『海の見える理髪店』荻原浩の直木賞受賞作!家族をテーマに、人生の喪失と希望を描いた短編小説集
2016年の上期、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』が芥川賞を受賞し、書店では売り切れ続出の大ヒットとなりました。
では、その年に直木賞を受賞した作品は、なんだったか覚えているでしょうか?そう、それが今回ご紹介する『海の見える理髪店』です。とっても読みやすいし、優しい空気の流れる素敵な作品なのですが。
『コンビニ人間』に圧倒されてしまった感が否めなくて悲しい。この前テレビのクイズ番組で、東大王でさえ誰もタイトルを答えられておらず、切なくなった。直木賞受賞作ではありますが、隠れた名作的な雰囲気が漂う。
というわけで、意外と読んだことがない人も多いのでは。読み終わったとき、大切な人に会いたくなる1冊です。
『海の見える理髪店』を含む6作品を収録した1冊
表題作『海の見える理髪店』の舞台は、海辺の小さな町にある理髪店。
タイトル通り、お客さんが向き合う鏡越しには、海がいっぱいにひろがっていて、読んでいるだけで、冒頭からさわやかな気分になれます。
店主は、白髪の混じる、落ち着いた雰囲気の高齢男性。物語は、この店主がお客に、人生語りをしながら進んでいくのですが、店主には、人には言えない「ある辛い過去」があって……。
心が温かくなって、じんわりくる読後感の作品。ショートムービーを1本見たかのような、しっかりとした満足感も感じられる短編です。
表題作以外も、温かみが伝わる作品がたくさん
この本には、表題作『海の見える理髪店』のほかにも、5話の小説が収録されています。
いつか来た道・・・久しぶりに一人暮らしの母を訪ねる娘の話
遠くから来た手紙・・・夫を置いて、子どもと一緒に実家に帰った妻の話
空は今日もスカイ・・・親の離婚をきっかけに、家出をした娘の話
時のない時計・・・父が大切にしていた時計を修理に出す息子の話
成人式・・・亡くなった娘が成人の年、成人式に替え玉出席する夫婦の話
どの作品も、辛い出来事と向き合いながら、希望を見出す明るさが感じられる作品たちです。
きっと私はなんでも鏡越しに見ていたんだと思います。真正面から向き合うとつらいから。
これ『海の見える理髪店』の店主のセリフなのですが、全体に通じるテーマ的な一文だと思う。
辛くて向き合えない過去って誰にでもあると思うのですが、いつか鏡越しではなく、直面する時が来て。そんな、勇気のいる瞬間を、人生のターニングポイントになりそうな瞬間を切り取った作品ばかり。
毎日に疲れたな、休みたいなって気分のとき、また元気に生きる力をくれる1冊だと思う。おすすめです。
■その他、荻原浩さんの小説おすすめ
『海の見える理髪店』とはうってかわって、ヒタヒタと恐怖が迫ってくる小説。最後の一行に震え上がること間違いなしの、おすすめサスペンスです。
■次はコレ!この本が好きなら、これも好きなはずシリーズ
・『噛みあわない会話と、ある過去について』辻村深月――過去の怒りは消えないけれど、どう向き合うかはあなた次第
・『架空の犬と噓をつく猫』寺地はるな――家族全員が、拠り所を求めて嘘をつく。その嘘が解かれたとき、家族はどうなるのか?泣ける家族小説
・『また、同じ夢を見ていた』住野よる――幸せとは?の答えを探す小学生の女の子が、不思議な出会いを経て成長していく物語。読めば心が温まる!
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