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すべてのエッセイ好きに愛を|赤染晶子『じゃむパンの日』

1月27日に天王寺のスタンダードブックストアで開催された
『じゃむパンの日』刊行記念トーク 津村記久子x加藤木礼x中川和彦
に行ってきた。

10月にも津村さんと歌人の岡野大嗣さんのトークイベントに行き、ついに憧れの津村さんに会えた喜びと、スタンダードブックストアの素敵な本に囲まれる幸せでいっぱいだったので、今回もうきうきと会場に向かった。

本を書く人、本をつくる人、本を売る人

刊行された『じゃむパンの日』は、2010年に芥川賞を受賞され、三冊の著書を残し、2017年に逝去された作家の赤染晶子さんのエッセイ集。

加藤木さんは大手出版社から独立し、1人で出版社palmbooksを立ち上げ、記念すべき1冊目として『じゃむパンの日』を刊行された方である。過去には津村さんの担当編集者もされていたそうだ。

正直に言おう。私は今回、津村さんに会いたい、ただその一点を目的にトークイベントに行った。
失礼ながら『じゃむパンの日』を読んでいないどころか赤染さんのことも存じ上げておらず、予備知識0の状態で3人のトークを聴くこととなった。

穏やかで物静かな(だけど絶対パンクな精神性をお持ちな気がする)加藤木さんを挟み、津村さんとスタンダードブックストアの店長である中川さんが大阪弁でブワー!っとステレオで喋りまくるのがおかしい。それだけで笑ってしまう。

そしてこの本について、あまりにも、あまりにも愉快に、すごい熱量で話されるので、最初はポカンと聞いていたが、次第に赤染さんの人生や、残された数少ない著書にむくむくと興味が湧いてくる。

津村さんは「生まれ変わったら赤染さんの世界の住人になりたい」と2回もおっしゃっていた。
とにかく幸せな気持ちになれる本らしい。

様々な角度から本に携わる人たちが、1冊の本、1人の作家についてこれだけ熱く語り合う時間なんて、どんだけ贅沢なのだ。

帰りにはもちろん『じゃむパンの日』と津村さんの『まぬけなこよみ』文庫版のサイン本、そして今回特別に大阪のパン屋・パンデュースが作られたという〈オトナのじゃむパン〉を購入し、ふくふくとした気持ちで帰路についた。

じゃむパンの中身を開いてしまった

帰りの電車で早速『じゃむパンの日』を読み始めたところ、赤染さんの世界観に、いきなりぐぐ!と惹きこまれた。

な、なんだこれは!?というのが序盤の感想。
エッセイだけど短編小説みたい、と津村さんも評していたが、謎の世界観に脳みそがぐらぐらする。
もう、語彙力がなくて悲しくなるが、とにかくおもしろい。おもしろいのだ。

読み進めていくうちに、この本の中の世界に存在する人々や土地が愛おしくてたまらなくなる。
こんな切り口、こんな言葉があるなんて…と、赤染さんの表現の才能にただただ感激。

笑いながら、ほっこりしながら、じんわりしながら、一編一編を読むたびに、愉快で暖かく幸せな気持ちになれる。

最後に収録されている、岸本佐和子さんとの交換日記なんて、もう、おもしろいを通り越して笑い過ぎた末に腹と頭を抱えた。
お2人は正真正銘の芸人である。

エッセイの力を信じていい。

私は好きな作家さんや芸人さんのエッセイも、noteで読めるみなさんの何気ない日常に関する記事も大好きだ。

すごく大袈裟なようだが、『じゃむパンの日』は、そんな日常のよしなしごとを綴るエッセイたちがこの世に存在する意味みたいなものを、全身で体現してるような本だった。

大きなドラマは巻き起こらないし、ともすれば掃いて捨てられるような地味な日常。
それでも、ただ人が生きている普通の日常が、ことばを通じて輝き、誰かの心を暖かくしたり、救ったりするのだ。

本の中で生き続けるということ

この本に登場する舞鶴の祖父の伊八郎や、好きな言葉は「何くそっ」のお祖母さん、京都一遠慮する裏のおばちゃん、美術館音声ガイドのおっちゃん、右折上手の教習所の猫さん、ドイツ人のしずかちゃん、お寺の珍念さん、そして赤染さん。

今この世にいる人もいれば、いない人もいるだろう。そんなことを思うとホロッと一瞬切なくなるが、それを上回るほどの鮮やかな「生」がここにはある。
本の中で生き続けるって、こういうことなんだな、と感じることができる。

大切に作られ、売られる本は、誰かの宝物になる

この本は、装丁もかなりこだわられており、掌におさまるノートのような、少女の手帳のようなデザインだが、背中の製本テープはすべて内職さんが手作業で貼られているとトークショーで加藤木さんが語られていた。

紙の質感も、紙と製本テープの境目の感触も、すごく心地よい。ずっと触っておきたくなる。

当たり前のことだが、一冊の本にはたくさんの人が関わっている。

こんなに素敵な本を出版してくださった加藤木さん、そしてこの本を店頭に置き、イベントを開催し、私みたいな何も知らない者に価値を広め、パンまで用意してくれた中川さん。
そして大好きな津村記久子さんを通じて新たな出会いを果たせたこと、すべてに心から感謝したい。

今朝食べたパンデュースのじゃむパンは、泣きたくなるほど美味しかった。
すっぱくて甘くて、ふかふかで、すぐに口の中で溶けてゆく。
ちなみにネタバレになるが、本の中でじゃむパンが登場するのは一瞬である。しかも妄想。

そして今日1日かけて一気に『じゃむパンの日』を読み切ってしまい、異常な熱量で、文字数なんか全く気にせず今この記事を書いてしまった。

わたしは本を読んだ時、湧き上がってきた感情や満足感を自分の心の中でおさめておくことの方が多いが(自分の言葉でアウトプットすると途端に貧相になってしまう気がするので…)、
珍しくこの本に関しては、そんなこと関係なく、とにかくいろんな人に読んでほしいと思った。

palmbooksの由来通り、手から手へ、本を通じて豊かな人生が手渡されることを願う。

きっとみなさんの本棚に、宝物が一冊追加されることになるでしょう。

津村さんのサイン本。ペルシャねこやで。
これも間違いなくトップクラスの宝物。

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