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『詩』九月生まれのあなたへ

九月生まれは優しいと
いつか聞いたことがある
終わりそうで終わらない夏と
始まりそうで始まらない
悩ましげな秋との狭間はざま
あなたはどんな意志を持ったのか


科学的に言えば
地軸が傾いているために 太陽が
赤道の真上にある季節
それが春と秋なのだそうだ
日差しが平等に降り注ぐ そうしたことが
あなたの優しさの源なのか?


フランスを愛して止まなかった
あの小説家は
九月に生まれ
九月に初めての小説を書いた
溢れ出る言葉は泉のようで
激しさはないが 煌めきと
強さと豊かさに満ち満ちていた


九月生まれのあなたはいつも
何かしら 小さな出来事を前にすると
ほんの少しの涼やかな涙と
はにかむような微笑みを見せた
コスモスの花に取り囲まれた
あなたの小さな恥じらいを
私は今でも覚えている


九月にどんな力があるのか
私は知らない
金木犀や竜胆や
春には気高さを負って立つ薔薇も
秋には柔らかな笑顔を見せる
それは センチメンタルなどではなく
夏を越えてきた故の 厳しい
慈愛に満ちた姿なのだ


風に揺れるすすきの原や
青空を映す高層ビルの
窓の下の喧騒や あるいはまた
傾いたバス停のある港町を
侘しく けれど晴れやかに
私はひとりゆくとしよう
誰もが不安に苛まれた
あなたの九月をおもいながら
それでもきっと
どこかで大人になっている
九月のあなたをおもいながら




9月24日は辻邦生さんの生誕日でした。そんなことも含めて、こんな詩を。




今回もお読みいただきありがとうございます。
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