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アパレルショップ綺羅の事件簿 01

1 〈綺羅〉店内

 暗闇。舞台上手のキラにスポットライトが当たる。ポーズをとったまま、微動だにしないキラ。キラは赤い衣装を身に着け、かかとの高いハイヒールを履いている。

キラ  「(目線だけをちらちらと観客のほうに向け、恥ずかしそうにはにかみながら)イヤだ、恥ずかしい……いくらあたしが可愛いからって、そんなにじろじろ見つめないでよ。照れちゃうじゃない。(いきなり手を動かして)ん、もう! だから恥ずかしいってば! ……あ、いけない! 動いたらみんながびっくりしちゃう。だって、あたし、このお店のマネキンなんだもん」

 再びポーズをとり、黙りこむキラ。

 照明が灯ると、そこは〈アパレルショップ綺羅〉の店内。キラのほかに、青い衣装をまとったマネキン(以下、青マネキンと表記)が一体、飾ってある。台の上に並べられた商品。壁にはハンガーに吊るされた商品も。奥にレジカウンター。店員のほのかはカウンターの上に座り、スマホで自撮り画像を撮りまくっている。

ほのか 「(スマホを覗きこみ)うーん、こっちの写真のほうが可愛く撮れたかも。『出勤なう。お客さん全然いなくて、ほのか、今日も超暇でーす』……送信、と。お腹空いたなあ。ロッカーにしまっておいたおやつ、早速食べちゃおうかなあ。そう――今日のおやつはシュークリーム! 初めて自分で作ったんだあ。ほのかは料理上手だから、きっと美味しくできたはず。……あ。でも、今食べると、店長に横取りされちゃうかも。店長、お昼から出かけるはずだし、そのときに食べようっと。(カウンターから飛び降り、上手に移動しながら)シュークリームのために、ほのかは今日もお仕事頑張っちゃいまーす」

 ほのか、上手へ退場。それを見届けて動き出すキラ。

キラ  「今の女の子は永田ほのか。このお店――〈アパレルショップ綺羅〉の店員さんなの。いつもスマホばかりいじってて、仕事のほうは全然できないんだけどね。……あ、ごめーん。紹介が遅れちゃった。あたしはこのお店がオープンしたときから、ずーっとこの場所に飾ってある美人マネキンです。……え? あたしの名前? うーん、マネキンだから名前はないけど……お店の名前と同じキラでいいかな? ……え? なに? マネキンがなんでしゃべるのかって? あたし、このお店のことが大好きなの。好きで好きでたまらなくって、だからもっとお店の役に立ちたくなって……そんな願いを神様が聞き届けてくれたのかな? (胸に手を置いて)いつの間にかこの中に魂が宿って、いろいろと考えることができるようになっちゃったってわけ。いわばマネキンの妖精……かな? きゃは。もちろん、みんなには内緒だけどね。(客席のほうに近づいて)このお店、本当に素敵なんだよ。今日はみんなに、このお店――〈アパレルショップ綺羅〉のことをいっぱい教えてあげる。というわけで、『〈アパレルショップ綺羅〉の怪事件』、はじまりはじまり~」

 下手から仁恵の声が聞こえてくる。

仁恵  「いや、だからまあ、盗られたものはなにもなかったんだけどね」

キラ  「あ、いけない。店長が戻ってきちゃった。お仕事、お仕事」

 自分の定位置に戻り、動きを止めるキラ。

 仁恵と麻美が下手から登場。

麻美  「被害がなかったのは不幸中の幸いだったな」

仁恵  「それはまあそうなんだけど、なんだか逆に気持ち悪くない? じゃあ、犯人はなにが目的でうちの店に忍びこんだわけ? ああ、怖い怖い。もしかしたら、隠しカメラでも仕掛けられたんじゃないか? どこかに隠れてあたしたちのことを監視してるんじゃないか? って、いろいろと不安になってきちゃう。ホント、怖い。マジ怖い。やばいやばい。劇ヤバ」

 麻美は何度も口をはさもうとするが、仁恵がマシンガンのようにしゃべり続けるので、うまくいかない。

つづく

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