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静 霧一/小説
2021年8月12日 22:01
才能なんてもの、僕にはなかった。頭もそんなに良くはないし、運動も出来ない。人前には出ることも出来なければ、根暗であった。何をやっても上手くはいかない。それが僕だった。苦い思い出なら、数えられないほど持っている。そんな僕が、ライブステージに立ったあの日までを書いていく。少しでも、今頑張っている人の力になれれば、それだけで僕は嬉しい。①学生時代いじめの経験学生時代、それはもうとこと
2021年8月11日 21:46
人はみな、幸福と不幸の狭間で揺れている。どちらかに身体を傾ければ、簡単にそちらへと転がり込むのだ。幸と不幸を二分すれば、50:50になるはずだ。それであるのに、僕らの周りは不幸な人で溢れている。お金がない、友達がいない、愛がない、楽しみがない。口を開けば"不幸だ"という人がほとんどだろう。この世界の現実は、10:90の割合で不幸な人なのだ。幸せに絶対的な尺度はない。その人が
2021年8月10日 23:08
7月1日、午前0時。30歳の誕生日を迎えると同時に、私の手は半透明に透けてしまった。手首から先の輪郭がぼやけ、手のひら越しに、外の景色が見える。半透明であるためか、肌色交じりに星空が映っているせいか、とても綺麗とは言えない景色。そうかと思えば、普通に物は握れる。私の手は、なぜ半透明になってしまったのだろうか。頭の中にはぐるぐると悩みが旋回している。そんなとき、ふと私の視線は本棚
2021年8月9日 21:25
健康診断の帰り道。渋谷駅から少しばかり離れた場所に足を進める。喧噪の街並みの音が次第に消えていき、古い民家を吹き抜ける風の音が、昔ながらの趣の音を心地よく鳴らしている。そんな宮益坂の路地裏にひっそりと佇むのが、珈琲店『茶亭 羽當』である。①茶亭 羽當1989年9月に渋谷の宮益坂下に誕生した『茶亭 羽當』は、30年以上営む老舗の珈琲店だ。昔ながらの趣をそのまま閉じ込めたようなお店からは