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アパレルショップ綺羅の事件簿 03
1 〈綺羅〉店内(承前)
仁恵 「実は……防犯カメラ、壊れちゃってるの」
麻美 「はあ? どういうことだ?」
仁恵 「お客さんがいなくて、あまりにも退屈だったから、ほのかちゃん――あ、うちの店員ね――彼女とここでラグビーごっこをしていたら……」
麻美 「ラグビー? ここで?」
仁恵 「テレビでワールドカップを観てたら、なんだかあたしも真似してみたくなっちゃって。で、マネキンもメンバーに加えてラグビーごっこを始めたんだけど……」
青マネキンに頭突きを始める仁恵。
仁恵 「(急に野太い声で)おらおらおら、タックルタックルぅ!」
仁絵、青マネキンを抱きかかえ、乱暴に振り回す。
仁絵 「とりゃああああっ! ブレーンバスターっ!」
麻美 「おい。競技が変わっちゃってるぞ」
仁恵 「マネキン、あとは任せたぞ! 行けえっ! トライだあっ! (マネキンを頭上高くに持ち上げて)がっしゃーん!」
麻美 「え?」
仁恵 「というわけで、監視カメラは見るも無残な状態になってしまいましたとさ。めでたしめでたし」
仁絵、青マネキンを元の場所へ戻す。
麻美 「ちっともめでたくないだろ。貴様、馬鹿なのか? 仕事中になにやってんだよ? それ一体、いつの話だ?」
仁恵 「(ばつが悪そうに)だから……ワールドカップの最中……」
麻美 「去年の話かよ! それからずっと防犯カメラは壊れたままだったのか? どうしてすぐに報告しなかった?」
仁恵 「だって……怒られると思ったから……」
麻美 「そりゃ、怒るよ! 当たり前だろ!」
仁恵 「さっき、怒らないっていったくせに」
麻美 「話の展開がくだらなすぎて怒りたくもなるわ!」
仁恵 「すみません。そのあとは深く反省して、どれだけ店が暇でも、ラグビーごっこなんていっさいしていませんから」
麻美 「当り前だ。高価な防犯カメラを壊して、それでもまだラグビー続けてたら、逆に感心するわ」
上手からほのか登場。バレーボールを抱えている。
ほのか 「ねえ、店長。暇だからバレーボールでもやらない?」
麻美 「全然、反省してないだろうが! ねえ、馬鹿なの? 貴様ら、本当の馬鹿なの?」
ほのか 「ねえねえ。ガードマンさん、なんで怒ってんの?」
仁恵 「さあ? たぶん、更年期障害?」
麻美 「違うわ! 貴様とたいして歳も変わらないし」
つづく