北野赤いトマト

エッセイと小説を書いています。 note創作大賞2022入賞。

北野赤いトマト

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    創作したもの

  • 真夜中シリーズ

    眠れなくなったら、無理に寝ようとはしないで、映画やドラマや本や音楽を楽しむシリーズ。

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    私の宝物を集めたマガジンです。ご紹介いただいた作品を大切にマガジンします。

  • ドライブインなみまシリーズ

    いらっしゃいませ! この『ドライブインなみま』は、オムニバス形式の小説でストーリー展開しています。お読みいただければ、とても嬉しく思います。

  • 小数点以下の感情(0.999…)シリーズ

    日常に感じる小数点以下の感情(0.999…)を綴るシリーズ。

最近の記事

幽霊も蒼氓も呑み干す闇で。

早朝、ひさしぶりに幽霊にあった。 この町は田舎のため、街灯はあったりなかったりで、もしあったとしても、その間隔はだいたい40mから50mくらいだ。だから、その間隔の最中は本気の闇夜が瞬いている。むかしの人々は、街灯のない夜を提灯のせつない光を頼りにでこぼこの道を歩いていたと思えば、私は舗装された道を歩けるから暗いだけならなんてことはない。 いつも通りの早朝に歩いて、歩いて、息が上がると歪んだ気配を感じた。いつもは見もしない校庭を見ると、垣根を挟んで10mくらい先でなにかが

    • てのひらの闇をあたためる。

      立冬。不機嫌なカナシミでいっぱい。 とめどなく噴き出すカナシミも立冬で凍らせてほしい。もし凍りついたとしても、立春の陽気に溶けて、また立夏には盛大に噴き出して、またまた立秋に不機嫌なカナシミでいっぱいになるだろう。 この繰り返し。 この狭窄した視野では、カナシミだけしか掬えない。 蛇口をひねれば新鮮な水がでること、お腹が空けば食事が摂れること、清潔なトイレが使えること、温かいお風呂に入れること、清潔な服が着れること、暖かい布団で眠れること、そんな当たり前ではない恵まれ

      • 花壇の果てにみる静かな狂乱。

        蛙の喝采が聴こえた。 それは、私の耳を滑走し脳幹へ直接響いた。脳幹は言語野よりも耳に近く、脳みその中枢にあるから言葉で腑落ちしたというよりも、身体的感覚で察知した。だから、予兆に言葉は存在しない。 ただ、「雨が降る」とコンマの速さでこの体へ降ってきて、言葉よりも切実に伝った。すぐに渇水に呻る私へ沁みわたる。 それは、庭の花壇にもしんしんと伝播した様子で、冷たい風が吹いて雨の告知を滞りなくすませた。それぞれの鉢に植る花と、どこから来たのか分からない野草や野花も、ちりちりと

        • ゴジラの骨。

          観ること、読むこと、聴くこと、書くことから遠ざかっている。すべてがこの心身から滑り行く。それは蝋を塗った敷居の上を滑るようにあまりにもスムーズで、私のフックに引っかかくることなく、流れて、流されて、いま遠くの水平線にいる。 いろいろなことが乱視状態で、目を凝らしても輪郭線は二重でとても曖昧だ。 映画館は彼方の無人島。テレビのレコーダーは腹十二分目。本は積読の雑居ビル。音楽はお経。 日常は慣性の法則で、進化しているようで退化しているのかもしれない。それでもねことの絆は強靭

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        記事

          カッスカスなって、ばかやろう #呑みながら書きました

          もう、夏、終わったやん。しらんまに終わったやん。なんもしてないやん。ただ毎日「あっついなあああ。」て言うてただけやん。汗かいてただけやん。不快指数かんじただけやん。じぶん、しっかりしいや。 そう言ってやりましたよ、じぶんに。 どうも、おひさしぶりです。調子の悪い北野です。みなさん、お元気ですか? そういう気分で書いております。 ひさしぶりの #呑みながら書きました で緊張してる。お茶すすりながら書いです。noteから遠のいた気がするけども、ひさしぶりに呑み書きに参加さ

