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様々な事情で世に出ることのなかった作品たちをご紹介。
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2023年2月の記事一覧

アパレルショップ綺羅の事件簿 06

アパレルショップ綺羅の事件簿 06

2 おもて通り(承前)

楓   「落ち着いて。落ち着いてってば、遥。一度疑い始めちゃうとね、どんなささいなことでも怪しく見えてくるものなの。もうちょっとノブ君を信じてみたらどう?」

遥   「信じようと思ったよ。だけど、もう無理。昨日の夜、決定的な浮気の証拠を見つけちゃったから」

楓   「決定的な浮気の証拠?」

遥   「(スマホを取り出して)友達のインスタに偶然、写ってたの。ほら、見て

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アパレルショップ綺羅の事件簿 05

アパレルショップ綺羅の事件簿 05

2 おもて通り

 商店街。〈アパレルショップ綺羅〉の店先。

 下手から遥と楓が現れる。

楓   「ん、もう。一体、どこへ行くつもりなの?」

遥   「(店を指し示し)ここ」

楓   「〈アパレルショップ綺羅〉? どうしてこんなところに? ノブ君が浮気している証拠を探しに来たんじゃなかったの?」

遥   「そうだよ。あいつ、私に隠れてこそこそと浮気なんかして。絶対に許さないんだから」

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アパレルショップ綺羅の事件簿 04

アパレルショップ綺羅の事件簿 04

1 〈綺羅〉店内(承前)

ほのか 「イライラしているときはからだを動かすとスッキリするんじゃないかな? バレーボール、ほのかたちと一緒にやる? (バレーボールを打ち上げて)そーれ!」

仁恵  「そーれ! (ボールを打ち返そうとして失敗)あ、ごめん。失敗しちゃった」

ほのか 「どんまい! ちょっと休憩したほうがいいよ。それじゃあ選手交代しまーす。猪俣仁絵に代わってマネキンちゃん」

麻美  「

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アパレルショップ綺羅の事件簿 03

アパレルショップ綺羅の事件簿 03

1 〈綺羅〉店内(承前)

仁恵  「実は……防犯カメラ、壊れちゃってるの」

麻美  「はあ? どういうことだ?」

仁恵  「お客さんがいなくて、あまりにも退屈だったから、ほのかちゃん――あ、うちの店員ね――彼女とここでラグビーごっこをしていたら……」

麻美  「ラグビー? ここで?」

仁恵  「テレビでワールドカップを観てたら、なんだかあたしも真似してみたくなっちゃって。で、マネキンもメ

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アパレルショップ綺羅の事件簿 02

アパレルショップ綺羅の事件簿 02

1 〈綺羅〉店内(承前)

仁恵  「どうしよう? ねえ、どうしよう? あれこれ妄想が膨らんじゃって、あたし、もう恐ろしくって恐ろしくって。ガードマンさん、どうしたらいい? これじゃあ今日の仕事に、影響が出ちゃうかも。あたし、あまりの恐怖で、朝からひとこともしゃべることができなくなっちゃって……」

麻美  「おい! 嘘つくなよ。どの口がそんなことをいうんだ?」

仁恵  「……え?」

麻美  

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アパレルショップ綺羅の事件簿 01

アパレルショップ綺羅の事件簿 01

1 〈綺羅〉店内

 暗闇。舞台上手のキラにスポットライトが当たる。ポーズをとったまま、微動だにしないキラ。キラは赤い衣装を身に着け、かかとの高いハイヒールを履いている。

キラ  「(目線だけをちらちらと観客のほうに向け、恥ずかしそうにはにかみながら)イヤだ、恥ずかしい……いくらあたしが可愛いからって、そんなにじろじろ見つめないでよ。照れちゃうじゃない。(いきなり手を動かして)ん、もう! だから

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アパレルショップ綺羅の怪事件 解説

アパレルショップ綺羅の怪事件 解説

 「〈アパレルショップ綺羅〉の怪事件」は2019年末に書き下ろした舞台劇の脚本です。
 その年の秋に大阪・阿倍野のOVAL THEATERで上演された「アンラッキーガール」がありがたいことに好評だったため、次の公演でも脚本を書かせていただくことになりました。
 先方からの注文は「『バカサスペンス』みたいなコメディーミステリ」。「バカサスペンス」は2018年にリリースされたスマホ用推理ノベルゲームで

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