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借り物の力を自分自身の力だと勘違いしてはいけない(『老子』五十六章)

今回取り上げるのは『老子』五十六章からの言葉。

得て貴くすべからず。得て賤しくすべからず。
(読み:エてタットくすべからず。エてイヤしくすべからず)

『老子』五十六章

権力を得たからといって偉ぶったり、卑屈になったりしてはならない、という意味。

つまり、立派な人物は初心を忘れず、外部から与えられる地位や権力に振り回されない、ということですね。


役職があがったり、部下が増えたりすると、以前よりもできることが増えてきます。

大きな金額を動かすようになるかもしれませんし、組織の一部を任されるようになるかもしれません。

人によっては優越感に浸ってしまうこともあるでしょう。

しかし、地位や権力というものは人間が作り出したもので、あくまで人間社会でのみ通用する相対的な価値観です。

地位が高くなったからといって、人としての本質的な価値が向上するわけではありません。

外から与えられたものというのは、言ってしまえば一時的に借りているようなものです。

その人の本質に備わっているものではないので、外から簡単に奪われる可能性があります。

驕れるもの久しからず

『平家物語』

太政大臣になった平清盛は、自身が誇る栄華に油断してしまい、その結果、平家は儚くも滅亡してしまいます。

外から与えられたものは、同じく外からの力で奪われてしまうのです。

力に振り回されて、自分自身がすごい人物になったと勘違いしてはいけません。

与えられた力を自分のものにするためには、それに見合った努力が必要です。

室町時代の著名な能役者、世阿弥の『花鏡』には以下のようにあります。

是非の初心忘るべからず。
時々の初心忘るべからず。
老後の初心忘るべからず。

『花鏡』世阿弥・著

未熟だったときに習った、芸の判断基準を忘れてはいけない。
年齢に相応しい芸に取り組もうとする場合、最初は誰でも初心者で未熟なものだ。そのときの気持ちを忘れてはいけない。
老年になってから初めて取り組む芸もある。芸の道に完成はないということを忘れてはいけない。

という意味。

つまり、どんなときでも自分が未熟だったころの気持ちを忘れずに精進しなさい、ということですね。

これは現代でも同じです。

仮にも役職がついたりするということは、これまでの自分の努力が他人から認められたということだと思います。

その初心を忘れてはいけません。

人はいつだって未熟で未完成です。

実績を上げたり、昇進したりしたからといって、それで人として完成するわけではありません。

いつだって初心を忘れず、謙虚な気持ちで行動していきたいと思います。

得て貴くすべからず。得て賤しくすべからず。
(読み:エてタットくすべからず。エてイヤしくすべからず)

『老子』五十六章

立派な人物は初心を忘れず、外部から与えられる地位や権力に振り回されない、という言葉。

外から与えられた力を自分のものと過信すると、外部の環境の変化で簡単に失ってしまいます。

自分の本質的な価値を向上させるためには、与えられたものに油断せず、初心を忘れずに努力することが大切です。

自分はいつだって未熟であるということを忘れずに、謙虚に日々努力を積み重ねていきたいと思います。


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