パンの焼き色と炭水化物 note食品学 1食目
パンを作る時に必要な材料の一つに砂糖があります。甘ーいパンでなくても砂糖を加えて生地を作ります。
なぜパンを作るとき、砂糖を入れるのでしょうか?
みなさんがクッキーを作るときに使う砂糖は「グラニュー糖」ですか?それとも「上白糖」ですか?
パンもクッキーもレシピに書いてある材料を入れて作っているだけだなと思った人は、
・パン作りに砂糖を使う理由
・クッキー作りで「グラニュー糖」「上白糖」を使う理由
をぜひ考えてみてください。
今回のnote食品学の中には、その答えのヒントが書かれています。今回は、砂糖を含めた「炭水化物」について学んでいきましょう!
炭水化物POINT
①炭水化物の定義と分類
②単糖類の構造と性質
③オリゴ糖の性質
④多糖類(デンプン)の性質
①炭水化物の定義と分類
食品成分を化学物質として捉え、化学的な定義をまず考えていきます。
炭水化物は、カルボニル基と2個以上のヒドロキシ基を持つ化合物と定義されています。
ある特有の性質を持つ原子の集団を官能基と呼びます。
ヒドロキシ基は、水酸基とも言われる官能基で(ーOH)で表されます。
カルボニル基も官能基の一つで↓のようなケト基やアルデヒド基が含まれます。
構造の中のカルボニル基がアルデヒド基のものをアルドース、ケト基のものをケトースと呼びます。
そして、炭水化物の分類はこのような感じ
炭水化物=糖質だけではなく、「食物繊維」も含めて炭水化物の仲間なんですね。
ここでAction!!
家の中から炭水化物が多く含まれている食品を探してみましょう!
どんな食品が見つかりましたか?
上白糖を見つけてきた人も昆布を探してきた人もいるかもしれませんね?
皆さんの家の中には炭水化物が含まれる食品ってどのくらいあるのでしょうか?
②単糖類の構造と性質
ブドウ糖ともいわれるグルコースや、果物などに含まれる果糖といわれるフルクトースは炭素が6つ結合した「六炭糖」といいます。
六炭糖を水に溶かすと、その水溶液中では99%が環状構造になって存在します。残りの1%が鎖状構造として存在します。
この1%だけ存在する鎖状構造の時に現れるカルボニル基が、糖質が関わる食品成分どうしの反応において、とても重要な役割を果たします。
単糖類は、フェーリング反応により赤色の酸化銅を沈澱させる還元性を示します。この還元性は、単糖類のアルデヒド基やケト基に由来するもので、還元性を持つ糖を「還元糖」といいます。
この還元糖が持つカルボニル基が、食品中のアミノ基(アミノ酸)と反応することでアミノ・カルボニル反応(メイラード反応)という食品成分間の反応が起こります。みなさんの身の回りの身近な食品でアミノ・カルボニル反応を感じるのは、パンですね。
朝のパン屋さんの前を通ると、いい香りがします。そして、そのパン屋さんを覗くと、焼きたての褐色のパンがずらーっと並んでいます。
あのパン屋さんの「香り」とパンの「褐色」は、アミノ・カルボニル反応によって生成します。詳しくは、食品成分間反応の回でお伝えしますが、食品中に存在する主に糖質由来のカルボニル基と、主にたんぱく質・アミノ酸由来のアミノ基が反応することによって、香気成分と褐色物質を作り出します。
あの茶色いパンの色は、焦げついたのではなく、化学反応によって色づき、そして良い香りを放っているんですね〜
良い香りを放ち、美味しそうな色をしたパンを作るためには、還元糖の存在が欠かせません。
このようにパンの色と香りに関係するアミノ・カルボニル反応にとって、食品成分中のカルボニル基は大きな役割を果たします。鎖状になった際にアルデヒド基やケト基を露出する単糖類は、エネルギー源としてだけでなく、調理科学においても重要な存在なんです。
③オリゴ糖の性質
オリゴ糖は少糖類ともいわれる単糖が数個結合した糖です。デンプンを分解して得られるマルトース(麦芽糖)や牛乳に含まれるラクトース(乳糖)は単糖が2分子結合した二糖類と呼ばれます。
グラニュー糖の主成分のスクロース(ショ糖)は、グルコースとフルクトースが結合した二糖類です。
ほとんどの二糖類が還元性を示しますが、スクロースだけは還元性を示さない非還元糖です。これは、それぞれ還元性を示すグルコースのアルデヒド基とフルクトースのケト基どうしで結合しているため酸化されず、鎖状構造になることができないため還元性を示すことができません。
しかし、スクロースを酸やインベルターゼという酵素で加水分解して得られる転化糖(グルコースとフルクトースの等量混合物)は還元性を示します。
皆さんの家で「砂糖」といえば、上白糖のことを言うかと思います。日本では上白糖=砂糖ですが、世界で多く使用されている砂糖は「グラニュー糖」です。
グラニュー糖も上白糖も主成分はスクロースですが、上白糖では、少量の転化糖が混合されています。転化糖は、単糖の混合物なので、グラニュー糖では還元性がなかったのが、上白糖では含まれる転化糖によって還元性を示すようになります。
