Fly me to the moon And let me play among the stars ~読書note-30(2024年9月)~
今回のタイトルの「Fly me to the moon」がメインBGMである、今一番好きなTV番組、BSテレ東「あの本、読みました?」のファンミーティングに応募したら当たったので、9月13日に参加してきた。田舎モンにとっては、テレ東本社のある六本木一丁目駅で降りるだけでビビるよ。めっちゃオシャレで最先端なビルだった。今春からTV業界(他局)に進んだ次男坊は、こんな煌びやかな世界で仕事しているのかと。
ネット上ではこのnoteもそうだが、読書記録やおすすめ本を紹介しているアカウントも星の数ほどあり、本好きは結構いるものだと理解していた。しかし、このファンミに参加して、リアルな世界でこんなにも本好きがいて、その方々から本への熱量と愛情を肌で感じることが出来たのは衝撃&感動だった。
「赤名リカ」ドンピシャ世代としては、メインMCの鈴木保奈美さんがお休みだったのは残念だったが、進行役の角谷暁子アナは三島(平野啓一郎も)好きなだけあって純文学の世界に出てくるような聡明な美女だったし、名物プロデューサーの林Pは「仕事しないで本ばかり読んでる!?」と冗談を言うほどかなり本を読み込んでいる方だった。
参加者もスタッフも本と番組への愛溢れる素晴らしい集いだったなぁ。終了後も興奮冷めやらず、同じグループの方三人で食事に行った。お一人は小学校の図書館司書をやられている方で、児童書を含め年間400冊!!読むという読書家。もうお一人も司書の資格を持ち、8/15の放送で紹介された「辻村深月マップ」をその書店までもらいに行くほどの本好き。
いやぁ、幸せなひとときだった。三人で好きな作家さんや小説の話をお店がラストオーダーになるまで語り合った!! あの作家さんのここが良いよねぇというと、そうそうあそこも良いよねぇと、もうツーと言えばカーで、こんなにも本、特に小説のことで話せる友は、自分の身の周りにはいないので。本好きで良かったぁと思う瞬間だった。
そんな刺激もあって、9月はナント7冊読了。この番組で紹介された本をどんどん買ってしまうので、積読が増える一方。さぁ、読書の秋、ペース上げるぞ♪ って言っても我ら本好きは年中だけどね。
1.名探偵のままでいて / 小西マサテル(著)
ミステリー好きと公言していながら、あまり読まなくなってきたこの頃。一昨年の「このミステリーがすごい!」大賞受賞作が本屋の文庫コーナーで目に入ってきたので購入。小学校教諭でミステリー好きの楓が主人公、その祖父も元小学校校長で大のミステリー好きだが、現在はレビー小体型認知症(著者のお父様もその病気だった)を発症し、目黒区碑文谷の自宅でヘルパーさんの世話になりながらの生活。
そんな祖父の元に、楓が様々な難事件を抱えてきて、謎を解いてもらう、といういわゆる「安楽椅子探偵」もの。毎回、祖父が楓に「楓の物語を聞こうじゃないか」とまずは新米探偵風!?の楓の推理を聞き、その後、祖父が鮮やかにその謎を解き明かしていく。ゴロワーズ(フランス製の煙草)を呑みながら。推理とか推論とか言わずに、物語って言うところが洒落ている。
とにかく著者が海外ミステリーに造詣が深いことに驚く。楓や祖父、はたまたアンチミステリー派である四季(楓の同僚の岩田の後輩・劇団員)のセリフにも、様々な海外ミステリーの作家・作品名・トリック等が引用されている。アガサ・クリスティーやエラリー・クイーンくらいしか読んでこなかった自分を少し悔やむ。
全6章の連作集で、どの話も面白い。密室殺人や人間消失といったミステリーの王道的な事件が次々と巻き起こる。中でも、第3章の「プールの“人間消失”」が好きだなぁ。楓の友人の勤務先の小学校で、若い女性教諭・マドンナ先生がプールの授業中に突如姿を消す。自分が好きなミステリーと人情ものの融合よ。
上質なミステリーを読んだ後は、この文庫本の表紙のように、本に口づけしたく(匂い嗅ぎたく!?)なる。ゴロワーズの香りがするだろうか。
2.私の男 / 桜庭一樹(著)
16年前の直木賞受賞作、話題作であり映画化もされていて、あらすじを大まかには知っていたので、ずっと手に取るのを避けていた。しかし、本屋の文庫本コーナーで、あの今年の本屋大賞「成瀬は天下を取りにいく」の宮島未奈さんが、「いつか絶対こういう話を書きたい」と絶賛した帯が目に入り遂に購入。
9歳の時に震災に遭い、家族全てを亡くした竹中花は、当時25歳だった親戚の腐野淳悟に引き取られ、養子として育てられる。24歳になった花が同僚の御曹司・尾崎美郎と結婚する所から物語は始まる。その現在から震災に遭う15年前まで遡っていく、倒叙ミステリーのような孤児と養父(実は...)の禁断の愛の物語。