          カッスカスなって、ばかやろう #呑みながら書きました

          生意気なねこの重さ。

          生意気なねこを抱くとその重さは私の体と和合した。しんしんと、ごく自然に、最初から私の体の一部だったような居心地で。しかし、生意気なねこは1分後に「ううう。」と唸った。私の一部になったはずなのに「いますぐ解放すれば咬まずにゆるしてやる。」と言わんばかりに不服そうな声音だ。 私は仕方なく生意気なねこをそっと床へ置いた。すると、生意気なねこは一目散に部屋の出口へ走ったあと、こちらを振り返り「にゃあああん!」と大きな声を出した。私はそれが「ばかやろう!」に聞こえて、生意気なねこらし

          生意気なねこの重さ。

          カルデラの辺りへ。

          馬の目は優しかった。私の内にある誰も気がつかない深く赤い業を見透かしているような野生の視線はゆるやかな風にゆれていた。馬は笑うでも怒るでもなく平穏な表情で私から視線を逸らすと新緑が溶ける草原を歩いて行った── 高熱と頭痛と喉の痛みにボーっとしながらそんなことを思い出した。涙がこめかみを通り抜けた。特に泣きたい理由もないのに。ドクっと流れた。 コロナに罹患した。いままで手洗い嗽マスク消毒を心がけて北野感染症予防対策をしていたのに、簡単に罹患した。 母が「エアコンのせいかな

          カルデラの辺りへ。

          ドライブインなみま|小説 アジフライ定食編

          健康な土の上へ落ちた種みたいに胡座をかいて、不健康な煙突からあふれる煙みたいに紫煙を夜に蒔く姿は、野良だった。野生の青々とした閃光が放つ逞しい辛辣も、人肌の柔和な温もりが放つ愛日の甘露も、どちらも深く知り得たうえでどちらも自らが放棄して独歩する、野良。たぶん唐突に雨が降ろうが風が吹こうが雷が鳴ろうが動じることはないだろう。とはいえ、きれいに整えた髪、短く切りそろえた爪、左右均等な歯並び、皺のない白いTシャツ、深い色をしたインディゴジーンズ──その人から放たれる印象はとても清ら

          ドライブインなみま|小説 アジフライ定食編

          Summer has come!!

          知らぬ間に夏になっていた。道端で上半身裸のおっさんが「夏が来たあああ!」と叫んでいたから夏なのだろう。おっさんはマッドサイエンティストが手当たり次第に毒物を調合したような恐ろしい色をした団扇を持って生温い空気を混ぜていた。私は、それ何色?ハード通り越してバリカタやん!超マッド!と思うと、私の純情な感情もリズミカルな手足も0.5秒戸惑ったけれど、なるべく何食わぬ顔でマッドサイエンティスト団扇おっさんの前を通り過ぎて近くにあるドラッグストアへ入った。その自動ドアからはみ出た冷たい

          θは鋭角とする。

          アルデンテみたいなサクッとした芯があるひだまりの中で、ふうが笑った。「にゃふううん。」と息のついでにうれしさが体からこぼれ落ちたその音と表情は、深く深く満たされていた。私は、ねこは笑わない、と言う人がいるけれど、ねこだって感情はあるのだから笑うときはある、と思っている。 ふうの微笑みを見ていると、私もうれしさが体から自然とこぼれ落ちた。そして、私たちは顔を見合わせながら笑った。お互いの言葉すら理解していないのに。けれど、私たちの間で言葉はいらなかった。この瞬間は立派なことを

          θは鋭角とする。

          あたたかいづうづうしさ。

          大きな災害や事故が立て続けに起こった正月。私はテレビの前で茫然とした。このことを語ろうとすると膨大な感情は体内をぐるぐると渦巻くだけで、それを濾過して言葉にできずにいた。漏斗に詰まった言葉たちはガラクタになり私の心は錆びていく。私はただ四角い画面の中に収まりきらない現実に打ちのめされた。そしてそのうちになにをしても心ここに有らずになった。読書をしても目から文字がすべり落ちるし、音楽を聴いても耳がばらばらに音を拾うし、noteを書こうとしても手が動こうとしなかった。あからさまな

