標高3000mの大散歩_立山縦走 ①前章〜奇跡の空
前章
富山県の立山室堂。
この場所、この景色にはご縁を感じていて、ここ3年ほど毎年のように訪問している。
10年ほど前に家族でツアーで訪れたときも、室堂の景色に心が沸き立つものがあった。ハイキング装備をこの時少し揃え始めた段階だったが、立山雄山はまだ「眺める」存在だった。
2018年に涸沢へチャレンジ(この時は勢いだけ)した後、次に登ってみたい場所として雄山が頭に浮かんだ。富山の小中学生が遠足で上るという話を聞いていたこともあり、不可能ではない気がした。
2019年8月に初めてのチャレンジの機会が訪れた。この日は雲ひとつない晴天。一の越までは進めたものの…雄山にとりつき10分ほど登り始めた時、強風に煽られながら下を見下ろした時の高度感に足がすくみ、「登れたとしても下山できない」と感じた。
下りのルートに移るのも恐々で、室堂に戻った時に膝の激痛が生じ、撤退は正解だった。
室堂山の展望台から、立山三山、五色ヶ原、その奥の奥黒部の山々…アルプスの絶景を望みながら、納得する気持ちと、天候含めたせっかくの機会を逃したこと、(観光がてら気軽に登るような人も多いのに)自分にとっては簡単じゃないんだという無念さが混在していた。
この時から、立山に登るということへの思い入れ、執着みたいなものが生じたのかも知れない。
2021年に涸沢の再チャレンジに成功し、次こそはと思った。この時、様々な山行記録を眺めながら…雄山山頂からの絶景、特に剱岳の勇姿を眺めたいと思うようになった。
2022年8月末に計画を実行した。この時も気候が不安定で、直前までスケジュールを調整して翌日の晴天予報を信じて雨の日に室堂へ移動した。しかし、登山を開始してもずっと霧と小雨の中。山頂も深い霧に包まれ、眺望はゼロ。でも、雄山に登頂できたことで一歩前に進めた、と思った。
どうしても剱岳を見たくて同年秋に奥大日岳を目指すも、夜行バスでの強行スケジュールだったこともあり、高山病のような症状が出て途中で撤退し紅葉の室堂散策に計画を変更。この時も途中から膝痛が強くなった。
雷鳥沢から室堂に向かう裏道のようなところをゆっくりと歩き、時折座って立山の稜線をずっと眺めていた。この日も素晴らしい晴天だった。ここを歩いている人がたくさんいる。そう思うと、自分もいつかは…という気持ちがどうしても湧いてくる。
私にとって、高山歩きのハードルはとても高いと認識した。なのになぜか、諦めることができなかった。
そして昨年、奥大日岳に登り、ついに剱岳の勇姿を目の前にすることができた。
その時の体感からも、立山縦走はまだ現実的ではないと思った。
でも、奥大日岳から絶景を眺めるだけではまだ埋まらない何かが心に残っていた。
今年の春、複数社の登山ツアーを眺めていると、クラブツーリズムの立山登山ツアー(2泊3日)が目に入った。ツアーだとペースが合うかどうか微妙だが、行程は良さそうだったので予約をした。
自分だけのペースで歩きたいのが本音なので、別日程でも宿を確保した。室堂平で泊まりたいところだが予約が埋まっており、毎年のようにお世話になっている雷鳥荘をまた予約した。
今年7月に燕岳へ登った時も、山頂から360度ぐるりと山々に囲まれた絶景を眺め…立山三山がくっきり見えた時、心が動くのをはっきりと感じた。
やっぱり行きたいんだな、と思った。
そして…ツアーに参加して改めて思ったのは、今度はもっと自分の感覚を重視して行動を決めたい(撤退も含め)ということ。そしてツアーはキャンセルした。
今年は立山室堂に熊情報もでていた。
そして迷走台風🌀…
直前まで悩み…数々の予報の中から私が信頼している“ヤマテン”(山の天気予報)で、縦走予定の日のみ晴れ間が出るかもという予報を確認し、まず室堂に行ってみて当日の天候でどこまで進むか判断することに決めた。
事前にさんざん考えたけれど、ここまできたらあとはその時の巡り合わせでどうするか決めよう。変化に対応しよう。そこに意味づけは必要ない、と思った。
