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アパレルショップ綺羅の事件簿 04
1 〈綺羅〉店内(承前)
ほのか 「イライラしているときはからだを動かすとスッキリするんじゃないかな? バレーボール、ほのかたちと一緒にやる? (バレーボールを打ち上げて)そーれ!」
仁恵 「そーれ! (ボールを打ち返そうとして失敗)あ、ごめん。失敗しちゃった」
ほのか 「どんまい! ちょっと休憩したほうがいいよ。それじゃあ選手交代しまーす。猪俣仁絵に代わってマネキンちゃん」
麻美 「マネキンちゃん?」
青マネキンを頭上高くに持ち上げるほのか。
ほのか 「じゃあ、次はマネキンちゃんのアタックから始めまーす。そーれっ!」
麻美 「だからやめろってば!」
ほのか 「ん、もう。さっきから、なにカリカリしてんの? わけわかんない」
麻美 「この状況で私に怒られると思ってない貴様らのほうが理解不能だわ」
ほのか 「ほのかたち、なにか怒られるようなことやったっけ?」
下手から早紀が登場。きょろきょろとあたりを見回しながら店内へ入ってくる。明らかに挙動不審。
麻美 「ほら、客が来たぞ。じゃあ、私はこれで帰る。被害届は出さないってことでいいんだな? あ。あと、防犯カメラの件は上司に報告しておくから」
仁恵 「ガードマンさん。あんたが壊したってことにしといてもらえる?」
麻美 「できるか、馬鹿野郎」
麻美、早紀に会釈して退場。早紀、怯えた表情で麻美を見る。
キラ 「(小声で囁くように)マネキンの妖精、キラです。ここで新しいキャストの登場ね。(早紀に近づき)この人は……えーと……初めて来たお客さんかな? だから、あたしも名前は知らない。(顔を覗きこみ)あれ? でも、どこかで見たことあるような……」
キラ、定位置に戻ってポージング。
仁恵 「(ほのかから受け取った青マネキンを元の位置に戻しながら)いらっしゃいませー」
ほのか 「(素早く早紀に近づき)お客様。なにかお探しですか?」
早紀 「いえ……そういうわけじゃなくて……」
ほのか 「(急に態度を変えて)なんだ。ただのひやかしか」
仁恵 「ちょ、ちょ、ちょ。(ほのかと早紀の間に割って入り)すみません。この子、まだ見習いでして……」
ほのか 「ここで働き始めて三年になるけどね」
早紀 「あの……ちょっとお尋ねしたいんですが」
仁恵 「はい。なんでございましょう?」
早紀 「このあたり……オバケとか出たりします?」
仁恵 「……は?」
早紀 「このあたりってよくオバケとか出たりしますか?」
仁恵 「(ほのかのほうに顔を向けて)やっぱり、ひやかしの客だったみたい」
早紀 「いえ、そうじゃなくて――」
SE 携帯電話の着信音
早紀 「あ……すみません」
早紀、スマホを取り出す。
早紀 「お母さん、なに? ……商店街の福引は何等だったかって? 私は忙しいの! そんなことでいちいち電話してこないでよ。……五等! 五等のティッシュしか当たらなかったよ。じゃあ、もう切るね。バイバイ」
つづく