          あたたかいづうづうしさ。

          2023年のごあいさつ。

          淡い大地へ朝陽が差します。朝陽は「差す」よりも「刺す」が正しい気さえするほどに頑丈で、余すことなくきらきらしていました。そして、そのうちにたっぷりと横溢して地面や建物や草木に色をつけていきます。 私は、朝になれば映画が始まるときみたいに小さな期待で起き上がり、夜になれば暗い帳に「The End」と書かれたような気がして素直に眠りに就く──を繰り返しているような気分です。そして、昨日の自分からバトンを受け取りしっかりと握り走ります。それはまるで、リピートアフターミー、みたいに

          2023年のごあいさつ。

          南京玉すだれにヌーヴェルヴァーグを感じて最終的にはゲシュタルト崩壊してマティスの作品になる。 #呑みながら書きました

          師走に入っても「冬はやって来るの?」って感じの気候でしたが、いよいよ本格的に寒くなりましたね。これぞシン・冬って感じがしますよね。私は冬が好きでついつい雪上を駆け回るとびきり元気な柴犬みたいにしっぽをぶん回して歓んでいます。 うおおおお!冬、サイコおおおおおお! って。それに12月になるとアレがあるからもうウキウキ。第18回 #呑みながら書きました があるんです。3ヵ月に一度の酔いどれたちのお祭りが開催されるということで私も参加します。マリナさん、いつもありがとうございま

          南京玉すだれにヌーヴェルヴァーグを感じて最終的にはゲシュタルト崩壊してマティスの作品になる。 #呑みながら書きました

          Independent Women.

          乾風が吹く夜空は、星たちが瞬きながら小さな光を放っていた。部屋を暗くして窓から見るそれは、漆黒というよりも蒼ざめた闇があちこちを染めていて、そして、それら以外は私の輪郭すらも容易く崩していくのだ。 私が女として生まれたのは先天的に母の腹の中で「神様!はい!はい!私は女になりたいです!」と挙手した訳ではない。小さな卵子が精子と受精し細胞分裂を繰り返して私の形ができあがった。そして、私はそのことに対して特に文句はないが、細い産道を通る際に胎動により首へ臍の緒が巻きついて産まれ落

          泡が消えるそのまえに。

          すこし目を細めて淡い紫煙をくゆらせた顔。 家族や友人と冗談を言い合うおどけた顔。 もくもくと何かを考えている顔。 最近の私は父をよく思い出す。記憶の中にいる父のフィルムを引っ張り出して映写機へかければ、映像は速度を増して色鮮やかによみがえる。そこへ映る父のいろいろな表情は、どれも刹那的で「ああ、父だな。」と確信に変わり、こころの底がじわーっと熱くなる。 そのフィルムから父らしい朗らかに元気な表情を切り取るとしたら、ビールを飲んでいる瞬間だろう。 父は毎日晩酌していた

          泡が消えるそのまえに。

          さっくりした熱々はとろりと口腔内を征服する。

          恋を何年も休んでいる。恋に恋焦がれ恋に泣く(by GLAY)なんて滅相もございません、と畏まって深く一礼するくらいに恋に疎くなった。それでも私は重力に従い歳を重ねていくうちに、恋がなくてもいい体になった。 「そうなってしまったらお終いよ。」 母はそう嘆いているけれど、こればかりは仕方がないのだ。堕ちる先のない恋を待ち続けて焦燥するよりも、凪いだ日常にとっぷりと肩まで浸かって「ふええ。」と息が漏れるくらい満たされている今がいちばん過ごしやすいのだ。 そんな私を見ていると苛

          さっくりした熱々はとろりと口腔内を征服する。