂道であり、観光都市京都の中でも屈指の観光客がたくさん通る道です。その清水坂で”ゆば食べ比べ”専門店を開業することで、これまでよりも多くの人に湯葉を体験していただき、「京ゆば」を守り広める一助になりたいと考えております。
プロジェクト代表挨拶
こんにちは、私は京都で100年にわたり愛され続けてきたゆば屋「三田久」の4代目となる予定の、三田竜太(ミタリュウタ)と申します。
この度、三田久 清水店 プロジェクトをきっかけに、幼少期から常に頭にあった家業の承継問題についに向き合うことにし、2022年秋に約10年勤務した銀行を退職、家業である三田久へ入社しました。
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3代目(現社長)は、私の父であり、母も三田久で長らく働いております。私が幼少のころは、祖父母と父母みんなが湯葉の製造販売に従事しており、私は工場で湯葉を作る家族や従業員の方を常に見ていました。
そして、明確には言われないものの、「あんたがゆば屋を継ぐんやで」というプレッシャーを感じながら育ちました。
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私が小学生4年生のころに書いた「将来の夢」の作文に「ゆば屋を継ぐこと」と書いたのを今でも思い出します。
当時、すでに湯葉は大昔から食べられ続けている伝統食材でしたが、食習慣の変化により消費量は横ばいから微減となっていたと考えられ、他の伝統産業と同じく斜陽産業という見られ方をしていましたので、このままではじり貧ではないかと感じておりました。
そこで、私は「大豆という素材に関わりながら、湯葉の可能性、大豆の可能性を探り、新たな商品開発ができないか?そのためには勉強が必要で、大豆の最先端の研究はどこに行けばできるのだろう?」と考えていました。
そこで目にしたのが、京都新聞です。「これからはバイオテクノロジーの時代」、そう言わんとする新聞記事をたくさん目にし、大学でそのような研究に携わりたいと考えました。
全ては三田久の発展のために逆算した人生
そこから、私のゴールから逆算する人生が始まりました。
「ゆば屋を継いで事業を存続・拡大していく」ということを最終のゴールにし、そのための中間ゴールとして大学では「大豆×バイオテクノロジー」の研究をすることに決めました。
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その後は、「三田久のために役立つ仕事」を軸に就職活動を行い、「経営者になるなら、お金の知識は不可欠」と考え、銀行に就職しました。
そして、約10年の勤務を経て、財務と経営にかかわる知識を身に着けてきました。
プロジェクトのきっかけ
突然訪れたコロナ禍、京都から観光客が消えた
いずれは実家に戻ることを前提に銀行で働き始め、そろそろいい年齢になってきたころでしたので、数年前からたびたび両親とは戻るタイミングについて会話していました。
「銀行での勤務はそれなりに充実しているし、家族も増えたし、生活も安定している。一方で、家業を継ぐというのは簡単なことではないし、会社がどのような状態になっているかわからないため不安も大きい、どうしよう・・・」と思っていましたが、まさかそんな中でコロナ禍が訪れるとは想像もしていませんでした。
文字通り京都から観光客がいなくなってしまいました。
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三田久も、京都駅の土産物売り場の需要が消失。得意先の料亭でも接待や観光などの飲食需要がなくなり、大幅な売上減に見舞われました。
父と母は、途方に暮れ、これから先のことを考えながら、誰もいなくなった京都駅・京都の街を仕事終わりに夜な夜な一緒に散歩したといいます。「こんな状況で会社は続くのか・・・」と。
しかし、そこに転機が訪れます。
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生き残りには清水店を成功させるしかない
父は、従業員の皆さまの雇用の継続と会社の未来をかけて、次の一手を模索していました。そこにたまたま、コロナ禍で経営不振に陥っていた清水坂に位置するゲストハウスが売りに出たのです。
父はこれに私財を投じて飛びつきました。「自ら湯葉の需要を作り出す努力をしなければ、衰退の一途を辿ってしまう」という危機感が、父に新規投資の決断をさせたのでした。
そして、私が家業に戻る決意をすることになります。
従業員の皆様と家族のため、覚悟を決めて家業へ
三田久は京都に位置する特性上、かなりを観光に頼っているビジネスですので、コロナ禍で2年経過した当時でも完全回復とはいかず、今後についても不安が残ります。
特に、本業が十分に回復しない中、多額の投資をして飲食店に挑戦するなど、元銀行員の立場からすれば狂気の沙汰でしかありません。飲食店経営は決して甘くないですし、倒産確率が非常に高い業態だからです。
ただ、本業はもちろん、父が始めようとしている清水店を成功させる以外に三田久の従業員の皆様と三田家が生きる道はないため今回覚悟を決めました。
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「京ゆば」を守るのが三田久の使命
京都に戻った私はまず、三田久の現状と京都の湯葉業界の現状を理解することに努めました。そしてわかったことがあります。
それは、観光客がいなくなり、誰一人歩いていない京都駅を眼前に経験しながらも、前を向いてなんとか事業を存続できているのは、地元を中心に三田久のゆばを愛してくださる根強いファンが多数いらっしゃるからということです。
そして、「約100年もの間、愛され、食べられ続けた湯葉には残す価値がある」、そう思い「京ゆば」を守り広げていくことが三田久の使命だということです。
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京都の湯葉業界を盛り上げる、京都の魅力を再発信する
京都の湯葉屋の現状を調べると、昭和初期には京都に40商店ほどあった湯葉屋が、その後の戦争や競争による淘汰、後継者不足などを背景に現在では10数店まで減少しています。実際、私が京都を離れている間にもいくつもの京都の湯葉屋がお店を畳みました。
今回の三田久 清水店 プロジェクトは、三田久のためはもちろんですが、湯葉を体験していただく機会を増やすことは、京都の湯葉業界全体のためでもあります。
加えて、京都には他にもたくさんの伝統ある食品や工芸品、文化などがあります。今回の新たな取り組みを通じていずれは周辺業界の方と一緒に京都を盛り上げていければと考えております。
