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ひそかに毒を味わい、飲み込む『有毒植物詩図鑑』

今回紹介する本
『有毒植物詩図鑑』草野理恵子(しろねこ社)

右のページに有毒植物の絵、左のページには有毒植物のための詩が書かれている。詩が横書きなのも珍しく、図鑑として読ませている。
私はスズランが一番好きな花なのでスズランの詩がうれしかった。

生と死が丸い形をして
交互に並ぶ白い花

母の枕元にスズランを
花束にして供えて
再び幸せが訪れるように
胸が詰まって苦しい花を

『有毒植物詩図鑑』「枕元に供える(スズラン)」一部(p.10)

スズランは小さく白い鈴のような花をつける。かわいらしい見た目だが、強力な毒を持っている。花粉にも毒が含まれ、飾るときには食卓や子どもの手の届くところは避けるなど注意が必要である。

「母の枕元にスズランを/花束にして供えて」とあるのでこの母は亡くなっていることがまず連想されるのだが、私はわざわざスズランを選ぶところに殺気を感じた。だから亡くなっている人に殺気を向けるだろうか、と疑うと怖くなる。「再び幸せが訪れるように」というのもかえって不気味だ。

「ペンダントを下げる(スズラン)」は、どこか性的な雰囲気のある幼いやりとりと「彼女」を失う描写が独特で、特に最後の二行が印象に残る。

私にとって一番印象的だったのは詩は、「ボタンを外しはめる(スイセン)」。

夫と呼び妻と呼ばれる痛みが広がった
胸をかきむしる日々が続いた
痛みの増加と共に蛇は消失した

『有毒植物詩図鑑』「ボタンを外しはめる(スイセン)」一部(p.130)

読んでいない人はぜひ全文読んで欲しい。
この本の中でも特に激しい痛みを放つ詩だが、うつくしいストーリーによる詩でもある。私は結婚したことがないので共感できるとは言えないけれど、実体験による感覚が比喩になって表れていると受け取った。強い痛みを含むが、テーマの植物となるスイセンがうつくしいものの象徴として花びらを開かせているところで、苦しい描写が一転する終わり方がうまい。

『有毒植物詩図鑑』を読んでいると急に詩が書きたくなってきた。書けるものならこういうのを書いてみたかった、と思う人も多いと思う。
どうして有毒植物に惹かれるのだろう。沈黙している柔らかく繊細な生き物。それがひそかに毒を持っていると知らされたとき、そのしたたかさを妖しいと感じるのかもしれない。
毒があるのは植物だけではない。詩のなかにも常にヒリヒリした痛みや苦しみ、かゆさ、病的な感覚が表現されていて、そういう意味で詩の中にも毒が含まれている。食べてはいけないものをこっそり味わっている気分だ。危険なものに興味を持ち始めた子どもの頃の気持ちを思い出し、そんな背徳感を楽しんで読んだ。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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