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「感情に価値を!エモーショナル・マーケティング」

こんにちは!
人は物を買う時に、感情で決めている割合が高いらしいです。今回はそんな理論をテーマに『うさ×ゆき』のストーリーは始まります!

●今回のテーマ
エモーショナル・マーケティング
(Emotional Marketing)●
感情に訴えかけることで、より強力な印象や記憶に残るメッセージを作れるという理論。

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【日常の小さな挑戦とエモーショナルな気づき】

 朝、薄く曇った空の下、古い造りのマンションの一室に日差しがうっすらと差し込む。築年数がそこそこ経っているらしく、床は木目のフローリングで微かな軋みを感じ、窓際には中古家具店で買った花柄のカーテンが揺れている。ユキはまだ半分寝ぼけ眼で、小さな溜息をつく。

「うーん……今日も、会社だぁ……」

 社会人2年目。中小企業の販促担当を任されてしまったOL、ユキ。短大を卒業してから就職した中小の食品メーカーで、最近「販促企画」を考えるポジションを振られたが、まったく成果が出ない。ポテトチップスの空袋が転がるテーブルを横目で見ながら、慌ただしく洗面所へ向かう。歯を磨き、少し寝ぐせの残る髪を整え、コスメを慌てて塗る。スーツジャケットは少しくたびれているが、これが現実。

「ユキ君、今日も早いねぇ」
 声の主は、その部屋の片隅で丸まっている“うさぎ”。白くてフワフワな毛並み、優しそうな瞳。しかし、このうさぎはただの愛玩動物ではない。もともとは有名大学でマーケティングと心理学、そしてAI応用を研究していたという「うさぎ先生」なのだ。何かの因果か、闇の組織に狙われてウサギの姿に変えられてしまい、ユキが道端で拾ってしまった――そんな奇妙な成り行きで共同生活が始まった。

「先生、おはようございます……はぁ、昨日も新しい販促案、ダメ出しくらいました」
「ふむ、上司は何と言っていたのかい?」
「“もっと目立つアイデアを出せ”です。割引クーポンを配っても、SNSで宣伝しても、何をやってもパッとしなくて……」
 ユキはため息まじりに、うさぎ先生のケージを開ける。普段はケージといっても扉は開けっ放しで、先生は自由気ままに部屋を歩き回れる。柔らかな絨毯の上をぴょこぴょこと跳ね、先生はユキの足元に近づく。

「ユキ君、人が商品を手に取るとき、何がきっかけになると思う?」
「えっ? 美味しいからとか、便利だからとか……理屈ですよね?」
 ユキは首をひねる。食品メーカーの商品はたしかに味は悪くない。値段も手頃。ただ、他社との差別化が難しく、消費者の記憶に残らない。一度は試してもリピートしてくれない人が多い。

「それもあるが……人は、感情で動くんだよ」
 うさぎ先生はウサギとは思えないほど落ち着いた声で語る。
「感情、ですか?」
「エモーショナル・マーケティング、とでも言おうか。理屈よりも、心に触れるストーリーや共感が、人を動かす大きな原動力になることが多いのさ」

 ユキはピンと来ない顔をするが、出勤時間が迫っているため深く問えずに家を出る。職場までの通勤路は懐かしい商店街を抜ける道だ。古い和菓子屋、豆腐屋、おもちゃ屋、そして少し寂れた喫茶店。昭和の香りがかすかに漂い、子供の頃に祖母と歩いた記憶が頭をよぎる。そういえば先生が言っていた「感情で動く」――この懐かしさも感情の一種だろうか。

 会社に着くと、上司は早速声を荒げる。「ユキ、次の広告案はどうなった?」
「まだ……まとまっていません。でも、今日はちょっと違うアプローチを考えてみようかと」
「お前なぁ、そろそろ結果を出さないと困るんだよ。競合はどんどん新製品をPRしているというのに、うちは遅れを取ってるんだ」
 プレッシャーに押され、ユキはデスクに座り頭を抱える。

 昼休み、ユキはスマホを見ながらSNSでの宣伝方法を考える。割引情報や商品の成分表をいくら並べても、閲覧者は「へぇ」で終わる。そこに、人を引き込む物語があれば……例えば、商品の背景に何か温かいストーリーや、ユーザー自身が感情移入できるエピソードがあれば、印象は違うのかもしれない。

「……試してみるか」
 ユキは思い立ち、企画書に「子供の頃、朝食で家族みんなが食卓を囲んだ思い出」とか、「遠方の祖母から届いた手作りお菓子」にまつわるシーンを書き加える。今回売ろうとしているのは、新作のスティック状菓子だ。単に「甘くておいしい、持ち歩きに便利」ではなく、「忙しい朝でも、ふと小さい頃のぬくもりを思い出せるひと口のおやつ」として打ち出してみるのだ。

 退社後、ユキは急いで帰宅し、うさぎ先生に結果を報告する。
「先生、ちょっとアイデアを変えてみました。子供の頃の思い出に寄り添う感じで、お菓子にまつわる短いストーリーをSNS投稿に添えたんです。今週中に実施する予定で……反応、どうかな」
「いいね、ユキ君。人は商品の裏側にある感情的価値に心を動かされることがある。まずは試してみたまえ」

 翌朝、SNSに投稿された広告には小さな変化が起きた。閲覧者から「懐かしい感じがいいね」「子供の頃を思い出した」「ちょっと食べてみたいな」といったコメントが散見される。大きなバズではないが、明らかに前回までと違う優しい反応が返ってきた。購買数はまだ微増程度だが、社内でも「ちょっと良さそうじゃないか」という声が出始める。

 ユキは嬉しい反面、不思議な手応えを感じていた。
「これって本当に効果があったの? それともたまたま流れが良かっただけ?」
 仕事帰りにスーパーに寄って小腹を満たすためポテトチップスを買いつつ、そんな疑問を抱える。しかし、うさぎ先生は言う。

「ユキ君、運だけではこうはいかない。君が『相手が求める感情』を考え、それを商品に紐づけたからこそ、微かな反応が生まれたんだ。まだ小さい成功だが、確実な一歩だよ」
「でも、自信がつかないんです。私はまだまだ素人で……」
「焦ることはないさ。大事なのは、感情を理解し、そこに『価値』を見いだす視点。君はもう入口に立ったんだ」

 ユキはその夜、畳んだ布団の上で、スマホを眺めながらぼんやりする。外では、遠く電車のガタンゴトンという音が聞こえ、部屋にはわずかな蛍光灯の明かり。懐かしい、どこか昭和っぽい情景の中、ふわふわのうさぎ先生が部屋を跳ね回る。こんな不思議な同居人がいる生活は滑稽だけど、悪くない。

 そして、ユキは気づく。自分もまた、“感情”に動かされている。上司に怒られて落ち込み、先生に褒められて少し元気になる。ポテトチップスを買うときだって、別に栄養計算をしているわけではない。食べたい、リラックスしたい、その気持ちが行動を決めている。
「そっか……人は感情で動く。私もそうなんだから、お客様だってそうだよね」
 ユキはそう自問自答し、第一幕を終えるようにまぶたを閉じる。薄暗い部屋で、ほんの少しだけ自信の芽が芽吹いていた。


【壁にぶつかる挑戦と感情の理解】

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