三田久について
三田久は私の曾祖父が創業した京都のゆば屋で、個人商店から始まり、約100年もの間事業を続けてきました。
創業当初は九条ネギの畑が広がる土地に工場を作り製造を開始したそうですが、現在では京都駅の至近に位置していることもあり、周囲に商業施設やホテルが立ち並ぶ中でポツンと町工場を運営しております。店舗の外観も写真のとおり年々渋みを増しております。
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京都駅のすぐ近くにあるこちらの本店でゆばの製造と販売を行っているほか、JR京都駅の土産物売り場や新幹線改札内、JR新大阪駅などでゆばを販売、料亭への卸などもしております。
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濃厚な味が特徴の高級品「京の極みゆば」、精進料理のメインとなる食べ応え抜群の「東寺湯葉」、くちどけの滑らかさがたまらない「汲上ゆば」、ごはんやお酒のお供として人気の「ゆばちりめん」等で知られます。
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そして、今回の清水店プロジェクトでは、これまで製造・小売だけだった三田久が、初めて飲食業態に進出します。
製造のこだわり
国産大豆と京都の地下水でつくる
三田久では、厳選した国産大豆と京都の清浄な地下水で湯葉を製造しています。
湯葉は大豆と水の味が活かされた商品であり、良いものを使って余分な手は加えないというのがおいしい湯葉を作る秘訣です。
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製造にあたっては、まず大豆を一晩水に浸して、粉砕し、豆乳を絞りだします。
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豆乳を大きな釜に入れて熱すると大豆の中に含まれる脂質やたんぱく質が表面に膜となって固まります。これをすくい上げることで湯葉となります。
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湯葉の製造現場は豆乳がぐつぐつと熱せられているため、常にサウナのような状態で、暑いところが苦手な人には大変な職場ですが、そうした環境で職人一人一人が毎日湯葉を丁寧にすくいあげることで、三田久の味が守られています。
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生ゆばと干しゆば
薄く張った膜をすくい取ってそのまま食べるものを「生ゆば」、竹串などに吊るして乾燥させたものを「干しゆば」といいます。
多くの方は、懐石料理などで出てくるお吸い物に入った湯葉(干しゆば)なら食べたことがあるかもしれませんが、食通の方は「生ゆば」を好んで召し上がります。
三田久 清水店でも生ゆばを気軽に体験できますので、ぜひ一度京都・清水坂までお越しください。もちろん、本店やインターネットでご購入いただき、ご家庭で召し上がっていただくことも可能です。
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三田久 清水店 の概要
本物のゆばを”食べ比べ”できる店を
三田久は「滋味無限(おいしいものを長く守り続けていく)」という信念を持っており、約100年にわたり、湯葉を通してそれを実現してきました。
しかし、湯葉は未だにどこか敷居が高い食品であり、精進料理や懐石料理の一品として、あるいは一部の食通の方だけがご家庭で召し上がる様な品にとどまっています。
そうした現状を見て、「まだ湯葉のおいしさ・魅力が十分に伝わり切っていない。」と私たちは感じています。
その状況を打破するためには、数多くの人に湯葉をとにかく経験していただくことが必要です。
そこで、一度にたくさんの種類の、出来立ての湯葉を”食べ比べ”ることができるお店を開くことにしました。
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すくう速度や順番で食感・風味・色が異なる
湯葉は、すくい上げる速度や順番によって、食感・風味・色が変わるのをご存じでしょうか?多くの方はをご存じないと思います。
膜ができてすぐにすくえば滑らかなくちどけとなり、しっかり膜を張れば食べ応えのある湯葉となります。
最初は白く濃厚な味がする湯葉ですが、後半にすくわれる湯葉は黄色く、最後には褐色になり、味も甘く独特な風味に変化します。この最後にとれる褐色の甘ゆばにも多数のファンがいらっしゃいます。
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清水店では、三田久の代表的な商品である、「京の極みゆば」、「汲上ゆば」、「生ゆば」、「東寺湯葉」、「ゆばちりめん」、「京ゆばちっぷす」等をレストランで食べ比べていただくこと、一部商品はテイクアウトでも気軽に出来立てを試していただくことを想定しています。
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懐石料理ではせいぜい1~2種類しか出てこない湯葉も三田久 清水店では、たくさんの種類を一度に試していただけます。
湯葉の食べ比べってどんな感じ?なんだか楽しみになりませんか?
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<三田久4代目(予定)/三田竜太 略歴>
1988年 京都生まれ
2007年 京都・洛南高校卒
2007-2011年 京都大学農学部卒
2011-2013年 京都大学大学院農学研究科卒(農学修士)/大豆の研究
2013-2022年 三菱UFJ銀行で約10年間勤務。
営業→産業・企業調査/事業戦略提案→M&Aファイナンスを経験
2022年 三田久に入社(家業)。
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株式会社 三田久
本社所在地:京都府京都市南区東九条西山王町3番地の1
電話番号:075-691-7312
公式Instagram:
本店 https://www.instagram.com/mitakyu_official
清水店 https://www.instagram.com/mitakyu_kiyomizu
X(旧Twitter、4代目(予定)のアカウント):@kyu_zae_mon