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食事と修行 - 永平寺での学びから変える毎日の食事時間


現代人の食事事情と課題

「今日の朝ごはん、また立ったまま食べちゃった…」
「お昼はパソコン作業しながらのランチ…」
「夜はコンビニ弁当で済ませよう」

こんな経験、ありませんか?

私たちの食事時間は、年々短くなっているそうです。朝は慌ただしく、シリアルに牛乳をかけて食べたり、コンビニのおにぎりやサンドイッチを片手に通勤電車に飛び乗ったり。昼食は仕事の合間の15分で済ませ、夜は疲れて自炊する気力もなく、出来合いのお惣菜で空腹を満たす。

サラリーマン時代の私の体験

自動車開発のエンジニアとして働いていた頃の私も、そんな一人でした。

朝は5分で食事を済ませる毎日。冷凍庫から出したご飯を電子レンジでチンして、おにぎりを握る。味噌汁はインスタント。「いただきます」を言う間もなく、立ったまま口に運ぶ。

夜勤の時は特にひどかったですね。同僚たちは大盛りのご飯を黙々と口に運び、ただ空腹を満たすだけの食事。疲れた体に栄養を補給する―そんな感覚しかありませんでした。

ただ、その頃マラソンに挑戦した時に、大きな気づきがありました。プロテインを飲み始め、少しずつ食事に意識を向けるようになったんです。すると、不思議なことに体の調子が変わってきた。食事に意識を向けることの大切さを、この時初めて実感したように思います。

永平寺での修行生活

そんな私の価値観が、永平寺での修行で大きく変わることになります。

早朝3時30分、まだ漆黒の闇が支配する時間に起床。3時40分から始まる座禅。厳かな静寂の中、ただ呼吸を整えます。5時からの朝のお経、そして6時50分からの朝食。

この朝食が、実は一日の中で最も重要な修行の一つなんです。

「カーン」

戒尺と呼ばれる拍子木の音が、静寂を切り裂きます。この一音で、すべての動作が始まる。お椀を額のあたりまで掲げ、感謝の念を表す。その後の食事中、会話は一切ありません。ただ、仏具の音だけが、次の動作の合図となっていきます。

永平寺での朝食は、必ずお粥です。40分かけて、一匙一匙を大切にいただきます。現代の感覚からすれば「贅沢な時間の使い方」かもしれません。しかし、この時間の使い方こそが、私たちに大切なことを教えてくれるのです。

たとえば、お椀に残ったお粥の一粒まで、たくあんできれいに拭い取る作法。「もったいない」という言葉では片付けられない、命への深い敬意を感じました。

五観の偈が教えてくれること

永平寺での食事で、毎回唱える「五観の偈」。これは単なるお経ではなく、食事を通じて人生を豊かにする5つの教えです。

1. 食事の由来を知る

たとえば、一粒のお米。種もみから芽を出し、苗となり、稲となって実をつける。農家の方の丹精込めた作業、精米、流通、販売。実に多くの方の手を経て、私たちの元に届きます。

コンビニのおにぎり一つとっても、米農家の方、精米所の方、おにぎりを作る工場の方、配送の方、店舗スタッフの方など、数えきれないほどの人々の手を経ているんです。

2. 自分の行いを振り返る

この食事をいただくにふさわしい行いをしてきただろうか。たとえば会社での昼食。午前中、真摯に仕事に向き合えただろうか。チームのメンバーと協力して成果を出そうと努力できただろうか。

そんな自分の行動を振り返ることで、午後からの仕事への活力も生まれてくるものです。

3. 心の在り方を見つめる

「このお店の唐揚げ、すごく美味しいから、もう一個買っちゃおうかな」
「あのスイーツ、SNSで話題になってるから、並んでも食べたい」

現代は、食べ物があふれる時代。でも、私たちの胃袋の大きさは変わりません。適量を知り、過度な欲望から離れること。これは現代の私たちにとって、特に大切な教えかもしれません。

4. 食事は薬という認識

デスクワークが多い現代人にとって、食事の選び方は健康に直結します。コンビニ弁当を選ぶ時も、野菜が多く入ったものを意識して選ぶ。カフェでランチを頼む時も、栄養バランスを考えて選ぶ。

毎日の小さな選択が、明日の体調を左右するのです。

5. 幸せな人生のために

家族との食事、同僚とのランチ、友人との食事会。食事は単なる栄養補給の場ではありません。人とのつながりを深め、心を豊かにする大切な時間なのです。

「でも、無理」という方へ

「そんな時間はとれない」
「朝からお経なんて無理」
「現実的じゃない」

そう思われた方、安心してください。永平寺での修行をそのまま真似る必要はありません。大切なのは、ほんの少しの意識の変化なんです。

明日からの実践ガイド

Step 1:30秒の深呼吸から

食事の前に、たった30秒でいいんです。深呼吸をして、目の前の食事を眺めてみましょう。お弁当なら、おかずの彩り。カフェで頼んだサンドイッチなら、野菜の瑞々しさ。まずは、目で味わう時間を持ってみてください。

Step 2:香りを感じる

一口食べる前に、食べ物の香りを意識して嗅いでみましょう。炊きたてのご飯の甘い香り、味噌汁の優しい香り。香りを感じることで、自然と食事への意識が高まっていきます。

Step 3:一口目を大切に

その香りから、どんな味わいが広がるだろう。どんな食感が待っているだろう。少しだけ想像を膨らませてから、一口目を味わってみましょう。

驚くかもしれません。いつも食べている食事なのに、新しい発見があるはずです。

Step 4:姿勢を意識する

背筋を伸ばして座ることで、自然と食事に集中できるようになります。パソコンからは少し離れて。スマートフォンは脇に置いて。その方が、食事を味わえるだけでなく、消化も良くなるんです。

おわりに

この記事を読んでくださったあなたへ。
私が永平寺での修行で学んだことは、実はとてもシンプルなことでした。

それは、「食事への小さな意識が、大きな変化を生む」ということ。

永平寺では40分かけて朝粥をいただきます。でも、現代を生きる私たちには、そこまでの時間は必要ありません。大切なのは、ほんの少しの意識の変化なんです。

明日から、あなたにも取り入れていただきたい3つのこと。

  1. 食事の前の30秒
    深呼吸をして、目の前の食事を見つめてみましょう。どんな方が、どんな思いで作ってくれたのかを想像するだけでいいんです。

  2. 一口目の気づき
    香りを感じ、味わいをイメージしてから口に運ぶ。たったそれだけで、その食事はいつもと違って感じるはずです。

  3. 感謝の気持ち
    「いただきます」という言葉に込める思い。食材への感謝、作ってくれた人への感謝、食事できる環境への感謝。その気持ちが、あなたの食事時間を特別なものにしてくれるでしょう。

食事は単なる栄養補給の時間ではありません。
人とのつながりを深め、心を整え、明日への活力を生み出す大切な時間。

その食事の時間が、少しずつでも、あなたの心を豊かにしていってくれることを願っています。

そして、もし変化を感じることができたら、また少しずつ、意識を広げていってください。焦る必要はありません。毎日の積み重ねが、きっとあなたの人生を豊かにしてくれるはずです。

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