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洞川食探訪vol.4(書き手:上野千蔵)「洞川の山の味の話」

九鬼祭参加アーティストで普段は映像作家をしている上野千蔵といいます。
2年前のMIND TRAILという洞川で開催された芸術祭の製作中に、彫刻家の木村くんが、「土日しかやってない、パフェを出す蜂蜜屋があるから行かない?」と誘ってくれました。「阪口商店 獣美恵堂奈良」という不思議な名前のお店でした。

正直に言うと40才目前のおっさんの僕は、パフェと聞いてもあまり乗り気にはなれませんでした。しかし行ってみると僕がパフェという言葉から連想するゴージャスなものとは違い、底からコーンフレーク、ソフトクリーム、イチゴ、その上に蜂蜜という素朴なパフェでした。

ちなみにこのイチゴは阪口さんの蜂達が受粉をしてできたそう。

作っているところを眺めていると、店主の阪口さんがかなりゆっくりと仕上げの蜂蜜をかけていました。なぜなら、そのはちみつの固いこと!涼しい季節もあってか、とてもゆっくりとしか蜜が流れ落ちてきません。さらに冷たいソフトクリームの上にかかった蜂蜜はまるで水飴の様で、こんなに歯応えのある蜂蜜を食べたことがありませんでした。初めて蜂蜜を噛んだ、という記憶があります。
よど良い甘さの蜂蜜とソフトクリームを、阪口さんこだわりの敢えてちょっと凍らせたイチゴがさっぱりとしてくれて、あっさりと食べ終わってしまいます。

パフェを作ってくれている店主の阪口さん

阪口商店に入ると種類の蜂蜜が置いています。とち、キハダ、くり、アカシアまじり…などなど色んな名前がラベルされています。
阪口さんに、どうやって味を変えてるのか聞いたところ、
「一つの花の蜜だけ採ろうとはしてないし、他の花の蜜もしぜんと混ざるけど、大体この季節やったらキハダの花が咲くからキハダ多めになるやろうなぁ。⚪︎月頃ならトチ多めやろな。特別な事はしてないよ。」と答えてくれました。
「深山」と名付けられた蜂蜜には「山桜の後に採れた蜜で、花の種類は分からないけど琥珀のような美しい蜜です。」と書いています。素敵…
沢山並んでいる蜂蜜のビンを見ると明らかに蜜の色が違い、花の種類が違うことがすぐに分かります。そんな季節の色の変化を眺めるだけでも楽しいです。
また、阪口商店の蜂蜜は自然へのこだわりも沢山詰まってます。実は今回の制作で山に向かう途中、阪口さんご夫婦が養蜂されてるところに偶然出会えたんですが、ほとんど人が通らなそうな山で作業されてました。阪口さんは季節や天候で山の中のどこに箱を置けば美味しい蜜を採れるかを考えて、その年毎に場所を変えるそうです。山の奥に箱を置く理由としては、近くに畑がない事で農薬の混ざらない蜜を採る為だそうです。(あと、村の近くに置くと熊が来て迷惑がかかるとも言ってました…)
阪口商店の蜂蜜は、無加糖、無添加、無農薬。ミツバチ達自身による完熟をまって採蜜するのでとても濃厚だそう。
人がなるべく手を加えない分、ここの蜂蜜は毎年味が変化するため、二度と会うことのできない一期一会の山の味です。一つづつ試食させてくれるので是非気に入りの蜂蜜を見つけて持って帰ってほしいです。

採れた日付と、場所が書かれているその時にしか会えない一期一会の蜂蜜達

また、九鬼祭では洞川の方とタッグを組んで創作をしているんですが、僕の創作パートナーであるとも兄曰く、阪口さんはこの辺りで一番の猟師でもあるそうです。とも兄はご自身の民泊以外に、あたらしや旅館さんでもお手伝いをされていて、そこでは絶品のぼたん鍋を出してくれます。そこの猪肉が阪口さんが獲ったものです。僕はそれまでいい猟師とは、獲物を沢山捕る人としか思っていませんでした。しかしとも兄が言っている一番の猟師というのは、一番美味しい獲物を届けてくれる猟師と言う意味でした。
育てている訳でもあるまいし、山にいる動物は誰が獲っても一緒なんじゃないか?と思いましたが、話を聞いて納得しました。捕り方、さばき方で全然味が変わるそうです。罠で獲ったものは暴れて体に血が回ったりストレスで、味が悪くなってしまうそうです。特に猪などはなるべく近づいて一撃で仕留めることが重要だそう。
ちなみに阪口さんが若い時に、年輩の猟師さんが寝ている猪を捕れるという話そしたそうですが、その時はそんなもの嘘だと信じなかったそうです。しかし最近になって阪口さんも寝てる猪を捕れるようになったそう… すごっ。(猟のコツの話をはじめると面白すぎて長くなるので、ぜひ直接阪口さんにお聞きくださいませ。)


洞川温泉 あたらしや旅館

さて、肝心のあたらしやさんのぼたん鍋の話です。ジビエと聞くと苦手意識をもってる人も多いかと思いますが、これが臭さが全くなく、肉の甘い旨みが詰まってて本当に美味いんです!豚肉と違い脂身もコリコリとした歯応えがあります。夕食時のあたらしやさんに行くと、旅館中に独特の甘い香りが漂っています。地元ならではの秘伝のタレの味付けもあって、まさに絶品ですので宿泊される方は是非食べてほしいと思います。とも兄曰く、これを食べてる人はもう普通の家畜が食べられなくなるとのことですが、それも納得。

あたらしやさんの美しい盛り付けで、紅白のコントラストがまさに牡丹の花の様

僕がこのぼたん鍋を頂いたのは、標高の高い洞川が少し早めの秋を迎えた頃でした。とも兄が「猪はこれからの季節が旬なんやで」と話してくれました。僕は獣に旬なんてあるのか?と思っていましたが、それもそのはず、春から夏の間にいっぱいに溜め込んだ太陽の恵みが、秋には山の恵みとして溢れ、獣達は厳しい冬になる前にそれをたっぷり体に蓄える。だから山の動物達も豊かな味になっていく…当然の話でした。
つまり、この猪も蜂蜜もここの山の味なんだなぁと、そしてその山の季節が変われば自然と味も変わっていく。春に一斉に花が咲けば蜂達が花の蜜を集め、秋になればキノコやトチの実を獣が食べる。これだけ紅葉が綺麗な洞川の山や大峰山の原生林では、色とりどりの味が混ざり合ってるはずです。なんて贅沢な山の恵みなんだろう。それ感じた時にとてもありがたい気持ちになりました。
僕はカメラマンとして、目の前にある、在るがままのものをいかに美しいと感じられるかを一番大切にしています。蜂蜜や猪に特別な味付けをする訳はなく、あるがままの山の恵みを美味しく頂くのがとても上手な阪口さんは僕のお手本の様な人だなと思いました。

「阪口商店 獣美恵堂奈良」まさに名前に偽りなく、”奈良の獣の恵みを美しく”届けてくれるお店です。

◾️阪口商店 獣美恵堂奈良 
奈良県吉野郡天川村洞川491-5 
http://www.tenkawa-hachimitu.com/

◾️あたらしや旅館
奈良県吉野郡天川村洞川215
https://www.atarashiya.com/

※あたらしや旅館さんのぼたん鍋は宿泊された方しかいただけません。その他の旅館にも下ろされているそうです。また、阪口商店でも鹿や猪の缶詰が購入できます。



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