移動当日の朝
大宮から上越新幹線に乗るつもりで出発したが、埼京線が途中で10分停止。早朝でもあり乗り換え時間は15分ほどの余裕しかなかった😓おお、5分で移動か…
大宮駅での乗り換えルートをスマホで調べたところ…なんと、乗り換え口へ一番近い階段にぴったりの号車・ドアの位置にすでに座っていることが判明✌️
急足で2分ほどで新幹線ホームに到着できた。
・・・次回からは、往路はケチらずに上野乗り換えにするか、20分以上の余裕を持たせよう。
もうひとつ。
富山駅でのトイレから出た時、右足の登山靴の靴紐のループが反対側の登山靴に引っかかり、足を取られて派手に転倒。右の顔面と膝を強打した。
直前に、他の人の山ファッションが気になっていた😂
・・・自分のことに集中しよう。
・・・靴紐の処理はきちんとしよう。(もちろん登山中はしているつもりだが)これはフラグみたいなものか?と思った。
雨の室堂へ到着
日本中が迷走台風の影響を受けている中、上越新幹線も立山黒部アルペンルートも順調に運行。
小雨が降っていたが、稜線上の雲は薄いのか、いつもお隠れのことが多い剱岳も車窓からくっきりとその姿が確認できた。
頭の中では、明日の登山がどこまでできるのかをずっと心配していた。
そんな“今ここにいない自分“に気づいた時…
今考えたって仕方がない。どうせ直前に決めるんだから。そう思った。
2年前にもこのバスに乗った…その時、雨の中を走っている方々がいた。
マラニック、というトレランの大会だった。そんな記憶も蘇ってきた。
12時前に室堂ターミナルに到着。まだ時間がたっぷりあるので、(何度も室堂に訪問しているのに初めて)ホテル立山のラウンジりんどうに入ってみた。
小雨が降るものの、稜線は見えていた。しばらくのんびりしよう、と思った矢先、天狗平の方からガスが上がってくるのが見えた。
急いで支度して10分後に外に出たら…あたり一面真っ白。
その数分後にはまたガスが移動して…目まぐるしく景色が変わっていった。
雷鳥荘にて
らいちょう温泉もいい湯だ。夕方に向けて晴れる予定⁉︎なので、まず温泉に浸かってゆっくり待つことにした。キャンセルが相次いだとのことで、とても静かな空間だった。
16時を過ぎて、外が明るくなってきた。待っていた散策タイム✨
日の入り予定時刻は18時19分。夕食は18時から。
食べるのが早いので、20分もあれば食べ終わるだろう…明日も早いので先に食べよう。
食事中に窓の外を見ると…立山に夕陽が当たって光り出した。
アーベントロードには間に合わないだろう。でも正直なところ、席を立って見に行きたい気持ちはあった。急いで食べ終わって外に出ると…
ものすごい空になっていた。
台風がもたらした奇跡だ。
今まで見た夕焼けの中で、間違いなく最高だった。
若い男性数名のグループの会話も聞こえていた。どうも山小屋の仕事をしているようで“今日休みにしておいてよかった““いいねこの色“と話していた。
こんな若い人たちが自然の美しさを素直に喜べること、それが嬉しかった。
素晴らしすぎる光景に直面して…なぜか挙動不審になりそうな自分がいた。
嬉しいのに、なんだかそこにいてはいけないような感覚が混じっていた。
半ば混乱しながらもちゃんと逃げずにいたら…そのうちそこに居続けることができるようになった。
そして、あたりが暗くなるまで、じっとそこに居た。
20時前にも、外に出てみた。
星が見えた。
夏の大三角形、北極星、北斗七星、カシオペア、蠍座が見えた。目が慣れてくると、天の川も見えた。
家族で室堂に泊まったのは10年あまり前。子供が小学4年生の頃で、解説の方が説明をしてくれて、勉強したものがそこに見えることを子供と一緒に喜んだ。そんなことも思い出した。
ああ、最後に星を見たのはいつだろう。と思った時、込み上げるものがあった。
星を見る、ということ自体、忘れていたのかもしれない。
夕焼けと星、それだけでもここに来てよかった。
明日はどんな日になるのだろう…