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『詩』永遠(とわ)に

私たちは歩き続けてゆきました 満月の
冷たく照らし続ける道を
あんまり月が明るすぎるせいで
照らし出された道だけが
遠くいざなっているように 白々と
ただ真っ直ぐに伸びていて
おかげで闇が黒々と
一層深く 暗鬱なのでした


戸口に下がったランプを頼りに 道の脇の
私たちは杣人そまびとの家で水を求め
暗闇の奥に 何ものかの
咆哮にときには怯えながら 私たちは
歩き続けてゆきました
満月は ときには木々の陰になり
ときには不意の黒雲に
光を遮られながら 私たちを
見捨てることはありませんでした


大きな獣の背のような 丸い
盛り上がった丘が私たちを 近々と
月に寄せてくれることもあれば
谷が深く切れ込んで
満月から私たちを遠ざけようと
目論んでいることもありました
けれど そんなときには代わりに道が
満月を受けて輝いていて 私たちは
歩き続けることができるのでした


たどり着いたその建物が 私たちの
実に 目的だったのでしょうか?
上部にロココ調の飾りのついた 見上げるような
フェンスの門扉はひんやりとして 月光が
今しも滴っているかに見えました
その重い門扉を私たちは
皆でゆっくりと押し開き 建物まで続く広大な
イギリス式庭園に足を踏み入れました
すると満月は
庭全体を照らし出し
刈り込まれた庭木が迷路のように
黒々と影を落としました 建物まで続く
白く輝く道の上に


庭木や花壇を巡るように
庭園の道は曲がりくねって 私たちを
建物から遠ざけているかのようでした
そんな道を 煌々と
満月が照らし出していましたが
目の前にある建物は
白大理石で造られていて
満月が照らし出している道よりも なお一層
真っ暗な深い夜を背景に 白銀しろがね
浮かび上がっているのでした


その建物が <知恵 あるいは創造>と
呼ばれているということを 私たちは
たぶん以前から知っていました けれど私たちは
いつまでたっても建物に
近づくことができないのでした
刈り込まれた庭木のあいだを私たちは
行きつ戻りつを繰り返し そうやって
幾度も園内を巡ったあとで
ふと誰かが気づいたのです
建物に近づくすべを見出すことこそ
<知恵 あるいは創造>なのでは と
私たちは立ち止まり
深い感銘を受けたように 建物の上の
大きな満月を見上げました それは
どこまでも夜闇よやみが続いているのと同じように この庭では
永遠とわに掛かり続けているように
そんな具合に見えるのでした




昨日9月17日は十五夜でしたね。満月について書こうと考えながらなかなかイメージが湧かず、日本のそれとは程遠いものになってしまいました。
満月を、以前から撮影しようと何度も試みては失敗しています。タイトル画像は自分の撮影ではありません。写真に撮るのは難しいものですね。

自宅から車でさほど遠くないところに「月見の森」という自然公園があって、その前の国道はたびたび通るのだけど、肝心の「月見の森」には一度も行ったことがありません。別の目的地に行く際通るときは、寄り道をするには微妙な距離だし、わざわざそこを目指して行く気にもならないのだけれど、そのうち行くときが来るかなぁ・・・




今回もお読みいただきありがとうございます。
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