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アパレルショップ綺羅の事件簿 06

2 おもて通り(承前)

   「落ち着いて。落ち着いてってば、遥。一度疑い始めちゃうとね、どんなささいなことでも怪しく見えてくるものなの。もうちょっとノブ君を信じてみたらどう?」

   「信じようと思ったよ。だけど、もう無理。昨日の夜、決定的な浮気の証拠を見つけちゃったから」

   「決定的な浮気の証拠?」

   「(スマホを取り出して)友達のインスタに偶然、写ってたの。ほら、見て」

 遥、楓にスマホの画面を向ける。

   「夜の繁華街で友達とピースサイン……べつに普通の写真じゃん」

   「後ろをよく見て。なにか写ってるでしょ?」

   「(画面に顔を近づけ)あ……誰かいるね。……あれ? これってノブ君?」

   「拡大してみて」

   「……あ」

   「女の人と抱き合ってるでしょ?」

   「ホントだ……でもこれ、誰?」

   「知らない。私が知るわけないでしょ」

   「ノブ君には訊いてみたの?」

   「もちろん。風俗街のいかがわしいビルに通っていることに関しても問いただしてやったわ」

   「ノブ君、なんていってた?」

   「風俗街に通っていることに関してはしどろもどろで、まともな答えなんてひとつも返ってこなかった。あれはもう、浮気を認めているのと一緒」

   「(スマホを指差し)この写真のことは?」

   「子供にもばれるようなしょうもない嘘をついたから、私、腹が立つどころか、なんだか悲しくなってきちゃって……ああ、もうやめよう、やめよう。説明してたら、だんだん鬱になってきちゃった。つまらない話はこれでおしまい。さあ行こう、楓」

   「ちょっと待って。浮気の証拠をつかむためにここへ来たんだって、さっき話してくれたよね? 〈アパレルショップ綺羅〉……このお店にノブ君の浮気を証明するなにかがあるってこと?」

 力強く頷く遥。深呼吸をして、入口のドアノブに手をかける。(実際にドアはなくてもOK。パントマイムで)

   「さあ、行くよ。……あ。このお店のドア、全面鏡張りになってるんだね。ちょっと待って。店に入る前に、服装を整えるから」

   「大丈夫。全然、乱れてないってば」

   「よし、オッケー。さあ行くよ! ……あ、待って。靴紐がほどけそう」

   「もう! 一体なんなの? さっさと行くよ!」

 楓、遥の手を引っ張って下手に退場。

つづく

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