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アパレルショップ綺羅の事件簿 05

2 おもて通り

 商店街。〈アパレルショップ綺羅〉の店先。

 下手から遥と楓が現れる。

   「ん、もう。一体、どこへ行くつもりなの?」

   「(店を指し示し)ここ」

   「〈アパレルショップ綺羅〉? どうしてこんなところに? ノブ君が浮気している証拠を探しに来たんじゃなかったの?」

   「そうだよ。あいつ、私に隠れてこそこそと浮気なんかして。絶対に許さないんだから」

   「ねえ、それってホントに浮気なのかな? ノブ君って遥にゾッコンじゃん。浮気なんてするようには見えないんだけど」

   「(今にも泣きだしそうな顔で)私だって信じたくなかったよ。だけど、調べれば調べるほど疑わしい手がかりぼろぼろと出てくるんだもん」

   「(遥の肩に触れ)落ち着いて、遥。もしかしたらあんたの勘違いってことも考えられるでしょ? どうしてノブ君が浮気してるって疑うようになったのか、もう一度ちゃんと話してもらえるかな?」

   「……ノブ君、最近おかしいの」

   「おかしいってなにが?」

   「なにもかも。私たち、この一ヵ月間、全然デートしてないんだよ。私から誘っても、『仕事が忙しいから』と断られてばっかり」

   「ホントに仕事が忙しいんじゃないの?」

   「一度、電話の向こう側から女性の声が聞こえてきたことがあった」

   「会社の人かもしれないじゃん。それだけで浮気だと疑うのはちょっと――」

   「それだけじゃないもん。私、ノブ君が浮気していないかどうか確かめるために、会社帰りの彼をこっそり尾けたことがあったの。ノブ君、風俗街の中にあるいかにも怪しげなビルへ入っていった」

   「仕事だったんじゃないの? ノブ君、どんなものでもキレイにクリーニングしちゃう〈ピッカピカ興業〉の社長さんでしょ?」

   「社長っていっても、社員はノブ君一人だけだし」

   「たった一人で会社を立ち上げたんでしょ? すごいじゃん」

   「私はただのサラリーマンでいてくれたほうがよかった。いつ潰れるかわからない小さな会社なんだよ。不安で仕方ないよ」

   「まあまあ。将来の心配については、今はひとまず置いといて……風俗街のビルへ出かけたのは、仕事だったんじゃないの? そういうお店なら、クリーニングするものもたくさんあると思うし」

   「ノブ君、オシャレしてた」

   「……え?」

   「私とデートするときみたいな恰好だった。仕事であんなオシャレな服は着ないってば」

   「確かに……それは仕事じゃないかもね」

   「しかも一度や二度じゃないんだよ。何度も何度もそのビルに通ってるの。先週は合計三回。きっと、そこにお気に入りの女の子がいるんだよ。ノブ君、純情だからさ、お金目当ての風俗嬢にたぶらかされてるんだと思う。どうしよう? ねえ、どうしよう?」

つづく

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