
【プロとアマチュアの違いはどこにある?】作家の金言からひも解く(2017年4月号特集)
創作の方法編
四六時中何か面白いことがないかと考え、面白いことは記憶する。それがファイルになって、書きながらいろんな状況を瞬時にピックアップし、次々と世界を立ち上げていく。スイッチを切ると言う人もいますが、プロは二十四時間休みません。サメみたいに泳ぎながら眠っている。寝ている間もストーリーを考えています。
よくわからないまま書き始めたら三、四ページで止まってしまいました。短い文章しか書いたことがなかったから、一行一行が気になって前に進まなくて。一度放りなげちゃったんです。最初、頭から順番に書き始めたんですが、変な欲を出さず、思いつくシーンから書いてあとでつなげました。僕はこれを「あとから編集方式」と言っています。
エンターテインメントは楽しませる職業だから、読者のニーズは意識すべきですね。ただ、読者に媚びるのとサービスするのとでは歴然と違う。自分はこうしたくないけど、こうすれば読者は喜ぶだろうということで書いてしまうと、絶対読者に伝わるんです。それはやってはいけないですね。
何かが降りてくるのを待っていても、絶対降りてこないですから、一日に書く枚数か時間を決めておくといいと思います。大切なのは、とにかく小説にさわり続けること。毎日読み返すことで、自分が書いているものへの理解が深まるんです。休みの日に一気に書くというのはあまり現実的ではない。平日コツコツ書いて、土日に休むのがおすすめです。
小説は、無責任に夢想を膨らませている段階が一番楽しい。でも、こんな小説にしようと決めたあとは、書きたいことをどうやって紡いでいくかを論理的に考え続ける。書いている時間より、考えている時間のほうがずっと長いんです。それを効率よくやろうとしないで、勉強量を増やすことが重要だと思います。
私は大学を出ていないから四年間はがんばろうと思ったんです。千本ノックのつもりでやりましたね。(見るのが好きな)ストリップは人前で裸を見せてもいいくらいの体と腕がないとだめなんです。曲ばかり壮大だと、技術が追いつかない。これは小説も同じです。私は小説のことを含め、ほとんどのことはストリップから学びました。
受賞作には日本人が大好きな「忠臣蔵」のストーリーを入れました。読者を楽しませるには「目的の達成」か「謎の解明」、あるいはその両方を入れる。それが物語の本質です。目的を達成する途中に困難を設定し、ハラハラドキドキさせる。謎を持たせると答えが気になり、最後まで読みたくなる。古今東西の物語に共通します。
とにかく最後まで書くことですね。無理やりでもいいから終わらせるんです。強引にでも終わらせようとすると、話のまとめ方みたいなものもわかってくるんです。物語をどこで終わらせるかってセンスが問われる部分で、行き詰まったら行き詰まったなりに、じゃあこう終わらせようという発想の転換をするといいと思います。
梶山季之がホテルの常連客でした。彼は原稿をフロントに預け、それを私が編集者に渡していたんです。そこで、それを読んで続きを予測して書いてみたんですね。最初は全然歯が立たなかったけど、だんだん腕が上がってきてね。たまにどうみても僕のほうがいいっていう場合もあった。自信がついたし、すごく勉強になりました。
創作の心構え編
恥ずかしいから見せないという人がいますけど、そこで恥がかけないんだったら作家にはなれない。作家になりたいのか物語を書きたいのか自分に問うてみる。肩書きが欲しいだけならやめておいたほうがいい。私の場合、少なくとも仲の良かった友達を楽しませたい、物語を書きたいという気持ちが先にあった。それは胸を張って言えますね。
主人は、私は書いているところを見たことがない、いつもじっとしていると言っています(笑)。私は才能ではなく、執念深さで書き続けることができています。いま書いている世界を手放してしまったら、他に誰も書く人がいない。つかんだものは絶対に離さない。その執念深さがあれば、最後の一行がきっと書けると思います。
時間がないわけはない。早朝から深夜まで仕事をしているのなら別ですが、休日もあるだろうし、自由に使える時間はある程度はあるはず。そのとき、書くことを優先順位の一位にすること。飲みにも行きたい、付き合いもあるからと、書くことを優先順位の四番目、五番目にしているから暇がないだけ!
小説は遅咲きのオ能でけっこうなわけです。基本的に三十歳を超えないと書けないし、エンターテインメント小説は四十歳を過ぎないと書けない。オ能がなければ、やはり小説家にはなれない。音楽に絶対音感があるように、絶対文感というのがある。しかし、音楽や絵画に比べれば、文章の才能を持っている人はけっこういます。
ありふれたプロットや題材であっても、筆力があればわが事と感じさせてしまうんです。作家としてやっていくには、まずは一つ仕事を持つことです。作家は食える職業ではないことを頭においていただく。職を持つことで人生経験を深めると、それが小説に必ず反映してくるんです。生活の道を持って創作をするのが大事だと思います。
作家を目指す人は、オ能があるかどうかは一度忘れたほうがいい。才能があるから入選して、ないから落選するのだと考えると、粘りがなくなるんです。私には何か才能があるはずだ、まだ見つかっていないだけだと思うほうがいい結果につながります。
才能をいい訳にせず、粘り強く、何度でも挑戦してください。
古今東西のいろんな本を広く読む必要は、私はないと思っています。少数精鋭で二~三人の作品を徹底的に、それこそ何十年もかけて何度も読むんです。
好きだからやるっていうのが何より大事だと思います。評価だ、結果だ、賞金だ、とガッガツせずに、人生棒に振るつもりで好きなことをとことんやればいいんです。
人生の区切りである五十歳になったとき、やはり何か書き残したいと、時代小説を書き始めました。人生の哀歓を描く時代小説の世界は、負けた、経験があるほど有利です。純文学を書いていたときは、年齢がハンデなのかとひるむ気持ちがありましたが、時代小説は中高年なら誰もが持っている人生経験を生かせるジャンルです。
あなたのことは誰も知らない、あなたの書いたものは誰も読みたがらない、こういう前提を忘れないでほしい。そういう人たちに読んでもらうためにはどうすればよいかを考える。孫に囲まれて暮らす幸せな日々とかをただ書かれても響かない。そこにはやはり芸がいる。お金になる文章を書くにはコツがあると思います。
特集:刺さる文章
公開全文はこちらから!
※本記事は「公募ガイド2017年4月号」の記事を再掲載したものです。