指導と育成の違い
みなさんの中には、管理職として部下を指導し育てる責任を負っておられる方もいらっしゃると思います。「『部下育成』は管理職の重要な責務である」ということで、評価項目に取り入れられているケースもよく見てきました。そのこと自体は重要なことで、管理職者に部下をしっかり育てる意識を持ってもらうことは会社にとって非常に重要です。
しかしながら、部下に対する「指導」と「育成」とを区別せず、なんとなく曖昧にしていることも多いと感じます。「育成」とは具体的にはどういうことを指すのか、何をすることが部下育成につながるのか、ということを明らかにしなければ、管理職者は実際に何をすればよいのかわからないと思います。
私たちは、「指導」と「育成」とをこのように分けて考えています。まず「指導」ですが、これは部下が取り組んでいる日常業務を指揮監督し、業務上の成果をあげられるよう導くことだと捉えられます。業務上のPDCAサイクルをしっかり回し、無駄な作業や脱線をしていないか、効率よく業務を進められているかどうかをチェックし、必要に応じて指示を出して正しい方向に軌道修正します。基本的には「指導」のベースは「業務」であり、部下本人はあくまでもその業務を遂行する立場として指導を受ける、と考えるとニュアンスが分かりやすいと思います。
しかし「育成」はこれと全く違います。育成とは、部下が仕事を通じてスキル・マインドといった面で向上し、ビジネスパーソンとして成長するよう課題設定して導くことを指します。つまり「育成」は「業務」でなく「部下個人」が主体であり、単なる日常的な業務指導の延長ではありません。
育成を行う上で重要なことは、なんとなく場当たり的に進めるのではなく、中長期的な視点に立って目標設定し、具体的な手法を決定して計画的に実施していくことです。部下の志向や適性を見極め、また会社として望ましい成長の方向がどのようなものであるのかをしっかり認識したうえで、本人との共同作業で目標設定することが重要です。
そしてどのようなスキル・知識を身に着けていくことが必要なのか、そのためにどのような職務経験を積む必要があるのか、あるいはどのような機会を得て学習していくことが望ましいのかといった、具体的な手法まで落とし込むことも重要です。その意味では、育成は管理職者が孤軍奮闘して出来るものではなく、会社全体の取り組みが重要であるとも言えます。
ぜひ指導と育成の違いをしっかり認識して、会社全体として人材育成の取り組みを強化していって頂きたいと思います。