皆さんはクッキーなどの焼き菓子を作る時には「上白糖」を使いますか?それとも「グラニュー糖」を使いますか?この2つの「砂糖」には、転化糖の有無がもたらす違いがあります。
お菓子作りの際に転化糖を含む上白糖を使うと、アミノ・カルボニル反応により褐色物質を生成し、焼き色がつきやすくなります。それとは逆に転化糖を含まない非還元糖のスクロースの純度ほぼ100%のグラニュー糖を使うと、アミノカルボニル反応は起こらず、焼き色がつきにくくなります。
このためお菓子作りなどの際、焼き色をある程度しっかりつけたい場合は上白糖を使い、焼き色をあまりつけたくない場合にはグラニュー糖を使い、という使い分けができます。
また、上白糖は表面に水分を保持しているため、グラニュー糖を使ったものよりも仕上がりがしっとりした食感になります。また甘さも両者で違いがあるため、それぞれの「砂糖」の違いを知った上でお菓子作りをするのもおもしろいですね。
④多糖類(デンプン)の性質
デンプンは植物が光合成によって作り出す貯蔵多糖であり、グルコースが多数結合した高分子化合物です。
理科の実験で経験する「ヨウ素デンプン反応」で使われるデンプンです。これが植物にとっても、ヒトにとっても重要な物質となっています。
デンプンは、その結合様式によってアミロースとアミロペクチンにわかれます。グルコースがα1.4結合した鎖状構造をしているのがアミロース。アミロースの所々でα1.6結合して枝分かれするのがアミロペクチンと呼ばれます。
普段皆さんが食べるご飯。使っているお米のデンプン含量を知っていますか?おそらく「うるち米」を使ってご飯を炊いて食べている人が多いと思います。
一方で、お餅を作る時に使う「もち米」という種類のお米もあります。「うるち米」と「もち米」では、アミロースとアミロペクチンの含まれている量に違いがあります。
うるち米のデンプンは、アミロースとアミロペクチンの比率が2:8なのに対して、もち米のデンプンは100%アミロペクチンです。
アミロース含量が低く、アミロペクチン含量が多い米は炊いた際に粘性が増します。もち米がうるち米に比べて粘性が高いのは、デンプンの比率によるものなんですね。
お米を食べる時、炊飯器や土鍋で「炊いて」食べると思います。この「炊く」という調理操作では、お米のデンプンにどのような変化が起こっているのでしょうか?
炊く前のお米の中のデンプンは、生デンプン(βデンプン)といい、ヒトの消化酵素で消化しにくく、水にも溶けにくい構造をしています。その生デンプンに水を加えて火にかけると、デンプンに水が侵入し、膨らみ、さらに加熱を続けることで構造が崩壊して、デンプンが「のり状」になります。このデンプンがのり状になることをデンプンの糊化(こか)といいます。糊というのは「のり」とも読みますね。ご飯を炊くと、まさにデンプンが「のり化」しているんです。
糊化デンプンのことをαデンプンというので、糊化は「α化」ともいいます。
この「α化」という言葉。どこかで聞いたことありませんか?
災害備蓄食や山登り用の食事で使われる「α化米」このα化は、まさしくデンプンの糊化のことを言っています。
α化米は、米を炊いてデンプンをα化させ、急速乾燥することによって、そのα化の状態を固定させた乾燥米飯のことをいいます。
この「急速乾燥」が実はポイントで、ゆっくりと乾燥させるとα化は固定されず、次第にβデンプンに戻ろうとしてしまいます。このことをデンプンの「老化」といいます。ご飯を放っておいてかた〜くなってしまったことはないでしょうか?あの時起こっているのがデンプンの老化です。老化したデンプンは消化できないので、食べるには、再加熱するなどまたα化する必要があります。
炊飯器で保温にしたまま一晩置いておいたご飯が黄色くなった経験をした人もいるかもしれません。
あれは米のデンプンとたんぱく質がアミノ・カルボニル反応を起こして褐色物質を作った結果、色がついているんですね。
ここでも食品成分が関わる化学反応が起こっています!
最後に
炭水化物について学んできた今回のnote。
・パン作りに砂糖を使う理由
・クッキー作りで「グラニュー糖」「上白糖」を使う理由
を考えるヒントはありましたか?
食品学は、普段の生活の中に多くの学びが存在する学問です。ぜひ調理をしたり、お菓子を作ったりするとき、また食事や食材の買い出しの際に、「食品」に目を向けて、そこに含まれる成分や反応について少し考えてみてください。
自分の目で見て、頭で考え、作ってみて、そして食べてみる。この経験をどんどん積み重ねていくことが管理栄養士となった時のあなたにとって役に立つはずです。
最後に今回のnoteの内容を復習できるテストを用意しました。
力試しとして、理解度確認チェックとして、リンク先から挑戦してみてください。
それでは、ごちそうさまでした。
【参考文献】
食品学ー食品成分と機能性ー 久保田紀久枝・森光康次郎 東京化学同人