近親相姦は世界的には違法の国が多いが、日本では未成年者相手でなければ合法である。ただ、花と淳悟の関係は普通の親子ではなく、社会から隔離されてしまった孤独な者同士(淳悟も両親を亡くしている)、という特殊な繋がりだ。お互いが唯一無二の存在のため、親子以上の愛情が芽生えても不思議ではないのか。
理解できない世界観だし、好きか嫌いかと問われれば嫌いだと思うが、どんどん読み進めてしまう。さすが直木賞を獲るだけの筆致力。この過去に遡っていく構成のおかげで、この愛の異常性は理解出来ずとも、紐解くことは出来たかもしれない。
3.スモールワールズ / 一穂ミチ(著)
冒頭の「あの本、読みました?」の8/29の放送の一穂ミチさん出演回で紹介されてて、林Pも絶賛していたので即購入。積読になってたが、そのファンミで同じグループだった二人もこの本を激推ししてたので、二人に早く感想を伝えたくて一気読み。
今年「ツミデミック」で直木賞受賞した一穂ミチさんの短編集、6編プラス「スモールスパークス(あとがきにかえて)」の計7編の珠玉の物語。どれも「いい話」で終わらず、最後の最後でエグられたり、世のままならさをポンと手渡しされるような、それでいて光が微かに見える、何とも言えない読後感に襲われる作品ばかり。
総合格闘技にスカウトされた経験もある身長188cmの豪快な姉が実家に出戻ってきて、ある事情で転校し腑抜けた高校生活を送っている弟と過ごす数ヶ月を描く「魔王の帰還」、塀の中の加害者と被害者の妹との往復書簡で描かれる男女の物語「花うた」、冴えない高校教師の父の元に離婚後ずっと離れて暮らしてきた娘!?が訪れる「愛を適量」が好き。
それと、最後のあとがき代わりの「スモールスパークス」が、離婚した夫婦の距離感を、自分と別居中の妻との関係に重ねてしまい、一番グッと来てしまった。また、本編には入ってないが、上述の公式サイトに「回転晩餐会」という特別掌編が載っているのだが、これがまぁ秀逸。マジで凄い作家さんと出逢ってしまったものだ。
自分は「月の満ち欠け」(佐藤正午)や「熱源」(川越宗一)や「少年と犬」(馳星周)や「テスカトリポカ」(佐藤究)のような、スペクタクルで広大な物語が大好きなのだが、こんな小さな世界の窓を覗くのも面白いなぁと。
4.方舟 / 夕木春央(著)
何なんだ、このオセロの四隅を獲って全部裏返すかの大どんでん返しは!!
一昨年の週刊文春ミステリーベスト10の第1位、ネットでもかなり評判が良かったので、文庫化されたのを機に購入。密室でタイムリミットも迫るクライムサスペンスで、極限での謎解き後にとんでもないラストを迎える傑作。
主人公の柊一は大学時代の友人と従兄の計7人で長野の別荘に来ていた。別荘の持ち主の裕哉が以前見たという近くにある地下建築を見に行くことになったのだが、中々たどり着けず。到着した頃には、もう別荘に戻れぬ時刻となり、道に迷ってそこにきたという親子3人連れと共に、計10人で「方舟」と称される三層構造の地下建築で一晩過ごすことになる。
ところが、翌朝に突然の大地震が起こり、地下一階の出口が巨大な岩で塞がれてしまう。その岩を地下二階の巻き上げ機で下に落とすことが出来るが、地下一階への通路を塞いでしまうため、巻き上げ機の操作者が出られなくなる。もう一方の非常口は水没している地下三階を通らないと行けない。つまり、誰か一人を犠牲にしなければここを脱出出来ないという状況に。
いわゆる「トロッコ問題」のような倫理観を試される状況の中、次々と密室殺人が起こる。皆が犯人に犠牲になって(巻き上げ機を操作して)もらおうと考えるが、中々犯人が判明せず。徐々に謎解きは進むが衝撃のラストが待つ。絶対にもう一度読み返したくなる作品。
上述の「トロッコ問題」のような考察は、そこに閉じ込まれた者達だけでなく、読み進めている我々読者にも突き付けられる。また、衝撃のラストも「他に方法は無かったのか」と、自分の倫理観と照らし合わせて考えさせられる、凄いミステリーだなぁ。
5.赤と青とエスキース / 青山美智子(著)
「あの本、読みました?」の9/12の放送に出演した青山美智子さんの話を聞いて、何て素敵な作家さんなんだろうと思い、文庫化されたばかりの一昨年の本屋大賞2位の本作を購入。青山さんは昨年のGWに読んだ「お探し物は図書室まで」以来。
第1章でこの物語の主役である一枚の「エスキース(下絵)」が描かれる。メルボルンの大学に留学していたレイは、日本から永住した両親が画商を営み、デザインスクールに通う同い年のブーと恋に落ちる。期限付きの恋に葛藤する二人だが、レイは帰国直前にブーの友人である画家の卵ジャック・ジャクソンのモデルをする。そこで描かれたエスキースが海を渡り、第2章以降、日本で様々な人々の物語を紡いでいく。
