辻邦生 フランスと芸術を愛しつづけた作家、その著作ラインナップ
辻邦生作品についてのnoteを開設して1ヵ月、ここまで短編8つと長編1つのレビューを書いてきました。この辺で、その全著作についてあらましをご紹介したいとおもいます(ただ喋りたいだけ)。
辻邦生さんはフランス文学者であり、その方面の教授でもいらっしゃいました。なので、フランス文学には全くの門外漢である僕などが語るのは、本当は大変おこがましいのだけれど、ま、好きこそナントカで、ここは著作物の全体のご紹介と特徴についてお話します。よろしくお付き合いください(別に無理強いはしないけど、<ぜひ!>読んでね ニコニコ)。
1.小説/物語性に富んだ巨大な長編、美しく香気漲る短編
●長編小説
辻邦生さんと言えば何を置いてもまずは長編小説です。そのラインナップがこちら。(並び順は本来は刊行年順にすべきところだけれど、そこは<僕が>ご紹介するので、<僕の>ベスト順で)
・『春の戴冠』
イタリアルネサンス期の画家、サンドロ・ボッティチェルリを主人公に、メディチ家の繁栄と衰退を描いた一大歴史小説。とにかく長い! 平均450ページの文庫本で4分冊!(中公文庫) でも辻文学の中では最高峰だと僕はおもってます(詳しく書きたいよぅ・・・でも書かない。いずれレビューを書くときまで・・・書けるかなぁ・・・いつになるやら)。
・『西行花伝』
読んで字の如く、主人公は西行法師。これで、僕は本格的に短歌に目覚めました。これもぜひ読んでいただきたい一冊。読んでっ! ぜひ!(あ、ごめんなさい、つい力が入ってしまふ・・・)
・『夏の砦』
僕が初めて読んだのがこれ。もう何回読み返したことやら。おかげで(何のおかげ?)単行本1冊と文庫本を2冊持ってます。ちなみに、辻邦生さんの小説の2/3ほどは単行本と文庫本の両方持ち。持ち歩いて読むのと、蔵書用と。あと、古くなったら新しく買って、古いのも残して・・・あ、うざい?
・『眞晝の海への旅』
まひるのうみ、と読みます。海洋冒険もの。と言ってもそこは辻邦生さんなので、哲学的思想がふんだんに盛り込まれてます。学生の頃友人に薦めたけど、読んでくれなかったなー(涙)。
・『背教者ユリアヌス』
はからずもローマ皇帝になってしまったユリアヌスの一生。これも膨大な長さだけど、結構好きな人がいらっしゃるようで。
・『雲の宴』
フランス、日本、アフリカを舞台にした、長編としては珍しく現代もの。そして男女の恋愛もの。
・『廻廊にて』
これはレビューを書きました。『夏の砦』の前段になるような小説です。と言っても、設定は全く違うけれど。
・『嵯峨野明月記』
安土桃山時代から江戸時代にかけて、「嵯峨本」を手掛けた3人の人物の情熱。
・『安土往還紀』
辻邦生さんが描く織田信長!
・『天草の雅歌』
長崎通辞が巻き込まれる事件と恋。
・『樹の声 海の声』
明治から昭和にかけて生きた女性、逗子咲耶の恋愛遍歴。大河ドラマと言ってもいいくらい、これも長大です。
・他
『銀杏散りやまず』『フーシェ革命暦』『時の扉』『光の大地』『のちの思いに』
●短編小説
短編についてはいちいちあげているときりがないので、特徴的なものについてお話します。
辻邦生という人は、確か『献身』でも書いたとおもうけれど、かなりいろいろな試みをされた方で、なかなか一筋縄ではいかないんですねー(と、これからレビューを書くのにハードルを下げておく)。
連作短編
実はこれをどう扱うか、今そこで迷っておりまして。辻邦生さんは、この連作短編という手法がお好きだったようで、結構使われているわけです。ひとつひとつは独立した短編として読めるけれど、全体として大きな共通のテーマあるいはモチーフの中に含まれている、と。その代表作がこれ。
・『ある生涯の七つの場所』
虹の七色にそれぞれ主題を持たせ、色ごとにいくつかの短編をまとめることで、全部で100の短編を書く。これを15年かけてやられたわけですね。すごいですねー、15年。一度も途切れることなく続けられたわけです。さてこれをどうするか・・・
それから、12の絵画からインスピレーションを得て書かれた2つのシリーズ、
・『十二の肖像画による十二の物語』
・『十二の風景画への十二の旅』
こちらは文庫では一つにまとめられて『風の琴』という美しいタイトルがつけられています。
同じような趣向で山本容子さんの銅版画とコラボした花の物語、
・『花のレクイエム』
さらに、上記の『十二の⎯⎯』の日本画版とも言うべき、歌川貞芳の9枚の浮世絵に想を得た、
・『江戸切絵図貼交屏風(えどきりえずはりまぜびょうぶ)』
もう一冊、音楽とのコラボ、こちらはCD付き。
・『楽興の時 十二章』
こんなのも。6つの都市と宝石と運命の女性。
・『夜ひらく』
こちらはちょっと変わったオムニバス。
・『天使の鼓笛隊』
海外の作家をモチーフにしたパロディー
パロディー、とご本人はおっしゃっているけれど、どれも着想の面白さが光る物語です。
・『睡蓮の午後』
・『黄金の時刻(とき)の滴り』
初期短編小説
レビューを書いた8編はみなここに入ります。他にもページ数にして4ページ程度の掌編から、随想風のムードだけのもの、怪談めいたものなど。ちなみに学生の頃に書かれた習作めいた短編『遠い園生』にちなんで、辻邦生さんの命日(7月29日)は「園生忌」と呼ばれています。
その他
・『もうひとつの夜へ』
これは中編と言ったほうがいいかもしれない作品です。
・『黄昏の古都物語』
2.エッセイ、評論、レビュー、対談など
辻邦生という人はとにかく「書く人」で、そのために立ち机があったというくらい。座ると寝てしまうから、立ったまま書けるように用意してあったというんですね。晩年はリューマチを患ってもおられたようです。小説家っていう人は、皆そんな感じなんでしょうか?
