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【本】『ザ・会社改造』 (三枝 匡)

経営小説3部作で有名な、三枝匡さんの著作。
この本を読んだのは2回目です。

ちなみに3部作とは以下3冊の著書を言います。

◆「戦略プロフェッショナル  -シェア逆転の変革ドラマ-
◆「経営パワーの危機  -会社再建の変革ドラマ-
◆「V字回復の経営  -2年で会社を変えられますか-

この3冊もそれぞれドラマチックな展開目白押しであり胸が熱くなりますが、「ザ・会社改造」は、経営コンサルタントとしてではなく経営者(社長)としてミスミという会社を大改造し、業績を急拡大していくリアルストーリーが生々しく描かれています。

この本を再び読もうと思ったきっかけは、現場主導では「巨大な岩は動かせない」という現実がある一方で、経営次第では大きく変わるという事実もあり、その違いを改めて確認したいと思ったことにあります。

本ストーリーや稲盛和夫さんが立て直したJALも正に代表的な例でしょう。

私は、対話が生まれず閉塞感が充満する組織を活性化し、そこで働く社員が活き活きと働けるようになることを長い間渇望し、風土改革と言う手法にひとつの可能性を感じていました。

しかしながら、本書では以下のように記されています。

   “組織の危機感を高める経営手法は、トップが「危機感が足りない」と叫ぶことではない。経営風土を変えるために、トップが「風土改革をしよう」と叫ぶことでもない。社員の意識を変えるために「意識改革をしよう」と叫ぶ経営者は、経営能力が足りないのである。  
  私は30代に手がけた3社の経営でその無意味さを学んだ。以来、社内で危機感や風土改革といった言葉を口にしなくなった。しょせん、何も起きないのだ。   
    会社を変えるとは、経営者が考え尽くした戦略的なアプローチと具体的なアクションの切り込み方を用意し、そのうえでトップ自らが矢面に立つ覚悟で既成組織と既成価値観を突き崩していくことである。”
(三枝匡の経営ノート⑦ 組織の危機感とは より)

風土改革は否定をされています。

ただ、私はこれまで自分なりに調べたり仲間と議論したりした経験から、この文脈は以下のように解釈をしました。

▼ 経営者が風土改革“だけ”に力を入れてはいけない。
▼ 優れた経営戦略とそれに紐づくアクションプランがあれば、現場の心に火がつき、必然的に社内風土も変わる。
▼ 現場の更なる活性化のために、現場単位で進める風土改革は有効な手段となり得る。

▼ 経営者が風土改革“だけ”に力を入れてはいけない。
経営トップから「社員の意識が低い」とか「風土に問題がある」と言った類のメッセージが発せられると、会社が変わらない原因を現場に押し付けているような印象を受けます。つまりは経営責任を放棄し現場に責任転嫁していると感じます。

また、実際にトップ主導の風土改革プロジェクトがスタートするケースもあるかと思います。この場合、やり方を誤ると、経営トップ或いは全社スタッフから上意下達の指示命令が繰り広げられ、全社にやらされ感満載の失敗プロジェクトに終わるケースに至ります。風土改革は、これ自体を目的とするべきではなく、あくまでも経営改革の一部として位置付けるべきだと思います。

▼ 優れた経営戦略とそれに紐づくアクションプランがあれば、現場の心に火がつき、必然的に社内風土も変わる。
「ザ・会社改造」で三枝さんがこの著書で訴えたかったのは正にこの点ではないかと思います。つまるところは会社を良くするも悪くするも経営次第であるということです。

三枝さんは以下のようにも述べています。

    “優れた戦略の要諦とは、「絞りと集中」「シンプルな目標の提示」「ストーリー性」である。
    その戦略が社員を熱くし、社員の「マインド・行動」を動かすようになるためには、必ず作動していなければならない要素がある。それは、「リーダーによる熱い語り」「リーダーによる《ハンズオン》の姿勢」である。それによってシンプルな戦略ストーリーが、《いま、そこにいる人々》の心と行動を駆動し、皆の熱さが生み出される。”
(三枝匡の経営ノート⑧ 熱き事業集団の構造 より)

実際に、本書ではこれを証明するようなリアルエピソードが臨場感を持って描かれており、人の行動や発言、能力が向上していく様が生々しく描かれています。そしてその成果も含めて実話であるからこそ、その著者の主張は説得力を伴って伝わってきます。

▼ 現場の更なる活性化のために、職場単位で進める風土改革は有効な手段となり得る。
これは、私の持論ではありますが、風土改革の事例をいくつか見聞きした限りでは、全社を対象として推進したケースよりも、職場単位で改革を進め、効果を出したケースが多いと言う印象を受けています。現場の職場単位で抱えている組織風土の課題の解決には、「風土改革」のアプローチは最適かつ有効な手段なのではないかと感じています。

1月に聞かせていただいたある大手企業の改革事例も、職場単位での改革プロジェクトの成功事例でした。


さて、こう整理を進めていくと、感じるのはやはり、会社を変えられるかどうかはその経営者の腕に掛かっているんだなと言うことです。

ミスミと言う会社は、三枝匡さんと言う強いリーダーシップを発揮する事のできる経営者人財(プロ経営者)がその手腕を発揮し、大きく成長する会社へと育て上げました。

果たして、三枝さんほどのプロ経営者がどれほど日本で育っているのか。名だたる大企業から今後これほどの経営人財が排出されることはあるのか。

その機運を残念ながら全く感じることが無いため、悶々と自分の中で押し問答を繰り返すのです。自分にできることは何なのかとーー。


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