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『詩』八月 ⎯ 蝶の通る道 ⎯

蝶の通る道がある
蝶と妹と三人で
少年は愉快に駆け比べをする
道のそこここで白百合が
懸命に伸びをしてそれを見ている


白百合が祈りに似ているのは
八月だからだ
少年が複葉機に似ているのは
八月だからだ
(決してドローンなんかでなく)


妹が前に出ようとすると
少年がそれを押し止める
狂気という名の短剣が
少年の懐で汗に濡れる
八月でさえなければ ⎯⎯


駆け比べは終わったろうか
息を弾ませながら
少年は蝶と妹に笑顔を向ける
片袖で汗を拭いながら
妹も少年に笑顔を見せる
八月がふたりを包み込む
蝶はどこへ行った?


少年は妹に
道の向こうを指し示す
わだちの真ん中に雑草が伸びて
それは輝くタワーとなって
果てない列となって
霞のなかに消えている


そのとき少年は思い出す
自分が蝶であったことを
妹が蝶であったことを
妹が懐かしい歌を口ずさむと
少年の懐で短剣が
古いオルガンの音色に変わる
歌に合わせて
どこやらから蝶が戻ってくる


八月のまんなか
ここは蝶の通る道なのだ




日本人にとって八月はやっぱり特別な月なのだとおもいます。
そんな気持ちを詩にしてみました。




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