にもかかわらず、映画や音楽の造詣は深いし、大学で教鞭を取っていらっしゃったし、ヨーロッパへは行くし・・・加えて、趣味は哲学! それらの集大成がこれらのエッセイや評論です。
このエッセイも、多くは『辻邦生エッセー集』のような形でシリーズ化されています。
エッセー集
・『海辺の墓地から』・『北の森から』・『霧の廃墟から』
・『季節の宴から』・『風塵の街から』
紀行エッセー
・『時の終りへの旅』・『美しい夏の行方』
・『地中海幻想の旅から』・『私の二都物語』
その他エッセー
・『永遠の書架にたちて』
・『時刻(とき)のなかの肖像』
・『遥かなる旅への追想』
・『美神との饗宴の森で』
・『海峡の霧』・『微光の道』
・『風雅集』・『辻邦生が見た20世紀末』
など
評論
・『小説への序章』
・『橄欖の小枝』(芸術論集)
・『トーマス・マン』
・『情緒論の試み』・『薔薇の沈黙 リルケ論の試み』
レビュー
・『私の映画手帖』
・『美しい人生の階段〜映画ノート』・『幸福までの長い距離〜続映画ノート』
対談、書簡、講演など
・『若き日と文学と(対談北杜夫)』・『灰色の石に坐りて(対談集)』
・『手紙、栞を添えて(水村美苗往復書簡)』
・『若き日の友情(北杜夫往復書簡)』
辻邦生さんと北杜夫さんとは無二の親友どうしでした。初めて小説が書けたらどんなに自信がないものでも北杜夫にだけは見せることができた、辻さんはそんなふうにおっしゃっています。上記の対談でもこの往復書簡でも、互いに切磋琢磨していた様子がありありとうかがえます。
・『言葉が輝くとき』(講演集)
・『言葉の箱 小説を書くということ』(講演集)
3.童話、戯曲
童話
・『ユリアと魔法の都』
児童文学者の今江祥智さんに言わせると、「さすがの辻邦生も童話はイマイチ」とのことだったけれど、さて・・・実はこれ、僕はまだ読んでいないので。今江先生はそちらに関しては厳しいお考えをお持ちだったので、それに引かれて今まで読まずじまい。
戯曲
・『ポセイドン仮面祭』
4.翻訳
・クリストフ・バタイユ
『安南』『アブサン』『時の主人(あるじ)』
クリストフ・バタイユは若干23歳でドゥ・マゴ文学賞を受賞したフランスの作家でした。でした、というのは、辻邦生さんが翻訳に関わったこの3冊以外(おそらく)日本では知られていないから。他に作品があるのかどうか、わからないですしね。辻邦生さんとは対照的に、短い単文節を連ねてイメージを描き出す作家でした。
・『コクトー/アラゴン 美をめぐる対話』
5.その他
・『my Mozart』
モーツァルト没後200年、木之下 晃氏の写真と辻邦生さんの文章で、モーツァルトを偲んだもの。
・『生きて愛するために』
・『人間が幸福であること/人生についての281の断章』
・『愛、生きる喜び/愛と人生についての197の断章』
辻邦生さんの小説やエッセイには、生の喜びや人生観をうたった言葉がいくつも出てきます。そういった言葉を集めたものが上記の2冊です。
・『物語の海へ〜辻邦生自作を語る』
没後20年経って再編されたものです。
小説以外は実は読んでないものもあったりします。まあ辻さんご本人が、評論は小説が雑誌に載るほど嬉しくはない、とおっしゃってますしね(そういう問題じゃない!)。
以上、辻邦生文学の外観でした。これからどの作品をご紹介するか、<ぜひ!>お楽しみに・・・してくれる人、いらっしゃるかなぁ・・・よろしくです。
辻邦生作品の読書感想文をあげている方がおられるので、以下にご紹介。1年も前の記事もあるけど、気にしないでね、お書きになった方も。
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