- 運営しているクリエイター
記事一覧
【願いの園】第二章 06(1)
ちょうどサスペンスドラマで犯人が追い詰められるような崖に降り立った。いや、隠岐の摩天崖のように鋭く突き出て切り立っていると言った方がいいのかな。とにかく、先端にいる。下が巨大な湖になっていて、数百メートルはある。落ちたら死ぬ高さだ。
森の境界線は崖から随分と離れていて、仮にムカデの登場に狼狽してしまっても落ち着きを取り戻せるだけの余裕はありそうだ。
「きっつ」
と悪態をついて吉岡さんは勢いよ
【願いの園】第二章 02
「こんばんは、藤田さん」
気づくと目の前に兎梅ちゃんが座っていた。学生服らしき姿で、歓迎とも迷惑とも取れない平坦な声と表情だ。その背後にはシックな内装――管理棟のラウンジと確認でき、奥にはガラスの壁があって、遠景に草原と雲海が見える。挨拶に対して真っ昼間の明るさだった。
ちゃんと『願いの園』に呼んでもらえたようだ。
昨日と逆で、入って左側の席にいるのだけど、これは単純に来客用と呼び出し用で分
【願いの園】第二章 01
アラームがけたたましく鳴っている。
寝惚け眼には見慣れた天井。朝だった。
なんだか凄く疲れる夢を見た気がする。凄くだるい。二度寝したい。早く夏休みになればいいのに。怠け者な私とは対照的に枕元ではスマホが一生懸命仕事しており、うーんとうめきながらガシッと掴んでアラームを止めた。入れ替わるように蝉の声が聞こえてきて、起きなきゃなぁと。ふわあ、とあくびしながら部屋を出る。
午前七時前であり、汗をかく
【願いの園】第二章 00
端的に言って、私は彼女が嫌いだった。
まず協調性がない。
決して空気を読まない訳じゃないけど、「これだけやったら十分でしょ?」と言わんばかりに最低限しかやらない。合唱祭とか体育祭とかみんなで頑張ろうってときにも冷めた顔して適当に流して。本気でやってる人だっているのに平気で踏みにじる態度が本当にムカつく。
とはいえ、これは仕方ないと理解してる。嫌がる人に無理させるのも違うし、向き不向きだってあ
【願いの園】第一章 07
いつの間にか、芝の上に立っていた。
広々とした青天井、広々とした平地。まるで雲海に浮かぶように円形の土地であり、私はそのふちに立っている。
そしてその中央――前方数十メートル先に、平たい丸缶のような建物が立っていた。窓からして三階建てで、白を基調として、ホテルのように豪奢な外観をしている。
「あれは管理棟です」
左隣から少女の声があった。さっきの少女だけど、その服は小学校の制服のようなものに
【第一章】06(2)
「ありがとう」
そう伝えて手を下ろしてもらった。
目元を拭って、息をつく。
「さて」
彼は切り替えるようにして明るく言った。
「島の心臓部に向かいましょう。どうせこの上ですし」
ドキッとして顔が強張った。だってそれは、物語のクライマックスを迎える場所。
終わり……。
「藤田さん?」
心配そうに覗き込む河西くん。
「だ、大丈夫」
咄嗟にそう答えてしまった。
「では行きましょう」
「…………
【願いの園】第一章 06(1)
この島の街並みは中心部に向けて変化していく。端っこは油っこく無骨な世界。そこに、豪快かつ華麗なバロック様式のような装飾が多くなっていく。例えるなら飲み屋街に美しい彫刻が設置されていくような感じ。
私たちが下車したのはそれがちょうど半々ぐらいのところだった。
「ここに来たら、行く場所は一つですよね」
間違いない。私は大いに頷いた。
私たちは列車でショートカットしてきたけど――アニメでもカットさ