第2章がエスキースを展示会で飾るための額の製作を依頼された額縁工房の弟子と師匠、第3章がエスキースが飾られた喫茶店で対談する先輩漫画家とかつてアシスタントだった後輩漫画家、第4章が元恋人の家で第3章のエスキースが写った対談が載る雑誌の切り抜きを見た、輸入雑貨店で働く女性とオーナーの物語。第1章含めこの4つの物語が、実は...。エスキースを描いたジャック・ジャクソンが語る、驚きのエピローグ。
バラバラだと思っていたものが、最後に全て繋がるって、やっぱ気持ちいい。「月の満ち欠け」(佐藤正午)や「花の鎖」(湊かなえ)みたいに。これがあの番組で話されていた、青山作品には必ずあるという「最後の驚き」ってやつか。昨日読了の「方舟」はオセロのようだったが、これはさしずめ数珠つなぎの手品の万国旗ってとこだね。
6.すべての月、すべての年 / ルシア・ベルリン(著)、岸本佐知子(訳)
2年前に読んで度肝を抜かれた「掃除婦のための手引き書」に続く、ルシア・ベルリンの短編集第2弾、文庫化されるのを待ちに待っていたので即購入。前作はホント衝撃だった。その感想はコチラ。
先日の「あの本、読みました?」で中学入試に取り上げられた小説の紹介があったが、前述の青山美智子さんの作品はよく入試に出るとのことだった。こちらはその真逆で、性的描写に暴力描写、薬物中毒にアルコール依存と、これ絶対に中学入試には出て来ない文章だ。でも心揺さぶられるんだよね。
いきなり最初の「虎に噛まれて」では、アメリカのメキシコ国境近くの街から、違法診療の病院で中絶するため国境を越える話だし(主人公は直前で中絶を取りやめる)。前作同様、著者の自伝的要素が強く、著者が見てきた、生きてきた世界を題材にしている。アングラというか社会の底辺でもがく人々を描くので、品がないと言えばそうなのだが、時に文学的な表現で綴られるのが面白い。
表題作「すべての月、すべての年」はスキューバで有名なメキシコの漁村への傷心旅行なのだが、マヤ神話の「チラム・バラムの書」が引用されてたり。「哀しみ」や「笑ってみせてよ」では、短編の中でも語り手が変わり、飽きさせずにテンポよく読み進められる。それは岸本佐知子さんの翻訳のおかげでもあるなぁ。
「ミヒート」のメキシコからアメリカに出てきた若母アメリアの話など、ホントやるせない物語ばかりなのだが、「ファック・ア・ダック」と誰しもたまには言いたくなるさ。テキーラサンライズでも吞みながら。
7.透明な螺旋 / 東野圭吾(著)
本屋さんの文庫の新刊コーナーで東野圭吾作品を見つけたら、無条件に買ってしまう。ガリレオシリーズの最新刊でシリーズ第10弾、湯川のプライベートが明かされる貴重な作品。
南房総での銃殺事件の被害者・上辻の同居人の島内園香(花屋店員)が、アリバイもあるのに行方をくらます。園香は児童養護施設職員だった母を1年前に亡くしている。園香と行動を共にしていると思われる、亡き母と共に長年世話になっていたナエさん(絵本作家)が、かつて湯川とメールのやりとりをしていたことが編集者への調べで判明。
お馴染みの捜査一課の草薙と薫は、湯川にナエさんの居場所を聞き出すため、適当に嘘をついて連絡とるよう捜査協力を頼むが、湯川は「容疑者と決まった訳ではない人間を騙すのは嫌だ」と拒否。一方、上辻と直前に通話履歴があり、園香にも半年前から接触しようとしていた銀座のクラブのママ・根岸秀美が捜査線上に上がる。
今回も一筋縄ではいかなかった、これが東野ミステリーの楽しみだけど。東野作品は読後にせつなさが残るものばかりだが、本作も犯人はあの「容疑者Xの献身」同様、愛する人を守るために殺人を犯す。そして、終盤まである程度犯人が絞られて、淡々と謎解きが進んで行く。しかし、最後の最後の一捻りが、まぁせつないのよ。そこに今回は湯川の秘密も加わるし。
映像化されるには(福山が演じるには!?)、ちょっと話が地味過ぎるか。でも、シリーズの中でも好きな作品だなぁ。もう一度住んでみたい街、横須賀が出て来るしね。
自分は「あの本、読みました?」のメインテーマが、「Fly me to the moon」になっていることに凄く意味を感じる。自分にとって本・読書は、「どこか知らない場所へ連れて行ってくれるもの」だから。番組内で作家の青山美智子さんが、「自分はSFを描いているつもりだ」と仰っていたし。「自宅から半径1km圏内にあるものがテーマだけど」と。
これからも「月まで連れてって」くれるような本とたくさん出会いたいものだ。
一番好きなNancy Wilsonバージョン↓