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十二支とボクら

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「十二支」「令和初期っぽい」「妖怪」をテーマに書いていきます。 どのお話を読むか迷った際は、メインストーリー「黒山家の秘密」をおすすめします。
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#和風ファンタジー

序章 ー零ー

序章 ー零ー

 靴音が響く度に、からくり人形である少女の足下の血溜まりが、小さく揺れる。
からくりの少女は笑みを浮かべ、ずるずると息も絶え絶えな術者の襟をつかんで引きずった。その術者の胸部からは血が流れていて、つんと鉄臭い。
「ねー、封印の間はこっチ-?」
 少女は引きずっている術者に声をかける。だが、術者はわずかに首を振り答えない。
「ねー、こたえテヨ-!」
「……ぐ」
 わざと傷に響くように、少女は背後の男

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酉水家と私達

  私は女に生まれた。
 ただそれだけなのに、父も祖父も私は男より劣り、男より下の存在だと言う。
 女はただ男の言うことを聞き、男に媚びへつらい、ただただ男を立て男の身の回りの世話をするために生きろ、と。
 このご時世になんと時代遅れで、古くて、苔のこびりついたつまらない考えだろう、と私は思う。
 私の家では特に、男尊女卑の考え方が色濃く残っていた。それはまるで、私達にかけられた呪いのようだ。
 

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パンジー商店の福福兄弟 第1話

パンジー商店の福福兄弟 第1話

 5月。例年よりも気温が高く、もう真夏だと感じる暑さが突然襲ってきた日の午後。
 聞こえるのは古びたラジオの音声だけ。軽快な音楽とともに、DJが曲紹介をしている。
 カウンターに置かれた電話が、鳴った。
 幸申(ゆきのぶ)は「ヴォッ……」と踏まれた獣のような声を出して、受話器を取る。
「はい、パンジー商店です……ん?……いや、番号間違えてますね……はい、はーい……」
気だるげに受話器を置いた彼は、

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パンジー商店の福福兄弟 第2話

パンジー商店の福福兄弟 第2話

 猫麻呂は言った。
「十二支のうちの寅の力・・・・・・先ほどの虎の子は、その力そのものなのだ」
「十二支? 寅・・・・・・? 猫麻呂、話が見えないんだが」
 幸申は頭を抱える。何のことかさっぱりだ、と言いたげに。
「ここ十二支ヶ丘は、かつて大妖怪が暴れ、封じられた場所・・・・・・その封印が、この時代に破られようとしているのだ。十二支の力は、封印を再び施すために人間と協力する必要がある」
「寅の力が

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産女の最期

産女の最期

 ああ、これも運命か。
 わたしの役目は、ここで終わり。

 優一、最期に謝らせて欲しい。
 あなたがわたしの孫だなんてウソをついて、ごめんね。
 あなたの家族のこと、何も言えなかった。伝えられなかった。
 だって、伝えたらあなたを守り切る保証がなくなるから。
 ーーわたしがいなくなっても、強く、たくましく生きるんだよ。
 そして、あなたの家族を、必ず助けるんだよ。
 あなたならきっとできる。わた

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黒山家の秘密 第十一話

黒山家の秘密 第十一話

「っ!?」
 俺は空間の中で目を覚ます。
 汚れを知らない白に囲まれたその場所では、無数の淡い光が浮かんでは消えていた。
『起きたのね』
 声のする方を見る。オレの足下より少し離れたところに、それはいた。
 真っ白な体毛に、ブルーとイエローのオッドアイの猫。きちんと前足を揃えておすわりをしていて、尻尾はその足元に巻き付くようになっている。
『あんた、「戌」の子よね』
「そう……だけど。君は?」

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猫又の記憶の断片 その1

猫又の記憶の断片 その1

 それは、とおいとおい、むかしむかしのお話。

 あるところに、それはそれは栄えた家から逃げ出した青年がおりました。

 青年は、本来その家の人間には相応しくない力を宿しておりました。

 彼はその身に宿した「妖力」を疎まれ、蔑まれ、彼の母は彼を産んだことを責められました。

 彼は成人する頃、自分はこの家を出ていくから、どうか母だけは許して欲しい、と父の前で泣きながら両手をつき、頭を床に擦り付け

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猫麻呂の記憶の断片 その2

猫麻呂の記憶の断片 その2

 酒呑童子の妖力。それはとてつもなく強大であり、邪悪でした。

 手頃な人間、もとい、封印の警備をしていた術者に乗り移った酒呑童子。

彼は、瑞雅(みずまさ)を小脇に抱えて歩き出します。

 術者の面影はすでに消え去り、額には立派な二本の角が生えておりました。

「おい、坊主」

 瑞雅を抱えた腕を振りながら、酒呑童子は低い声で唸るように言いました。

「……」

 瑞雅は、全てを諦めた表情で何も

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